交渉の結果
交渉は、かなり長い時間、続いた。意味は分からないが、時折、語気を強めたり、ドンと音を立てて床を踏みしめたりしていることから、激しいやり取りになっていることは想像がつく。なんとなく先行き不透明感に加え、転がった死体が無言で威圧してくるようで、あまり気持ちのよい状況ではない。
やがて、プチドラと話していたエルフのリーダーらしい男が、仲間の方を振り向いた。エルフたちは無言で首を縦に振る。見た感じ、一応、合意に達したようだ。
プチドラはわたしの足元まで駆けてきてニッコリと、
「マスター、話はついたよ」
「そうなの、それはよかったわ。でも、わたしにはサッパリ分からないわ」
「かいつまんで言うと、彼らの主張は、『今までのように地下を使わせてほしい。なお、地上まで音が響かないようにすることは約束する』ということだよ」
「それだけ? 随分と簡単なのね。その割には話が長かったようだけど」
「途中に微妙な問題があったりして、なかなか一筋縄には……」
簡単な話なのか難しい話なのか、イマイチよく分からないが……
ただ、それはそれとして、この屋敷のオーナーとしては、
「音が響かないなら使っても構わないけど、使用料は払ってもらえるのかしら?」
すると、エルフたちは、なんだか妙な顔をして互いに顔を見合わせたが、やがて……
ハハハ! ハッハッハッ!! ハッハッハッハッハッ!!!
エルフたちは声を上げて笑い出した。笑い声は国籍や種族に関係なく共通のようだ。
「伯爵様ともあろう方が、家賃を払ってくれって? 面白いことをのたまうものだな」
リーダーらしい男が言った。しかも、わたしにも分かる言葉で。だったら、さっきのはなんだったんだか……
「分かった。言い値で払ってやろう!」
なんだか小バカにされているようで、あまりよい気分ではないが、
「だったら、このくらいでどうかしら?」
わたしは指を3本立てて見せた。すると、リーダーらしい男は2、3度うなずき、
「その程度かね。意外とささやかな要求だな。1日につき金貨3枚なら、安いものだ」
金貨3枚? わたしは金貨ではなく銀貨3枚のつもりで指を立てたんだけど…… なんだか話がかみ合っていないような気もしないではないが、相手が勝手に勘違いしてくれているなら、そのままにしておこう。こちらから訂正してやる義理もない。
何はともあれ、懸案事項は解決と見てよさそうだ。でも、なんだか話がうますぎる。あの死体も謎のままだし、これは、経験則上、何か裏がありそうな……いや、きっと何かある、そんな予感。




