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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-2 みんなからの祝福、いただきます。~妃那&彬編~

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14話 プレゼントって、驚かせるものなの?

本日(2023/04/28)、二話目になります。


前話からの続きの場面です。

「さ、シャワー浴びましょ」


 妃那はむっくりと起き上がり、ぼさぼさの髪を振り払いながらベッドを下りる。


「ちょっと待って」


 彬はベッドの下に落ちているジーパンを拾い上げて、ポケットにはさんでいたものを外した。


 クマの絵のついた髪を留めるクリップだ。

 買い物に行った時についでに買っておいたもの。

 別にクリスマスプレゼントにするつもりはなかったのだが、ちょうどいいから持ってきた。


「なにかしら?」


「髪留め。シャワー浴びる時にいっつも邪魔だから」


「そうだったの?」


「そうだよ。洗うのもとかすのも乾かすのも、僕なんだよ? 濡れたまま放っておくと、とかすの大変だし。最初の一回くらいは濡らさないでくれると助かると思って。一応、クリスマスプレゼント?」


「ああ、なるほど。うん」


 妃那はそれを受け取って、開いたり閉じたりとしげしげと眺めている。


「……気に入らない? 子供っぽいとか? シャワー用だから、外でつけるものでもないし」


「いいえ。わたし、どういう構造か確かめるのが好きなの。

 ところで、わたし、クリスマスプレゼントをもらったのが生まれて初めてなのよ。

 記念すべき最初の一個。ありがとう、彬」


 妃那がぱあっと無邪気な笑顔を浮かべるので、不覚にも照れてしまった。


「はい、じゃあ、貸して。留めてあげるから、後ろ向いて」


 小さいころ、桜子の髪で遊ばせてもらったことがあるので、意外とこういうのは得意なのだ。

 が、くせっけの桜子の髪と違って、妃那の髪は完全直毛。絹のように指の間を滑ってしまって、意外とまとまらない。

 なんとか一つのお団子にしてクリップで止めた。おくれ毛が少し落ちているが、とりあえずシャワーには問題ない。


「はい、できた」


 妃那は鏡の前で横を見たり、てっぺんをのぞいたりと、興味深げにきょろきょろしている。


「どっか変?」


「いいえ。わたし、髪をこうするのが初めてなのよ。似合うかしら?」


(似合うかって言われても……。女子って、シャワーに入る時の髪型も大切なの?)


 妃那は顔立ちが整っているので、髪型を変えたところでなんら損なうものはない。


「普通に似合っていると思うけど。君は気に入らないの?」


「いいえ。なんだか雰囲気が変わって、西洋のお人形みたいで素敵だなと思って。ほら、わたし、市松人形みたいでしょう?」


「うん、まあ」


「けれど、市松人形というのは一部に人気があるだけで、家に飾ると気持ち悪いという人が多いの。

 髪が生えてくるとか、怪談話でもよくあるものでしょう。

 そういうものに似ていると言われても、面と向かって『気持ち悪い』と言われているようで、気分が悪いわ」


「ええー……。『お人形みたい』っていうのは美人の代名詞で、ほめ言葉でしょ」


「わたしは美人なの?」


「一般的に美人だと思うけど。自分では思わないの?」


「考えたこともないわ」


「へえ……。けどまあ、無表情だと本当に人形みたいだから、ある意味怖いよ。感情を表に出せれば、人形なんて言われなくなるんじゃないかな」


「なるほど」


「とりあえず、シャワー行かない? 裸でいつまでもウロウロしていても」


「そうね」


 まだ考え込んでいる妃那を引きずって、シャワーを浴びた。




 それから何度も妃那を抱き、うたた寝をし、腹が減ってデリバリーを頼んで夜食を食べて、また何度も抱いて、の繰り返しとなった。


 明け方、「もう死ぬ」と倒れ込んだのは確か4時ごろだった。


 ようやく寝たと思えば、アラームが鳴る。

 泥のように眠い体は、その程度のアラームで目を覚まさせてくれない。

 しかも、じきに止まってしまったので、彬は再び眠りに落ちる。


「彬、起きて! クリスマスの朝よ!」


 遠くで元気な妃那の声が聞こえる。


「……死んでる」


「大丈夫、わたしがいるのだから、死んだりしないわ」


 ばしばしと布団の上から叩かれる。


「……君に殺された」


(ああ、この人はどうしてこんなに元気なんだろう……)


「彬、寝ぼけているの?」


「んー」と、再び意識が遠のく。


 が、無理やり腕を引っ張られて身体を起こされ、寝ぼけ眼をこすった。


「今、何時……?」


「5時。もうシャワーを浴びて帰る時間になるわ」


「え、もう……? ていうか、1時間しか寝てない……」


「起きて、彬、見て! あなたにプレゼントよ!」


 そう言われて、ようやく起きる気になった。


「プレゼント……?」


 開いた目の前で妃那がまぶしい笑顔を向けていた。


「じゃーん、これです」


 妃那は手を広げて見せる。


「……もしかして、君がプレゼント? そのネタ、処女くらいしか使えないよ。残念だけど君じゃ――」


「もう、何を言っているの? 人間を贈るのは犯罪でしょう? わたし、そんなことはしないわ」


「……それ、何の犯罪?」


「そんなことはどうでもいいの。どう、これがわたしからのプレゼントよ」


 ようやく目が覚めて辺りを見回してみると、部屋の壁にモールやリボンがかけられている。


「……もしかして、僕が寝ている間に飾りつけしたの?」


「そうよ。どう、気に入った?」


「うん……」


(で? 意味わかんないんだけど。ラブホの部屋にクリスマスデコレーションをして、何の意味があるの?)


「あまり気に入らなかったのかしら。もっと驚いてくれると思ったのに。残念だわ」


 妃那はしょんぼりした顔をしている。


「……気に入るかどうかの前に、君の意図がわからないんだけど。これを僕にプレゼントしようと思った理由、みたいなもの」


「どんなプレゼントなら1番驚いてくれるか、いろいろ考えたのよ。でも、彬はよく驚くから、驚くものではなくて、使えるものにしたの」


「うん。君には驚かされてばっかだからね。けど、プレゼントは驚かせるのが目的じゃなくて、喜ばせるのが目的だから。

 結果、ほしいものをもらうと『どうしてこれが欲しいってわかったの?』と驚く」


 彬が淡々と説明すると、妃那は愕然(がくぜん)としたように目を見開いた。


「それは知らなかったわ。てっきり目的は驚かせることかと」


「ともあれ、使えるものって? あのリボンを持って帰って何かするとか?」


「あれは飾りつけだと言ったでしょう。プレゼントにはリボンがついているものだから」


(……リボンがつけられてるのって、壁なんだけど。壁? それも使い道ないよな)


「わかった、なんかのなぞなぞ?」


「違うわ! これ! この部屋!」


 妃那は苛立ったようにバシバシとベッドを両手で叩く。


「部屋って、この部屋?」


「そう。とっても使い道があるでしょう? これから彬のものよ」


「いやいやいや、もらってどうすんの!? ていうか、そもそもあげられるものじゃないよね!?」


「どうして? 毎回支払うのは面倒くさいから、あなたの名義で買ったのよ」


「この部屋、買ったの!? いくらで!?」


「プレゼントの値段を聞くのは無粋だわ」


 妃那はぷうっと口をとがらせる。


(ちょっと待って。少し落ち着かないと、何を言っていいのかわからない。

 僕、中学生だよね。ラブホの部屋の所有者になんてなっていいの? ていうか、部屋って買えるものなの?)


 とはいえ、確かに使い道のあるプレゼントだ。

 週に何度も来るから、大変使い道がある。


 自分のものなら、妃那にホテル代を払ってもらう引け目もなくなる。

 が、その『自分のもの』がプレゼントされたものでいいのか。


 彬が呆然と考え込んでいると、目の前で妃那の手がひらひらと動いた。


「大丈夫? 驚きすぎた?」


 彬がこくんとうなずくと、妃那はうれしそうに笑った。


「やったわ!」


「……もしかして、全部冗談だったとか?」


「まさか。さ、そろそろシャワーを浴びて帰らないと、お迎えに間に合わなくなるわ」


 彬の思考は完全停止。このプレゼントについて、とりあえず考えることをやめた。

次回は藍田家での後日談になります。今回ばかりはほのぼのといかないかも?

二話同時アップ、お楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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