物騒な性格
帝国建国500年祭まで1箇月を切った。「順調に」とまでは言えないが、それでも準備は着々と進んでいる。式典の段取りも決まり、エルフの王、ドワーフの王、トカゲ王国の「王」など、出席者には皇帝名で招待状を送った。パーティーでの出し物や料理なども決まり、これは、ツンドラ候にとっては残念だけど、極めてオーソドックスなものに落ち着いた。
式典が近づくにつれ、帝都の街中にも活気が出てきたようだ。帝国政府主催の500年祭とは別に、住民も自発的に建国500年を祝い、様々な行事を催すらしい。町のあちこちに色とりどりの旗やのぼりが立てられ、ちんどん屋が頻繁に街中を行き交うようになった。
わたしは馬車の窓から、そんな光景を眺めながら、
「町中すっかりお祭り騒ぎね」
すると、プチドラは、何やら懐かしげな表情を浮かべ、
「そうだね。雰囲気は100年前の400年祭の時みたいだよ」
「お祭り騒ぎ…… 暗殺には、お誂え向きかもね……」
「えっ!?」
プチドラは、ギョッとして大きな口を開けた。もちろん本気ではない。でも、われながら、物騒な性格だこと……
ちなみに、式典の段取りによれば、皇帝が随行員を従えて帝都郊外にある歴代皇帝の廟まで往復する際には、見物人でごった返した帝都の街中を通ることになる。したがって、決死隊を人混みに忍ばせ、折を見て皇帝の行列に突入させれば、ほぼ確実に皇帝のタマを取れる。警備に万全を期すなら、少なくとも皇帝が街中を通過する間だけでも、町人の外出を全面的に禁止すべきだと思う。実は、このことは実行委員会で主張したのだが、
「皇帝陛下の威光を世に知らしめるためにも、外出禁止令は絶対に認められない」
と、警備の責任者ドラゴニア候が猛反発し、わたしがいくら「危ないから外出を禁止しましょう」と言っても聞き入れられなかった。
それどころか、わたしが警備の話に口を出したのがよほど気に入らなかったのか、ドラゴニア候はますますいきり立ち、
「帝都は我が騎士団の精鋭が完全武装で警備している。ダーク・エルフのテロリストであろうとゴブリンやオークの大群であろうと、決して寄せ付けたりはしない!」
「でも、万が一ということもありますし、魔法で奇襲を受けた場合、騎士団では何かと不自由でしょう」
「父上を籠絡したうえに、我が騎士団まで侮辱するか!!」
ドラゴニア候は拳で机をドンと叩いて立ち上がり、今にもつかみかからんばかりだった。
結局、この件は帝国宰相の裁定により、万が一の魔法攻撃に備えて魔法アカデミーの魔法使いが上空から遠巻きに皇帝とその随行員を見守り、有事の際には適切に対応するということで、決着がついた。でも、なんだかちょっぴり、むかつく……




