10話 さすがにこれは頭にくる
本日(2023/06/13)、二話目になります。
ムダに広い特別室で一人横になっていると、かなり淋しいということに圭介は気づいた。
(まあ、消灯は9時って言ってたから、じきに寝るだけなんだけど)
ヒマつぶしにテレビでもつけようかと、サイドテーブルのリモコンを探っていると、ドアがノックされた。
ひょこりと妃那が顔をのぞかせる。
「おう、来てくれたのか?」
「圭介、元気そうね」
妃那は入ってきて、ベッドの横にあるイスに座った。機嫌がよさそうなのは彬と会っていたからか。
「こんな時間に来たのか?」
「ええ。彬を家に送ったついでに寄ったの」
「病院の中、一人で歩いてこられたのか?」
「病院の中で事件や事故が起こる可能性は低いので大丈夫よ」
「なるほど。ところでさあ、おまえに一個聞きたかったことがあるんだけど」
「何かしら?」
「おまえ、もしかして、貴頼が何かするって気づいてたんじゃないか? 事件が起こった時、ずいぶん手際が良かったって、桜子から聞いた」
「ええ、そうね」と、妃那はあっさり認める。
「じゃあ、なんで言ってくれないんだよ? 気をつけろ、くらい言ってくれたっていいのにさあ。病院の手配をする前に、事件を未然に防ぐ方が大事だろ?」
「わたしは警告したわ」
「いつ?」
「大みそかの夜。セックスを先延ばしにすると後悔すると」
「……それのどこが警告? いや、まあ、確かにおまえの言ってた通り、後悔したけどさあ」
「それくらいで圭介も気づくかと思っていたわ」
「気づくか!」
いきりたつ圭介に妃那は不思議そうに首を傾げる。
「あら。元旦のパーティに、近い親族である貴頼が来るのは当然のことでしょう? その席で当主から圭介と桜子の婚約が発表される。桜子をあきらめていない貴頼が突然そんなニュースを聞いたら、なにか起こりそうなものではないの?」
「それは、まあ、おれもチラッと思ったけど。けど、おまえのことなら、具体的に何が起こるかくらい予想できただろうって言いたいの。おれが殺されるかもしれないと思っても、放っておいたってことか?」
「圭介、怒っているの?」
妃那は泣きそうな顔で目を瞬かせた。
「あ、ごめん、言い過ぎた。おまえに当然のように寄りかかっていたおれが悪い。ごめんな」
圭介が妃那の頭をなでると、彼女は小さくかぶりを振った。
「ごめんなさい。わたし、貴頼のことを分析して、何を起こすのか推察するのがイヤだったの……」
「なんで?」
「だって、貴頼を知ろうとすると、お兄様のことを思い出してしまうから。だから、何か起こった後のことだけを考えていたの」
「葵が関係あるのか?」
「だって、お兄様の出自を暴いたのが貴頼だったから」
「……その話、おれ、聞いてなかったぞ。けど、なんであいつがそんなことしたんだ?」
「もともとのきっかけは、わたしとの間に婚約話が上がったことだったと思うわ」
「おまえと貴頼の婚約……」
「杜村は真紀子叔母様が嫁いだとはいえ、貴頼が一族の誰かと結婚しない限り、正式な分家としては認められない。直系であるわたしを嫁にと考えるのは、普通のことでしょう?」
「おまえが『知る者』だって、わかる前の話だよな?」
「ええ。直系の血を二代にわたって継承するとなれば、分家としての立場は確立する。おまけに、障害のあるわたしを受け入れれば、杜村としてはうちに恩も売れるでしょう」
「けど、貴頼はその頃はすでに桜子が好きだったんじゃ?」
「そうよ。貴頼はその婚約を阻止するために、後継者であるお兄様に目をつけたの。お兄様に何かしらの問題があって、後継者から外されれば、わたしの結婚相手が後継者になる。杜村の一人息子である貴頼は、候補から外れることができるもの」
「それで、葵を探った結果、出てきたのが伯父さんの子供じゃないっていう事実かよ」
「貴頼としては単に後継者の資格を奪いたかっただけで、死なせるつもりまではなかったかもしれないけれど」
「けど、結果として葵は自殺しちまったじゃねえか」
妃那が「そうね」と無表情にうなずくのを見て、圭介は脳がざわめくのを感じた。吐き気さえしてくる。
貴頼は監視役を圭介に選ぶ時、その情報をわざわざ使ったのだ。
万が一の時は、神泉の後継者として妃那と結婚させればすむと――。
(あいつは葵の死を偶然利用したわけじゃなかった。全部仕組んで平然とした顔をしていたんだ……!)
どうしても許せない思いがわき上がってくる。だからといって、今さらどうしようもないということもわかっている。行き場のない怒りで、気分が悪くなるばかりだ。
妃那がぽすっと圭介の布団の上に突っ伏したことに気づき、我に返った。
(おれよりいっぱい傷ついたのはこいつなのに……)
「ごめんな。おまえ、葵のこと思い出すと、まだつらいんだもんな……」
妃那の頭を気のすむまでやさしくなでてやった。
「でもね、圭介、今は圭介もいるし、彬もいる。お父様もいるわ。家族がいるわ。だから、前よりはずっとつらい思いをしなくてすむの」
「うん……」
「不思議ね。周りに人が増えていって、笑っていると、お兄様のこともいつの間にか忘れているのよ。圭介がいつか言っていた通りだったわ。時々思い出してしまっても、また忘れていられるのでしょう?」
「うん、そう言ったな」
「だから、圭介、早く元気になって帰ってきて。圭介がいないと、みんな静かなの。あまり笑ってくれないの。みんな、淋しいのよ」
「そうだな。おれも頑張って一日も早く退院できるように頑張るよ」
「ええ、待っているわ」と、妃那は突っ伏したままうなずいた。
次回は貴頼の父親が見舞いに。
圭介がこの件をどう処理するのか、二話同時アップお楽しみに!
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