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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-1 みんなからの祝福、いただきます。~母ちゃん編~

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18話 家族みんなで点灯式を

本日(2023/04/04)、二話目になります。


【母ちゃん編】最終話になります。

 神泉家では現在、庭と建物にイルミネーションを(ほどこ)すため、たくさんの作業員が毎日出入りしている。

 完成図は見てのお楽しみ、と妃那は教えてくれない。


「今日、もみの木が届くのよ。一緒に飾り付けをしましょう」


 昼休みに妃那が言っていた通り、圭介が玄関に入ると、玄関ホールから吹き抜けまで届く大きな木がドンと置かれていた。

 その周りにはこれから飾っていくだろうオーナメントが山ほど置かれ、何人かの使用人がアタフタとそれを運んでいる。


(てか、でかすぎないか!? しかも、玄関せまくなってるし)


「あ、圭介、お帰りなさい。今始めたところよ」


 上の方で声が聞こえたと思うと、木の陰に置かれた脚立(きゃたつ)の上に妃那がいた。

 満面の笑みで両手にオーナメントを抱えている。


「おう、今着替えてくるから、手伝う」


(なんて幸せそうな顔してんだよ)


 圭介は笑って自分の部屋に行って着替えてくると、ツリーのところまで戻った。


「これ、どこつけるの? 場所決まってんの?」


「先にオーナメントを全部つけて、そのあとコットン、それからモールと電飾よ。最後にてっぺんの星。圭介は下の方をお願い」


「了解」と、オーナメントを一つ一つ取り上げ、枝にぶら下げていく。


 小さいころ家にあったツリーは30センチほどで、飾りつけもあっという間に終わってしまった。

 さすがにこの高さはかなり時間がかかりそうだ。


「何の騒ぎかと思ったら、ツリーが届いたの?」


 らせん階段から母親が降りてくる。


「母ちゃんもヒマなら手伝ってよ。これ、どう考えても今日中には終わらないぞ」


「ちょっと待ってー。まず写真撮ってから」


 母親はスマホを構えて、「圭介、こっち向いてー」、「はい、妃那さーん」とパシパシと写真を撮りまくっている。


 それから、騒ぎを聞きつけて、琴絵まで様子を見に来るので、家族全員を巻き込んでのツリーの飾りつけとなった。


「ねえ、圭介。お父様が戻ってくる前に出来上がったら、驚かせてあげましょうよ」


 妃那はいいことを思いついたといわんばかりのキラキラとした笑顔を向けてくる。


「どうやって?」


「家じゅうの明かりを消して、帰ってくるのを待つの。そして、玄関に入ってきたら、ツリーを点灯させるのよ。きっとびっくりするわ」


(こいつ、『計画』を思いつく時はいつでもこういう顔するよな)


 これはクーデターでも暗殺計画でもない。ちょこっと父親をびっくりさせるいたずら計画だ。


 圭介までなんだか、楽しくなってきてしまった。


「よし、驚かせてやろう。みんなにも協力してもらわないとな」


 使用人に確認すると、智之は源蔵と一緒に夕食前には帰ってくるという。


「好都合じゃん。二人一緒に帰ってくるなら」


「ええ。でも、おじい様は驚いてもあまり顔が動かないから、きっとつまらないわ」


「いやいやいや、そこはおまえの頭脳で確実にジイさんが驚くようなシチュエーションを用意するんだ」


「では、もっと急がないと。計画を作る時間がないわ」


 妃那はどこまでも楽しそうだった。

 母親と祖母も顔を見合わせて笑っている。


(ああ、なんかちょっと家族っぽいかも)


 圭介はそんなことを思って、うれしかった。




 源蔵と智之が帰ってくる時間に合わせて、妃那の指示通り、全員が配置した。

 玄関、らせん階段上、ブレーカー。

 使用人も含めて、全員がツリーの付近に集合し、ブレーカーを落とした真っ暗な家の中、息をひそめていた。


 ――が、時折クスクスと笑う声が聞こえてきて、圭介がしいっと静める。


 車が玄関前につけられる音。この時間で家中の電気が消えているのだ。

 外の二人はすでに家の異変に気付いているだろう。


 玄関が開くと同時に二人が顔をのぞかせる。


「なんだ、何があった!? 皆はどこに行った!?」と、源蔵の焦った声が聞こえる。


「お父さんはここにいてください。様子を見てきますから」


 智之が恐る恐る玄関に足を踏み入れ、あたりの気配を探る。


「誰もいないようですけど……」


 圭介が合図を送ると、食堂にいた妃那が甲高い悲鳴を上げた。


「キャー! 誰か! お父様! 誰か助けて!」


 続いて、ドシンバタンと何かが倒れる音が聞こえてくる。


「智之、まずは警察だ!」

「しかし、妃那が!」


「いやあ、お父様ぁ!」とさらに続く妃那の叫び声に、智之は源蔵を振り払って中に駆けこんでくる。


「待て! 智之、危ないだろう!」

「妃那を放っておけません!」


 そうやって二人がもみ合い始めた時、圭介は合図をして、家じゅうの電気をつけた。


 源蔵と智之ははっとしたように辺りを見回し、そこに10人以上の人間がいたことにようやく気付いたらしい。


 何があったのかわからないと言った顔で、二人ともしばらくの間硬直している。


 そのそばを母親がスマホで動画を取りながら出てきた。


「はい、チーズ」


「な、なんじゃ!?」


「お父さん、いい顔してるわー。とってもおマヌケな顔」


 きゃははと母親が笑う。


 食堂から妃那が満面の笑顔で飛び出してくる。


「どう? お父様、驚いてくれた?」


 智之は一気に緊張が解けたのか、その場にしゃがみこんでしまった。


「驚く前に心臓が止まるかと……」


「ほら、見て、お父様。みんなでツリーを飾ったの。お父様とおじい様も一緒にびっくり点灯式よ」


 智之はまだ青い顔を上げ、ようやくキラキラと光を放つツリーが目に入ったようだった。


「どう? きれいでしょ?」と、妃那は得意げな笑顔を向ける。


「うん、きれいだ……が、おまえのあんな悲鳴を聞いたせいで、まだ心臓がバクバクしているじゃないか」


「あら、お父様、緊張している時ほど、恋をしやすいのでしょう? お父様ももっとわたしを愛してくれるのではないかしら。吊り橋効果よ」


「ばかもの」


 智之はぎゅうっと妃那を抱きしめた。妃那もうれしそうに目を細めていた。


「まったく、何だ、この騒ぎは!?」


 源蔵の怒鳴り声で、一瞬場が凍り付く。

 圭介は気にせず一歩前に出た。


「せっかくならジイさんたちも一緒に点灯式やった方がいいと思って。けど、ジイさんは簡単に驚いた顔してくれないし。で、少し驚いてもらえる要素を追加したんだよ」


「おかげでいい絵が取れたわよー」と、母親がスマホを振ってみせる。


「みんなそろって、いい大人が! おまえたちで勝手にやれと言ったのに。食事の準備はできているのか!? もう時間だろう!」


 源蔵はカッカしながら歩いて行ってしまった。その後ろを琴絵がついていく。


「……ジイさん、完全に怒らせたかな」


「さあ。びっくりしていたのは確かね」


 ほら、と母親に見せられたスマホの写真に圭介はぶっと吹いてしまった。


 そこには源蔵が白目をむいて口をあんぐりと開けていた。


 妃那もそれをのぞき込んで、笑い転げる。


「おまえの計画、うまくいったな」

「ええ。この計画の成功率は99.5%ですもの」


 誇らしげに笑う妃那の頭をなでてやった。


 とはいえ、その後の夕食は先ほどまでの興奮はどこへやら、しんとしたものだった。


 ――が、時折、妃那と母親が思い出したようにくっくと笑っている。


 源蔵の醸し出す不機嫌オーラなどお構いなしだ。

 もっとも源蔵のびっくり顔を見た後では、源蔵を見るたびに思い出してしまって、圭介もつい笑いをもらしてしまう。

 吹き出してしまいそうなのを抑えるために、目の前の皿に集中しているのだ。


「妃那」と、源蔵が声をかける。


「はい」と、妃那は顔を上げたが、今にも笑い出しそうなのをこらえている顔だった。


「庭の作業はいつ終わるんだ? 騒がしくてかなわん」


「予定通り、パーティの3日前。あさってには終わります」


「点灯式をやるのなら、前もって言っておけ。毎回毎回驚かされてはかなわん」


「では、おじい様、おひげをそっていらして。そうしたら驚く顔がちゃんと見えますから、わざわざ驚かせる必要はありません」


「できん。これはわしのトレードマークだ」


「あら。では、もっとびっくりする計画を立てないと。今度は腰を抜かすくらいの大計画を。ご存知? 『知る者』のわたしがそう断言したら、それは事実になりますよ」


 妃那がいたずらっぽく笑うと、源蔵のひげがピクピク動いていた。


「ジイさんも観念した方がいいですよ。今度は家を爆発とかやりかねないですから」


 圭介が言うと、母親がガマンできないと言ったように吹き出した。




 それから3日後、庭の点灯式に源蔵は本当にひげをそって現れた。

 家族全員、大小の差はあったものの笑ってしまった。


「え、うそ、マジでジイさん?」

「やだ、お父さんの顔初めて見たわ!」


「おじい様、そちらの方がずっと素敵よ」と、妃那は笑いながら頑張ってお世辞を言う。


 智之はまともに笑ってはまずいと思ったのか、背を向けて肩を揺らしていた。


 威厳も何も感じさせない、どこにでもいるただの小さな『じいちゃん』になっていたのだ。


「うるさい! 点灯式は始まらんのか!?」


「はい、ただいま」


 妃那は笑いを抑えながら、家の方に合図を送った。


 闇に沈んだ庭に光がぽうっと浮かび上がる。

 芝生の上には雪の結晶がちりばめられ、そりに乗ったサンタクロース、それを引くトナカイが光を放ちながら空を飛んでいる。

 庭の生け垣も無数の光を放ち、建物にはツタのように電飾が流れ落ちていた。


「すげ……」と、あまりの美しさに圭介もぽかんと見てしまった。


 ふと周りを見ると、みんな同じように呆然と庭を見ていた。


 圭介よりずっと長くここで生活していた人の方が驚くのかもしれない。

 どう見ても、見慣れた自分の家の庭ではないのだから――。


「どうやら今年のクリスマスは楽しくなりそうね」


 そう言った母親は、ほんのりと目を細めてやさしい顔をしていた。

 圭介もうなずいた。

次回より第6章【妃那&彬編】がスタートです。

クリスマスパーティ、圭介の期待通りになるのか。

その裏では妃那の計画があって……。

二話同時アップ、お楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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