12話 母ちゃんを説得できるか?
本日(2023/03/24)、二話目になります。
圭介視点です。
妙な緊張感が漂っている。
なんだかバトルが始まったような気がしないでもない。
今のところまだ会話は始まっていないが、食事をしながらチラチラと相手の出方をうかがっている、といったところだ。
(……で、争いが勃発? なわけないよなあ)
出会ったばかりの二人を会話に誘導するには、圭介が間を取らなければならないということに気づいた。
「母ちゃん、桜子になんか聞きたいことないのか? 桜子も自分を見せたいって言ってるけど、ここで自己アピール演説したいわけじゃないんだから」
「せっかくのお料理だから、堪能したいじゃない。だから、食事にしましょうって言ったんだけど」
「えー、なに。このまま食事終わるまで黙って食えって? 神泉の家じゃあるまいし、居心地悪いじゃないか」
「だって、ここまで完璧なお嬢様、ツッコミどころがないじゃないの」
「突っ込んでどうするんだよ?」
「場をなごませる笑いを取る」
「ここで笑い取る必要、なくない? 普通に会話すればいいって言ってんだけど」
「うーん、じゃあ、月並みな質問していい?」
「はい、もちろん」と、桜子は笑顔でうなずく。
「そちらのお家では婚前交渉は許されているの?」
桜子のナイフとフォークがガチャンと音を立てて皿に落ちた。
「か、母ちゃん、それのどこが月並みな質問なんだよ! それ、真っ先にする質問か!?」
圭介も真っ赤になって叫んだ。
「一番気になってたから。そこ確認しないで、うっかりやっちゃったら、あんた、あちらのお父様に殺されちゃうかもしれないのよ? そんなこと考えたら、ご飯もノドを通らないじゃないの」
「普通に食ってるよな……?」
「あんたも知っておいた方が安心じゃないの?」
「そ、それは……」
母親に痛いところを突かれて、圭介も桜子の反応が気になってしまう。
チラッチラッと桜子を見ていると、彼女は真っ赤な顔でうつむいていたが、やがてハアッと大きく息を吐いてから顔を上げた。
「うちは子供の恋愛には口出ししないという方針なので、そういうことは本人の自己責任になっています。
それに、両親ともに圭介とのお付き合いは将来も含めて認めているので、ご心配には及びません」
「でも、圭介と別れることがあったら?」
「そのようなことはないと信じています。万が一、別れるようなことがあったとしても、それはわたし自身の問題です。父が手出しするようなことはないと思いますし、わたしがそんなことはさせません」
「あら、そう? 圭介、よかったわね」と、母親が意味ありげな笑顔を向けてくる。
(それはつまり、次にそういうチャンスが来たら、いいってことで……。狙いはクリスマスデートか?)
母ちゃん、グッジョブ! と思わず口にしそうになりながら、小さくうなずくだけにとどめておいた。
「冗談はさておき――」と、母親が言い出すので、圭介は目をむいた。
「冗談だったのかよ!?」
「ほら、緊張してるみたいだし、準備運動的に気持ちをほぐしてあげたのよ」
「だからって、他に方法はねえのか……?」
「というわけで、桜子さんには改めて真面目な質問」
「はい」と、桜子は気を取り直したように口元に笑みを浮かべた。
「圭介のどこがいいの? わたしからすれば自慢の息子だけど、見た目は良くも悪くも普通、頭もそこそこ。それなりの大学に入って、それなりのところに就職するくらいで、どこにでもいる男だと思うの。
あなたのような特別なお嬢さんに気に入られる要素が全く見当たらないんだけど」
「最初は直感でした。この人は他の人とは何かが違うって、興味を持ちました。実際に話してみると、すごく居心地のいい相手だったんです。
ご存知の通り、青蘭の生徒は父を恐れてわたしをちやほやします。圭介は普通の家庭だからあまり関係はありません。でも、わたしは中学まで公立に行っていて、普通の家庭の子もたくさん見てきました。そういう家庭の子と仲良くしていても、大きなお屋敷のお嬢様ということで、越えられない壁を感じているようでした。
でも、圭介はそういうもの全部取り払ったところで、わたしを見てくれるんです。父に会いに来てくれた時も、最初は緊張していたみたいですけど、いろいろ話をして、帰りに『自分の憧れ』だと言ってくれました。
父を怖がる人はたくさんいます。野心のある人はそんな父に憧れるかもしれません。圭介は何の野心の欠片もないのに、そう言ったということは、父という人間を見たということでしょう。圭介は人の内面まで入り込む人です。だから、人の気持ちもわかる。やさしくできる。だから、一緒にいると居心地いいと感じるんです。そんな人を独り占めしたくなって、初めてそれが恋だと気づいたんです」
「カン違いじゃない?」
桜子の長い話の終わりに母親の言ったのは、そのとぼけた一言だった。
――が、桜子は気にした様子もなく笑った。
「それはお母様が同じ資質を持っているから、気づかないだけじゃないですか? お母様もわたしを特別なお嬢様と言いながら、息子の付き合っている相手としか見ていない。違いますか?」
「自分のことはよくわからないからねえ。圭介、どう思う?」
母親が困ったような顔で見つめてくる。
「おれもわかんないけど……。桜子が言うならそうなんじゃない? そういえば、この間、伯父さんにも似たようなこと言われたっけ。母ちゃんとそういうところが似ているって」
「え、そう? あんたの方がマシに人生歩いてたような気がするけど」
「きっと神泉の方々も圭介のそういう資質に気づいて、手放したくないんだと思います。だから、父もほしいと思っているんです。わたしの相手として、そしていずれ後継者となる人間として。だから、圭介がわたしの相手になることを認めてくれるんです。それに、父自身、圭介のことが好きなんですよ」
「あんた、どうするの? ほしいって言われて、犬の子みたいにあげるわけにはいかないんだけど」
母親が圭介に真顔で聞いてくる。
「だから、おれはどうあっても目指す道は変えないよ」
圭介がはっきり宣言すると、母親は「うーん」とうなってから桜子に向き直った。
次回もこの続きの話になります。
母親を味方につけられるか。
後日談も含めて、二話同時アップ、お楽しみに!
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