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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第6章-1 みんなからの祝福、いただきます。~母ちゃん編~

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16話 意外と相性がよさそうかも

本日(2023/03/31)、二話目になります。

 月曜日の昼、圭介がクリスマスパーティの件を桜子に切り出すと、意外とあっさりオーケーしてくれた。


「いいのか?」


「だって、チャンスじゃない。神泉の人に会えるなんて。そりゃ、1回パーティに行ったくらいで、簡単に認めてもらえるとは思ってないけど、そんな機会待っていてもなかなか来ないもん」


「うん、じゃあ。パーティに来てもらって、終わったら出かけようか」


 その意味に気づいたのか、桜子はほんのりと顔を赤く染めて笑顔でうなずいた。


(よし、そっちは問題ないということで)


「それにしても、神泉でクリスマスパーティって、どういう風の吹き回し? あんな神道バリバリの家で、よく当主が許したよねー」


 薫子がいまいち納得いかないといった顔をしている。


「それはこいつが理屈でごねまくって、ジイさんが最後に折れた」


 圭介は隣でご飯を食べている妃那を親指で指しながら答えた。


「ふーん、妃那さんの発案? そんなにクリスマスをやりたかったの?」


「わたし、今までにそういうものをやったことがなかったんだもの。興味があるわ」


 妃那は相変わらずそっけなく答える。


「日本一のイルミネーションを作る気満々。せっかくだから、おまえも見に来たら?」


「招待されていないのに、さすがに行けないよー」


「別に招待状とかはないんだよな? 『桜子を連れてきたら』ってあっさり言ってたし」


 妃那に確認すると、コクンとうなずいた。


「会社関係は招待状があるでしょうけれど、家族も連れてくることになっているから、人数はかなり大雑把(おおざっぱ)だと思うわ」


「うーん、神泉家の中なんて、なかなか入る機会がないから、ぜひとも行きたいんだけどー。

 あたしまで行っちゃったら、彬くんがお父さんとお母さんに邪魔者扱いされそうでかわいそう。本当は二人っきりで過ごしたいだろうに」


 妃那がクリスマスパーティにいるということは、彬の方は一人。クリスマスは家族で過ごすといっていたので、家にいることになる。


 しかし、智之に話してしまった今、薫子のように『彬も誘えば?』などと軽々しくは言えない。


(……顔合わせたら、あの人、きっと冷静でいられないんじゃないか? 今のところどうこうしようとはしていないみたいだけど)


 恐ろしいことを考えてしまって、圭介の顔から血の気が引いた。


「なら、彬も呼べばいいことでしょう?」


 それを他でもない妃那が言ったから、ぎょっとした。


「えー、彬くんまでいいの? 三人でぞろぞろ迷惑じゃない?」


「あなた、人の話を聞いていた? 人数は適当なのだから、一人二人増えたところで、料理などは充分に足りるわ」


「なら、行かせてもらおーっと。ちなみに料理って、クリスマス料理なの?」


「ええ。クリスマスパーティですもの。七面鳥とかケーキとかそういったものになると思うけれど。あとはシェフの判断よ」


「神泉家お抱えシェフの料理なんて、さすがに食べる機会がないわー」


 薫子がじゅるっとよだれをたらしそうな勢いで喜んでいる。


「ねえ、圭介。本当に兄弟三人でお邪魔してもいいのかな。ほら、あたしもご家族に会うの、初めてなのに」


 桜子は不安そうに聞いてきた。


「逆に気楽でいいんじゃない? ほら、かしこまったパーティだと、おまえもお嬢様やらなきゃいけないし、弟たちがいた方が自然にふるまえるだろ?

 ジイさんたちにはいつものおまえを見せたいし、そういう桜子をおれは好きになったってわかってもらいたいからさ」


「圭介……」と、桜子の顔がうれしそうにほころんだ。


「家族に紹介って、桜子はそんなにセックスすることを喜んでもらいたいの?」


 妃那の言葉に飲みかけの茶をぶっと噴いた。桜子もゲホゲホとせき込んで、胸を叩いている。


「妃那ー! またおまえはめちゃくちゃなことを!」

「圭介が言ったのよ」

「おれはそんなこと言ってない!」


「でも、セックスするというのは仲が良いという証明なので、親は喜ぶのでしょう。それはつまり、子宝を期待できると親は思う。だから、子供を作らない関係は喜ばないし、親は反対する。要は親に紹介し、認めてもらうということは、子作りをしますと宣言することでしょう。間違っているかしら」


「い、いや、間違ってる……? 合ってる……?」


 桜子に同意を求めても、顔を赤くしたままうつむいているだけだった。


「ああ、でも、なんかわかるかもー」と、薫子は涼しげな顔でうなずいている。


「わかるのか!?」


「だって、お付き合いの行きつく先ってそれなわけでしょ? 親が付き合いを許すってことは、結局、身体の関係を持ってもいいっていう許しを得ることじゃない。

 もっとも、この人の言っているのは結婚の許しの方だと思うけど。

 結婚するとなれば、親は孫を期待するのは一般的なこと。Hして子作りに励んでいると思えば、喜ばしいことでしょ。

 桜ちゃんの場合はお付き合いというより、婚約を認めてもらいたいわけだから、孫を作ってあげるけど、どうですか、と聞きに行くようなものかなと」


「あら、めずらしく意見が一致したわ」と、妃那がうれしそうに目を輝かせた。


「けれど、セックスのことを『H』というのはどうも奇妙だわ。Hとは『変態』の頭文字でしょう? 『Hをする』、つまり『変態をする』ということになって、セックスとは意味が異なってしまうと思うのだけれど」


「妃那さん、言葉の定義は変わるものなんだよ。言葉は生きていて、時代で文法も書き方も意味も変わっていくの。

 たとえば、平安時代『夜這(よば)い』は結婚を表す言葉だったけど、現代では夜中に性行為を目的として、他人の寝ているところを襲うことになってるでしょ。

 Hの意味も当初は変態を表すことだったけど、今はセックスの隠語として使う人が多いってことだよ」


「なるほど、よくわかったわ」


 妃那があっさりとうなずくので、薫子は意外そうな顔をしていた。

 もっと反論が来ると思ったのだろうか。


「『H』の定義の変化については、わたしの使っている辞書には書いていなかったわ。古いのかしら」


「……ええとね、妃那さん。口語っていうのは日常生活で使いやすい言葉が選ばれて、人と人の間で広がっていくものなんだよ。確かな文献に掲載される前に消えていく言葉も多いの。

 最たるものが『流行語』っていうやつ。その時に流行った言葉でも、何年かしてもまだ使っていたら、『古い』って思われたり、逆に『流行語』が定着して、一般的と判断されれば、辞書にも掲載される。

 あなたに足りないのは既存の知識じゃなくて、圧倒的に人とのコミュニケーション。人がどんな言葉を使っているのか、どのように使っているのかを会話の中でつかんでいかなければ、あなたの知識とはなりえないんだよ」


「とてもよくわかったわ。これからは人の会話というものに注意してみるわ」


 妃那がうなずくと、薫子は複雑そうな顔をしていたが、圭介はパチパチと小さく拍手した。


「おお、薫子、すごいな。おれにはそんな風に説明してやれん。時々、妃那の話し相手になって、いろいろ教えてやってくれよ」


「いやよー、こんな人」と、薫子は言葉通りイヤそうな顔をする。


「でも、わたしは理路整然(りろせいぜん)とした人が嫌いではないわ」


 どうやら妃那の方は気に入ったらしい。


「おまえの『嫌いではない』は『好き』だろ?」


「いいえ。『嫌い』を否定しているだけで、『好き』とは違うわ」


「……ダーリン、あたし、この人のことがよくわかんなくなってきた……」


 薫子は泣きそうな顔をしている。


「まあまあ、薫子。よかったじゃない。きっといい友達になれると思うけどな」


 桜子が薫子の肩を叩いて、やさしく言った。

 一方、妃那は『友達』というものにピンと来ないのか、黙って考え込んでいた。

次回はクリスマスパーティ直前。桜子へのプレゼント選びや神泉家での点灯式などなど。

二話同時アップで、パート1【母ちゃん編】完結です。

もう賛成してもらっているので、とっくに完結でもよかったのですが、次パートへのプロローグ的二話を入れさせていただきました。

どうぞお楽しみに!


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。

感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓

今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m

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