表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
最終章 テッペン目指して頑張ります。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

274/320

4話 取り扱い注意だった

本日(2023/06/02)、二話目になります。


前話からの続きの場面です。

 百人からの親族が集まってのパーティとなると、端からあいさつをして歩くだけでも時間がかかる。

 毎度毎度、相手方に言われるのは『何代続く分家です』。

 それを聞くだけでも、旧家が多いというのはわかる。


 子供連れで来ている家族は、なかば見合いの様相。

 神泉家の分家として認められるには、子供の代も親族から相手を選ばなければならないので、こういう場は婚約者を見つけるいいチャンスなのだろう。


 実際、圭介とたいして歳の変わらない少年でも、すでに婚約者がいるという人がかなりいた。


(集団見合いって、やっぱり変な宗教にしか思えないけどな……)


 ひと通りのあいさつを終え、食事のテーブルに行った時には、圭介のお腹はぐうぐう鳴っていた。

 立食パーティ式で、正月のお節料理の大きな重箱がいくつも並んでいる。


「すごい豪華ね。見た目もきれい」


 桜子が目をきらめかせて料理を眺めているところを見ると、彼女もお腹がすいていたらしい。


「さ、人につかまらないうちに食おう」


「うん!」


 端からお節料理を味見し、配られるお雑煮、デザートと、食べるものはまだまだたくさん残っていた。




 その一時間後――。


「う、苦しい。着物なのに食べ過ぎた」と、桜子は帯のあたりをさすっている。


「おれも腹のあたりが圧迫されて、消化悪そう……」


「ちょっとお手洗いに行って、ついでに帯を緩めてくるね」


「おう。じゃあ、この辺りで待ってる」


 桜子を見送っていると、ふと視線を感じて振り返った。


 そこにいたのは、紋付き袴姿の貴頼だった。桜子と付き合うようになって以来なので、ずいぶん長いこと会っていない。

 そのにらむような眼差しに、声をかけるのもためらわせる。表情はどこか(すさ)んでいて、苦しそうに見えた。


 無視するのもどうかと思ったので、圭介の方から「久しぶり」と声をかけた。


「妃那さんと婚約したんじゃなかったんですか?」


 貴頼はあいさつもなしに聞いてくる。


「まあ、そういう話もあったけどな。やっとジイさんたちにも認められたとこ」


 ここまで来るのに長かったような、短かったような。いろいろなことがこの数カ月の間に起きたのは間違いなかった。


(結果よければ、すべてよしってことで)


 今となっては大変な思いをしたことも、いい思い出になっている気がする。


「本当に彼女と結婚する気なんですか?」


「今すぐってわけじゃないけど。おまえには感謝してるよ。おまえのおかげで桜子と出会えた」


 この貴頼が桜子の監視役の仕事を依頼して来なければ、何も始まることはなかった。


 圭介としては心からの感謝だったのだが、皮肉と取られたのか、貴頼はカッとしたように頬を染めた。


「なにそれ? 僕のおかげだって言うくらいなら、彼女を譲ってよ。僕がどれだけ彼女だけを想ってきたか! 彼女を得るためにどれだけ頑張ったか! あなたなんか、途中から入ってきて、何もしないで横からさらっていっただけじゃないか!」


「何もしないで?」


 さすがの圭介も貴頼の言い草にはむっとしてしまう。


「今頃、貧乏くさい家に住んで、普通の高校に行っているはずのあなたが、青蘭に通えるようにしたのは僕だ! 神泉の名前をもらえたのだって、僕がそう計らったからじゃないか! 何もなかったあなたには充分すぎるだろ。彼女までほしいなんて、図々しいにもほどがある」


「落ち着け。声を落とせ」


 周りの人たちがこちらにちらちらと視線を向けている。


「なんだよ、大人ぶって。どうせ僕は背も伸びないし、中身は子供だし、あの人に相手にされてないよ。でも、頑張ってる。いつか振り向いてくれる日が来るって信じて頑張っているんだ。だから、今、彼女を渡すわけにはいかない!」


「おまえ、そんな理由で相手にされてないと思ってたのか? 違うだろ。おまえが彼女を手に入れるために、いったい何をしてきた? 金と権力で言い寄る男を排除して、結果、亡くなった人もいる」


「そんなの僕のせいじゃない」


「確かにおまえは手を下してないかもしれない。けど、そういう男を桜子が好きになると思うか? おまえが相手にされない理由が、そういうことを考えつくこと自体だって思わないのか?」


「なら、他に何ができたって言うんだ!?」


「それはおれにもわからん。けど、少なくとも桜子のことがちゃんとわかっていれば、おまえの取った手段が間違いだってことはわかるんじゃないか? 桜子のことを理解していないから、平気で人を陥れることができた。桜子はそういう人間を好きになったりしない」


「僕の何が彼女を理解していないって? 小さい頃からずっと一緒にいて、ずっと見てきた僕より、あなたの方がわかってるって言いたいのか?」


「少なくとも、おまえよりはわかっていると思うよ。おまえ、頑張っているって言うけど、その方向性がすでに違うだろ。だいたい、背の小さい大きい程度のどうでもいいことで、桜子は人を選んだりしない。そんなことすら気づいていないって証拠じゃねえか」


「僕はあなたが彼女の理想の相手だとは認めていない。将来的に彼女があなたを見限る可能性はゼロとは思わない」


「……まあ、それはおれも否定しないけどさあ。けど、ほかの男はともかく、おまえはすでに失敗してるじゃん」


「何が?」と、貴頼は怪訝そうに眉をひそめる。


「おれの排除に妃那を使ったこと。あいつも桜子を排除するためなら、手段を選ばなかった。おれを排除するのと同時に、おまえも桜子を失う悪手(あくしゅ)だったんだよ」


「でも、結果的に破談になった。僕にはまだチャンスが残されているってことだろ?」


「そりゃ、結果はそうだけど。ただ、おまえ、桜子に王太子妃の話が出た時、何をしてた? 放っておけば、破談になるとでも思ってたのか? 王太子が相手じゃ、自分には勝ち目がないって、()()()()()んじゃないのか?」


「それは……!」


 図星だったのか、貴頼からの反論は続かなかった。


「それで、いざ破談になったら、ノコノコ自己アピールしてくるって、ずいぶん調子が良すぎないか? せっかく金と権力を持っているなら、あの時、何が何でも婚約を阻止するために使うべきだったな。頑張りどころが違うだろ」


「……何を偉そうに! これから挽回(ばんかい)できないわけじゃない!」


 にらみつけてくる貴頼を見て、圭介は小さくため息をついた。


(これは言葉でどうこうできる相手じゃないな……)


「じゃあ、まあ、頑張ってくれ。幸いおれも前とは違って、おまえが何を仕掛けてこようと、立ち向かえる力は多少なりともあるし。負ける気はねえけど」


「じゃあな」と身をひるがえした時、背後からどんっと突き飛ばされたような衝撃が走った。


「これが一番簡単だったんだ。あなたがいなければいいだけの話だったんだ」


 貴頼の声が耳元で聞こえる。顔を肩口に向けると、貴頼の顔が思ったより近くに見えた。


(……ヤバ。おれ、扱いを間違えたかも……)


 直後、激しい痛みが全身を駆け抜けて、その場に膝をついた。そのまま身体を支えることもできずに床に転がるしかない。恐る恐る腰に手を伸ばすと、何か固いものが触れた。


(マジで刺されてるし……)


 誰かが悲鳴を上げるのが聞こえる。


 幸せ絶頂の時ほど、悪いことは起こるらしい。


(『来年の初夢は、桜子と一緒に見る』なんて、先延ばしにしなけりゃよかった……)


 今夜は家族公認で桜子のお泊りが許されていたというのに、どう考えても決行不可能。せっかくの桜子の着物からのぞく色っぽいうなじもお預けだ。


 激しい後悔とともに、圭介は意識が遠のくのを感じた。

次回、この続きの場面になります。

あまりシリアスになり過ぎない予定で……二話同時アップ、お楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ