最近の日常
ダーク・エルフと契約を交わしてから、怪しい物音はしなくなった。執事や使用人は、わたしが館に巣食う怪物を退治したと思っているようで、態度も以前とは違ってきたように見える。身分相応に敬意を払うのは当然だけど、それ以上に、何か、超人的なものを見るような、畏敬の念といったものを感じているみたいな……
でも、本当のことは知らせないでおこう。使用人が知ったところで意味はない。どんな組織でも、トップしか知らない秘密はあるものだから。
ダーク・エルフの話はさておき、帝国建国500年祭実行委員会は定期的に開かれていた。式典やパーティーの段取り、警備体制の在り方など細部が少しずつ詰められていく。ただ、この手の事務は、書類を作るだけなら難しくないが、連絡・調整等々が面倒なものばかり。面倒な部分はニューバーグ男爵に押し付けることにしたけど、それでも楽な仕事ではない。
一方、そもそも最終的に責任を負うべきツンドラ候は、お気楽なもので、
「俺様に一つ、提案があるのだ。パーティーの料理はゲテモンにしたいと思うのだが、どうだろう?」
「ゲテモンですか……」
わたしはウシバエの幼虫の踊り食いを思い出し、思わず口を押さえた。ツンドラ候は畳み掛けるように、
「そうだ。ゲテモンほどうまいものはないぞ。これからはゲテモンの時代だ。そこで、ゲテモンを皆に知ってもらうためには、好い機会だぜ」
「しかし…… オエップ……」
わたしがまごついていると、横からニューバーグ男爵が、
「侯爵、ゲテモンは皇帝陛下の御口に合わないという話を聞いています。やはり料理は一般的なものがよろしいでしょう」
「なっ、なに!? そうだったの? それじゃ、残念だけど仕方がないな」
さすがニューバーグ男爵、ツンドラ候の扱いは手馴れたものだ。
緊張感のないツンドラ候とのやり取りとは裏腹に、実行委員会では、ドラゴニア候やその仲間たちから容赦ない質問攻めが浴びせられた。会議に臨んでは資料をそろえ、万事、粗相がないように準備をしているつもりだけど、話が予想外の方向に流れることもあり、こういう場合には、形式的屁理屈と専門用語で強引に言いくるめる役人学の奥義がものを言う。
「そこのところの段取りを、もうちょっと、こう……」
ドラゴニア候は、いつもイライラしているような声で注文を付ける。
「警備の都合上は現状の方がよろしいのでは? 不祥事があっては大変ですから」
「不祥事だと? 私が警備を担当している以上、断じて不祥事など有り得ない!!」
話が警備に及べば、職務分掌上はドラゴニア候の領分となる。すごい自信だけど、本当に大丈夫だろうか。事が起こった時に責任を問われるのはドラゴニア侯だから、別にどうでもいいけど……




