2話 男親からの助言らしいです
本日(2023/02/10)、二話目になります。
彬は登校中の車の中で大変居心地の悪い思いをしていた。
「たまには一緒に行こうか。学校まで送ってやるぞ」
朝、父親に言われ、彬はその申し出をありがたく受けた。
薫子は学校を休んで桜子の様子を見るというので、一人なら電車で行かなくてはならないところだったのだ。
――が、その父親がまさか自分で運転するとは思わなかった。
しかも車は自家用の小さいものなので、すでに成長して170センチある彬と父親が並んで座っていると、かなり圧迫感がある。
「父さん、運転手は?」
「たまには自分で運転したいと思って、今日は来なくていいって言っておいた」
「ヒマなの? 経営者って、車の中でも仕事しているものだと思ってたけど。
だから、運転手がいるんでしょ?」
「今日は会議まで時間があるからね。重役出勤ってやつ」
(重役出勤って、普通の社員よりちょっと遅く行くだけじゃないの……?)
学校に彬を送って、会社に行ったら、余裕で9時は過ぎる。
「……他にやることないの?」
「ほら、みんな頑張ってくれてるから、おれ、あんまりやることないし」
「父さんは頑張んなくていいの?」
「おれがあんまり頑張ると、他の社員に頑張れって無言のパワハラになるから、気を付けているんだよ」
(それ、普通に仕事しなくても文句言われないための言い訳なんじゃ?)
「へえ……」と、彬は一応お返事しておいた。
「で、華から聞いたけど、カノジョできたんだって?」
「……その話?」
「ほらほら、男同士の会話はあんまり家ではできないだろ?」
「別に生々しい話するわけじゃなければ、みんなの前だってかまわないけど」
「そういう生々しい話をしたいんじゃないか。年頃の娘たちの前では、おれもちょっと気が引ける」
「ちょっとだけ……?」
「なんか、彬もそういうお年頃になったかと思うと、なんだか感動しちゃってさあ。
やっぱり娘とは違うんだなーとか。
男の先輩として、息子に何か父親らしいことを言ってやりたくなるだろ?」
「ええと、じゃあ、謹んで助言を聞かせてもらいます」
「本当に大事なことは一つだけだからね」
「愛とか?」
「そんなのおまえくらいの年頃にはあんまり関係ないだろ」
「そんなあっさり……」
「とにかく妊娠だけはさせるな。あの凶器だけには男は太刀打ちできない」
父親に真顔で言われて、彬はポカンとした。
「そ、そんなの言われなくてもわかってるよ! 母さんにも言われたし」
「いや、あえて言う。わかっていたらできちゃった婚は存在しない。うっかり妊娠もない。おれが身をもって知ったから、言っているんだ」
「……まさか、父さん、外に隠し子がいるとか? それとも過去に妊娠させて捨てた女性がいるとか?」
「いや、それはどっちもないけど。おまえと薫子がその結果」
「……僕たち、うっかりできちゃったの?」
「それ以外にないだろ。年子で三人って」
「あのお母さんのことだから、子供はまとめて産んだ方が楽とか思ったんじゃないかと……」
「だから、おまえにもあえて言いたかった。『大丈夫かな』は絶対に大丈夫じゃない。
今のおまえに酔っぱらった勢いはないかもしれないけど……あっても困るけど、若い分、心が未熟だから、ちょっとしたことで我を忘れて、つい、というようなことが起こりえる」
「肝に銘じます……」
身に覚えもなくもないので、彬はしゅんとうなだれた。
「ところで、最近、圭介くんと仲いいの?」
「どうして? 別に普通だけど」
「……うわあ、やっぱりそっちか」
父親は信号で止まって、ハンドルにがっくりと頭を落とした。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」と、気を取り直したように青信号で発進した。
「そう?」
(何でもないようには見えなかったけど。変な父さんだな)
「で、おまえは桜子が心配じゃないの? 薫子みたいに学校に行かないって言うかと思ったけど」
「もちろん心配だけど、薫子がついていれば大丈夫かなと。メッセージも既読になったし」
「おまえも女ができて、ようやく姉離れして、やれやれと思ってたのにな」
チラリと父親の横顔をうかがうと、どこかゆううつそうな表情に見えた。
「困るの? その方がいいんでしょ?」
「本当にそうだったらな。それはまあ、今はいいか」
「……父さん、何か言いたいことでもあるの?」
「今朝、圭介くんから計画の話を聞いたんだ」
「父さんも知ってたの?」
「けど、正直なところ、詳細は知らない。だから、あのお嬢さんが変なことをする前に、おまえが止めてやれ」
「別に変なことはしないと思うけど。なんで、僕? 圭介さんの方が適任だと思うけど」
「だって、おまえの女だろ?」
彬は唖然として言葉が見つからなかった。
そんな彬を見て、父親はクスクスと笑う。
「おまえ、本当に素直だよなー」
「カマかけたの!?」
「そこで驚くかなー。自分からボロボロ、ネタ晴らししてたのに」
「え、うそ……。僕、そんなこと言った覚えないけど」
「やっぱりおまえはいいとこの坊ちゃんだな」
「それ、嫌味?」
「全然。いい子に育ってくれてうれしいって言ってるの」
「みんなには言わないでよ。薫子は知ってるけど」
「なんで? 紹介してくれないの?」
「そういう関係じゃないから」
「どういう関係かはわからないけど、おまえの手に負える女だといいな」
「それ、僕には無理って言ってるの?」
「違うよ。そうなるといいなって期待してるだけ」
「なんか、意味わかんないけど……」
「いいんだよ。子供の恋愛に口出すつもりはないんだから」
「ふーん」
彬は返事はしたものの、やはり意味は分からなかった。
(父さんと1対1って、けっこう難しいよな……。何考えてるかわかんなくて)
次回から計画が本格的にスタートするわけですが……。
さて、その通りに進むのか?
二話同時アップ、お楽しみに!
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