「開かずの間」の先には
さっきからプチドラはおかしい(おかしすぎる)。ドラゴンの体力や魔力があれば、たいていのモンスターには楽勝で勝てるはずで、「開かずの間」から何が出てこようと、それほど恐れることはない。なのにどうして、「開かずの間」を捜索することに抵抗するのだろう。否、おかしいのは今日だけでない。プチドラは「開かずの間」が絡むと、いつも消極的な態度に終始していた。
わたしはプチドラの首をグッと締め上げ、
「プチドラ、もしかして、最初から何か知ってたんじゃない? 正直に白状なさい」
「マスター、ギブ! ギブアップ!! 言うから、やめて」
わたしは腕の力を緩め、
「一体、『開かずの間』って、なんなの?」
すると、プチドラはとうとう観念したかのように、
「実は、この屋敷には…… まあ、言うよりも見てもらう方が早いか」
プチドラは、わたしの腕から床にピョンと飛び降りた。着地と同時に、激しく埃が舞う。
「ちょっと、プチドラ……」
わたしは思わず目をつぶり口を押さえた。その間に、何やらブツブツとプチドラの呪文のような声が響いた。
「マスター、もういいよ。扉にかけられた魔法のロックを解除したから」
プチドラに促され、ゆっくりと目を開けると、床に取り付けられた扉が大きな口を開けていた。ただ、「開かずの間」の床にこれ見よがしに扉を付け、その扉に魔法でロックをかけるのは、なんだかチグハグな感じもしないではないが……
開いた扉にランタンを近づけてみると、その向こうには、地下への階段が続いていた。
「この階段って、なんだろう?もしかして、秘密の脱出路?」
「行ってみれば分かるよ。今ならまだ考え直すこともできるんだけど…… マスター、どうする?」
「『考え直す』って…… 先にはよっぽどヤバいモンスターでもいるの?」
「モンスターじゃないんだけど、ヤバいのは当たってるかな。つまり、マスターもこの前に言ってたけど、世の中には、『知らないほうが幸せ』っていうこともあるんだ」
確かに、そういうことはある。ただ、知ってから後悔することは多いにせよ、知らないままでいるのも気分がよいものではない。それに、ヤバいと言われると、つい、好奇心に駆られ……
「いいわ。行きましょう」
わたしはプチドラを抱き上げ、足元をランタンで照らしながら、注意深く階段を降りた。階段は短いもので、その先には廊下がまっすぐ続いている。更に進んでいくと、廊下の先に扉があった。この扉には、なぜか、カギがかかっていない。わたしは意を決してエイヤと扉を開けた。
すると突然、なんの前触れもなく、ランタンの灯が消えた。




