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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
最終章 テッペン目指して頑張ります。

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9話 入院中もゆっくりしてはいられない

本日(2023/06/13)は、二話投稿します。


前話からの続きの場面です。

 桜子から連絡を受けて、母親がやってきたのは、昼を過ぎた頃だった。


「あらー、圭介。驚くほど元気な顔しているじゃない」


 母親が()頓狂(とんきょう)な声を出してくれる。


「心配おかけしました」と、横になったままだが、圭介は軽く頭を傾けた。


「当たり前よ。あんた、大した病気もケガもしたことないのに、いきなり大ケガで手術。気だって動転するわよ」


「だよな……」


「ちゃんと桜子さんにお礼言ったの? 入院してから、ずっとあんたのそばについていてくれたのよ。それこそ、朝から晩まで」


 目を覚ました時に桜子がいたのは、当然のことだったのだ。


「ありがとな。おかげで目が覚めた時、現実に戻って来たって、実感できた」


 圭介は桜子の方を向いて、改めて感謝の言葉を述べた。


「当然だよ。あたしがいない間に突然急変したとか言われたら、絶対に後悔するもん。それくらいなら、そばで息しているのを見てる方がずっといい」


「けど、せっかくの冬休みなのに。施設の子供たち、待っていたんじゃないか?」


「薫子と彬に代わりに行ってもらったから大丈夫。子供たちのところには、改めて行くよ」


「で、母ちゃん、家の方は大丈夫?」


「まあ、大丈夫といえば大丈夫。お父さんの機嫌が悪いのもいつものことだし」


「やっぱ、大騒ぎを起こしたから?」


「バカね。心配しているのよ。さっきあんたが目を覚ましたって連絡したら、夕方仕事が終わった後に寄るって言ってたわ」


「そっか。ジイさん、年寄りなのに悪いことしたよな」


「……その前に心臓が止まるようなサプライズやってなかった?」


「母ちゃんだって面白がってたくせにー」


「まあ、そういうわけで、うちの方はあんたがこうして元気なら問題ないってこと。杜村さんの方の対応は、お父さんと兄さんでやっているから、詳しい話は来た時に聞いてみるといいわ」


「そうするよ」


 圭介がコクンとうなずくと、母親は意外そうに眉を上げた。


「あんた、怒ってないの? 傷つけられて、死ぬ思いさせられて。あんたくらいは怒ったっていいのよ」


「うーん……。怒るって感じはないかな。おれが余計なことを言わなければ、それまでの話だったわけだし」


「ねえ、貴頼くんが桜子さんのことを好きだったっていう話は聞いたんだけど、具体的にあなたたちにどう関わってきたの? あの子があんたの学費を出したりしていたんでしょ?」


 圭介は桜子と顔を見合わせて、それから『呪い』に関わる話をしてやった。




 母親は話を全部聞いて、頭を抱えた。


「姉さんってば、どういう子供の教育してんのよ! どう考えても子供が使うお金や権力じゃないでしょうに。何を考えてるのよ!」


「……母ちゃんから言ってやった方がいいことなのかもしれないな」


「もちろん言ってやるわよ。あたしだって立派な母親だなんて言うつもりはないけど、それでも人様を傷つけて平気でいられる子なんて育てないわ。とくとくと説教してやるから、見ていなさい!」


 そう言って、母親はぎらぎらと目を光らせた。


 そして、黙っていられなくなったのか、「今、行ってくる」と、飛び出していった。


「……お母様、元気な人だね」


 母親を見送りながら、桜子は少しあきれたように笑った。


「ちょっと恥ずかしい……」


「でも、素敵なお母様じゃない? 圭介のことで怒鳴り込むならともかく、加害者のために怒ってるんだもん」


「うーん、半分は留置所生活をさせられたことに怒ってるんだと思うけど」


 話をした時、その(くだり)でものすごい鬼の形相になっていたのに気づいてしまった。


「お母様も巻き込まれちゃったもんね」


「だから、まあ、母ちゃんが怒鳴り込みに行く権利はあると思うし。結局、貴頼だって未成年で、親の庇護(ひご)下にあるんだから、今回の大部分の責任は親にあるとも言えるよな」


「けど、親とはいえ、また人のせいにしてたら、やっぱりヨリは変わらないんじゃないかなあ」


「それをどうするかも親のさじ加減次第ってことだよ」


「ふーん、ちょっと意外。圭介のことだから、何が何でもヨリを何とかしようとするかと思った」


「おれ、そこまでどうでもいい奴にかまけてるボランティア精神ないよ。基本的に自分の幸せのために動く、かなり自己中な奴だと思ってるから」


 圭介が冗談を言っていると思ったのか、桜子は「そんなこと言って」と笑った。


「自分のためとか言いながら、周りにいる人たちの幸せをちゃんと考えてるでしょ? 結果、自分の幸せにつながるっていう意味じゃないの?」


 結局、ちゃんとわかってくれている桜子に圭介も笑った。


「だから、自分の幸せのために周りを振り回す自己中だっていうのもわかるだろ?」


「すっごいわかるよ」


 桜子は圭介をそっと抱きしめて、「だから、大好きなの」と耳元でささやいた。




 それから、夕方になって、母親の言っていた通り、源蔵が智之を伴って現れた。

 杖をついている源蔵に桜子がすぐにイスを勧める。


「なんだ、元気そうではないか」


 源蔵は圭介の顔をのぞき込んで意外そうに言った。


「おかげさまで、傷以外はピンピンしてます。いっぱい寝たせいですかね」


「桜子さんも圭介にずっとついていてくれたとか。新年早々大変だっただろう。すまなかったな」


「いいえ、お気になさらずに。わたしがしたくてしたことですから」


 うむ、と源蔵はうなずく。


「圭介、今回のことは警察には届けん。それでよいか?」


「はい、いいです」


 圭介がうなずくと、やはり源蔵は意外そうな顔をした。


「おまえのことだから、罪は罪、罰を受けさせるべきだと言うかと思った」


「そういう気持ちがないって言ったらウソになります。でも、最初はよくわからなかったんですけど、ジイさんたちが代々守って、長年にわたって継いできた家の歴史や価値が、重みが少しずつわかってきました。

 神泉の名を名乗る以上、おれも継承していかなければならないものだと思ってます。それが名をもらうという意味だと。

 そういうもろもろをひっくるめて考えて、おれ自身も今回の事件は大事にしない方がいいと思いました」


「桜子さんもよろしいかな? おそらくご両親もすでにご存じのことと思うが」


「はい。父と母にもそのように伝えます」と、桜子がうなずく。


「それから、杜村が見舞いを兼ねておまえに謝罪をしたいと言ってきておる。どうするかはおまえが決めていい」


「貴頼は? 家にいるって聞いたんですけど、杜村氏からはどんな様子か聞いているんですか?」


「まあ、何をしでかすかわからない状態だと。まだおまえを殺したいとわめいて暴れていると言っておった」


「それは閉じ込めておくほかないんですか?」


「おまえが目を覚ますまで待っておっただけだ。警察へ行くのか、それとも病院に連れていくのか。あれは孫とはいえ外孫だから、わしは口出しせん。すべて杜村に任せてある」


「そうですか……。それなら、杜村氏には会ってみようと思います」


「わかった。そう伝えておく」


「お願いします」


「それから、圭介」


「はい?」


「元気そうなので、そうだな、明日はゆっくり休むとして、あさってから家庭教師を来させよう」


「はい!? おれ、入院中に勉強しなくちゃいけないんですか!?」


「何をノンキなことを言っておる。おまえは自分のレベルがわかっておるのか? 今やっていることは、智之が小学生の時にはすでに習得していたこと。どれだけ遅れがあると思っておる」


「ほんとなんですか……?」


 智之を見ると、真面目にうなずかれ、圭介はショックのあまり、ぐらりと頭が揺れた。


「どうせ入院中など、元気ならヒマだろうが。時間をムダにする理由はない」


「わかりました……」


「桜子さんも学校が始まることだし、見舞いに来るにしても放課後からだろう。ちょうどいいではないか」


「そうですね……。朝から放課後まで頑張ります」


 それからじきに二人は帰っていった。


「圭介、頑張ってね」


「なあ、桜子、みんなそんなにいろいろ勉強するのか?」


「まあ、普通に。いい家ほど、小さいうちに帝王学は徹底的に叩きこまれるよ」


「桜子も?」


「あたしも小学校卒業するまではひと通り習ったけど。おじい様が亡くなってからは、自分の好きなことだけしてた」


「て、空手だけ?」


「うん」


「おれ、いつか追いつくんかな……」


「あたしは別に気にしないけどね」


「けど、ジイさんが恥ずかしい孫は神泉の名を付けて、婿に出せないってさ。おれもおまえの隣でサマになってたいし、そうすることにしたんだけど」


「そういうことなら、一日も早くお婿さんになれるように、頑張ってもらわないと。いつまでもダメって言われちゃうよ」


「合格点、甘くしてくれるといいなあ……」


「あたしがおばあちゃんになるまで待たせないでね」


「おう。一日も早く結婚までたどり着けるように頑張る」と、圭介は拳を掲げた。


 桜子は夕食まで付き合ってくれて、それから明日も朝からくると言って帰っていった。

次話、妃那がお見舞いにやってきます。

よろしければ、続けてどうぞ!


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