13話 これでも一応、感動の再会です
本日(2023/04/28)は、二話投稿します。
前話からの続きの場面です。
裏門にひっそりといつものロールスロイスが止まっている。
彬に気づいた運転手がドアを開けてくれるので、すぐに乗り込んだ。
抱き合って感動の再会かと思えば、妃那はいつもと変わらず無表情だ。あいさつもなし。
(ええー……)
出鼻をくじかれ、彬はしゅんとしながら隣に座っていた。
ホテルの前に到着すると、「では、明日6時に」と、運転手は言って車で去っていった。
「迎えの時間、決めてあるの?」
いつもなら、そろそろ帰るかという頃に電話をして、迎えに来てもらう。
6時の迎えが決まっているということは、完全朝帰りだ。
――が、妃那は無言のまま彬の腕を引きずり、いつもの部屋のボタンを押して、鍵を受け取ると、部屋まで一直線。
(……もしかして、ガマンしてる?)
案の定、部屋に入ったとたん、妃那はそのまま彬をドアに押し付けて、熱いキスをしてきた。
今は話をするのももどかしい。
一度失ったと思って、絶望の淵まで落とされ、今、手の中に戻ってきたかけがえのない存在――妃那が確かにそこにいることを感じる方が先だった。
無我夢中という言葉がピッタリくるほど、お互いに求め合って、そして、力尽きた。
「君、激しすぎるよ……」
胸に頭を預けてくる妃那の頭を抱き寄せて、彬は息を整えていた。
「だって、ものすごくガマンしたんですもの。お父様がいいと言ってくださった時から、もう身体がうずいて。圭介に報告をしようと思ったのに、ちっとも部屋に戻ってこないから、遅くなってしまったわ」
「それから、電話をかけてきたんだ」
「ええ、そうよ」
「それ、なんで僕が先じゃないの!? 死ぬ思いして、家で半分死んだように転がってたのに!」
彬は妃那の頭のてっぺんに向かって叫んだ。
「でも、電話をかけたら、すぐに出かけなければならなくなってしまうでしょう」
「……まあ、そうだけど」
「彬に会ってしまったら、電話をする時間はもったいないから、圭介にはかけられないでしょう? やはり電話をする前ということになるのでは?」
「……うーん、そうかも。けど、死んでるか心配するなら、もっと早くじゃないのかな、と思っただけ」
「でも、圭介と会ったのでしょう?」
「うん」
「なら、大丈夫よ。わたしも圭介の言葉で生きてみようと思ったから。きっと彬にもそう思わせてくれると信じていたわ。
あなたがすぐに電話に出ないから、死んだのかと思ったのよ。それだけのこと」
「あ、そう……。じゃあ、圭介さんに会った後、僕は元気だと思ってたわけだ」
「そうよ」
「いっとくけど、全然そんなことないから! ものすごく落ち込んで、いっぱい後悔して、薫子にも心配かけて……。圭介さん、そこまで救ってくれなかったよ!」
妃那は顔を上げて、意外そうに見てきた。
「それは驚いたわ。圭介も桜子のことで余裕がないのかしら。でも、大丈夫。これからはわたしがいるのだから」
「そのいない間がつらかったって話をしてるんだけどねえ……。もう今となっては、どうでもいいけど」
「ええ。わたしはここにいるもの」
「ほっぺ、もう痛くない?」
見た目に赤くなっている様子はなかったが、そっと頬に触れながら聞いた。
「ええ。それほど強くは叩かれなかったし」
「お父さんが入ってきた時、やっぱりネクタイは言い逃れできなかった?」
「ネクタイ?」と、妃那が首を傾げる。
「お父さん、落ちていたネクタイ見て、僕に気づいたんじゃないの?」
「いいえ。コンドームの空袋がベッドに落ちていたからよ」
「そっち!?」
「ネクタイだったら、いくらでも言い訳できるわ。圭介のものを預かっているとか。
さすがにコンドームはわたし一人には必要ないもの。何も言えなかったわ」
「だよねー……。それは言い逃れできないか」
「けれど、おかげで彬を紹介したことになったから、よかったのではないかしら」
「……どうだろ。同じ怒られるなら、もうちょっと違う形もあったかなと……。紹介とかいって、僕、顔も見せなかったし」
「顔は知っているからいいでしょう?」
「壇上からものすごいにらまれたけど。その時だって、お父さんが知ってたこと、気づけたのにな」
「彬が気にすることはないわ。全部圭介が悪いのだから」
「さすがに全部とはいかないと思うけど……」
「いいえ。そんな大切なことをわたしに言わなかった圭介が悪いのよ。親に紹介だの、クリスマスだのと、桜子のことで浮かれて、すっかり忘れていたのだから」
「まあ、圭介さんも自分のことで、いっぱいいっぱいな時期ってことか」
圭介も完璧なわけではない。
そんなことを思って、どこかほっとするのと同時に笑っていた。
次話もこの場面が続きます。
二人のプレゼント交換は……。
お時間ありましたら、続けてどうぞ!




