4話 サヨナラのあいさつ
本日(2023/01/17)、二話目になります。
前話からの続きの場面です。
ホテルの大広間――。
王太子は拍手に迎えられて、開かれた扉からさっそうと入っていく。
圭介はその後ろからゆっくりとついていった。
フォーマルなスーツの男性やイブニングドレスを着た女性が入り乱れる中、制服を着た圭介は場違いだった。
「圭介!」
人ごみの中から桜子が飛び出してくるのが見えた。
白いドレスはなんだかウェディングドレスのようだ。
首に飾ったネックレスが光に反射して、ただキラキラとまぶしい。
「どうしたの? 何かあったの?」
王太子は思ったより近くに立っていた。
桜子に告げる言葉が聞こえるように陣取っている。
内緒話すら許さない、と言われている気分だった。
「桜子、ごめん」
「ごめんって、何が?」と、桜子はキョトンとしている。
圭介は自分で思っているより平静を保っているらしい。
「セレン殿下に幸せにしてもらって。おれにはもうできないから。妃那と婚約することにしたんだ」
「え……」
桜子は言葉の意味がわからないと言ったように目を見開いた。
「おまえの笑顔をずっと見て生きて行かれたら、幸せだって思ってたのに。そんな顔させて、ごめんな」
「圭介、ウソでしょう……? 冗談よね?」
桜子の大きな瞳に涙が浮かぶのを見つめながら、圭介は首を振った。
「これでお別れ。さよならを言いに来たんだ」
「ヤダ……。いやよ、そんなの認められるわけないじゃない!」
涙声で叫ぶ桜子の脇から、薫子が「ちょっと、ダーリン!」と叫びながら飛び出してくる。
パーティなんて興味ないと言っていた薫子が、珍しく来ている。
小柄でスレンダーな身体に青いドレスは、いつもより大人っぽく見えた。
「頭おかしくなっちゃったんじゃないの!? 桜ちゃんに何をわけのわからないこと言ってるの!?
ああ! もしかして、一つ屋根の下で王太子と何かあったとか、疑ったりしたんでしょー。
それで信じられなくなっちゃったとか?
言っておくけど、桜ちゃんはダーリンのことしか見てないんだからね!」
「知ってる。信じてくれたのに、裏切ったのはおれ。ごめんな。何度でも謝る。気のすむように殴ってもらってもいい」
「そんなことできるわけないじゃない……!」
「桜子、おまえの幸せを祈ってる。どんなことがあっても、おまえらしい笑顔を浮かべていられるように」
「そんなの無理。圭介を失ったら、あたしはもう笑ったりなんてできない! そんなこともわからないの!?」
「大丈夫。おれがいなくなっても、おまえの手の中にはたくさんの幸せが残るから。みんなが幸せにしてくれるから、心配しなくていいよ」
桜子は言葉も出ないのか、涙をポロポロ落としてただかぶりを振っている。
それ以上、圭介は見ていられなかった。
王太子が桜子の肩をやさしく抱きよせた。
桜子はその手を振り払ったりしなかった。
「さあ、桜子。お化粧を直してこようか。きれいになったら、みんなに婚約の報告をするよ」
圭介はそれを見届けて、唖然とした顔で突っ立っている薫子を見た。
「薫子、おまえがいてくれてよかった。桜子のことを頼むな」
「ダーリンなんて、大っ嫌い!」
薫子の憎まれ口を最後に、圭介は大広間を足早に出た。
シリアス展開が続いていますが、どうか彬が妃那の計画を聞く日だったことをお忘れなく!
次回は電話の向こうにいた妃那と彬の話になります。
二話同時アップ、お楽しみに!
続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで。
感想、評価★★★★★などいただけるとうれしいです↓
今後の執筆の励みにさせてくださいm(__)m




