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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第4章-3 ロミジュリ展開、お断りします。~子離れ編~

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2話 足掻けば、何とかなる問題なのか?

「それは相手が王太子だから断れないのか? それとも小さい頃に見初められて、結婚するって約束してたからか?」


 圭介はどん底に落とされた気分になりながらも、ようやく聞くことができた。


『圭介、誤解しないで』


「誤解って何を? 婚約するかわかんないってことは、婚約するつもりがあるってことだろ?」


『そうじゃない! 新聞に何が書いてあったかは知らないけど、あたしも詳しい話はよく分からないの』


「どういうこと?」


『ここのところグループの役員会議が続いていて、お父さんが帰ってこないから、話を聞けなくて。

 ただ、お母さんから簡単に聞いた話だと、あっちはうちとの取引の条件として、あたしとの婚約話を持ち出してきたって言ってた』


「新聞に書いてあったことは、本当だったんだな……」


『もちろん、お父さんとお母さんは反対してくれてるんだけど、グループとして利益を追求できるチャンスだから、今のところ半数の役員が賛成しているんだって。

 これ以上賛成が増えたら、お父さんでもひっくり返せない決定になっちゃうみたい』


「会社として決めなくちゃいけないことかもしれないけど、おれはおまえの気持ちを聞いてるんだけど?」


『そんな、聞くまでもないこと聞かないでよ。圭介に対する気持ちは何にも変わってないよ。

 お婿さんになってもらうって決めて、圭介も同意してくれたじゃない。

 あたしは圭介との将来しか考えてないよ』


「けど、王太子とは幼なじみなんだろ? 親戚付き合いしてきたみたいだし」


『そんなことも新聞に書いてあるの?』


「本当なのか?」


『親戚っていっても、遠い親戚だよ。王太子とだって小さい頃に1度会っただけで、幼なじみとは全然違うよ』


「おまえのことを見初めたって書いてあったけど。

 今回の件で婚約話を持ち出してくるところをみると、おまえにご執心ってことなんじゃないか?」


『向こうがどう思ったかは知らないけど、結婚の約束なんてしてないからね』


 とりあえず桜子の気持ちはわかったし、その気持ちに疑いを持つ必要はない。


 だからといって、状況が変わるわけではない。


 桜子の言った通り、役員会議での決定次第で、否応なく桜子は婚約することになってしまう。

 本人の意思すらも、親の意思すらも通すこともできない。

 大きなグループに属するという現実を初めて知った。


 シンセン製薬のような同族企業なら、役員が創業者一族で固められているので、当主の意見は反映しやすい。

 一方、いくつもの企業を傘下に収め、それぞれに役員がいる藍田グループではそれが許されない。


「お父さんはそれでも反対してくれてるんだよな……?」


『お父さんはあたしたちの味方だよ。今、どういう状況なのかはわからないけど、頑張ってくれてるって信じてる』


「グループの利益を優先しなくていいのか?」


『直接的な利益にはなるかもしれないけど、失うイメージもあるから、総合的に利益になるかどうかはわからないよ』


「軍事に加担するから? 新聞に書いてあったけど」


『うん。いくら(もう)かるからって、その利益の裏でたくさんの人が殺されると思ったら、取引なんてしたくないでしょ?』


「そうだな。結局のところ、おまえが言っていた通り、結論が出るまで『わからない』のか」


『でもね、圭介。たとえ今、婚約することが決まっても、あたしは絶対に最後まであきらめたりしないから。

 あがいてあがいて、しなくて済む方法を見つける努力をするから、圭介も簡単にあきらめたりしないで』


「うん……」


 圭介は返事をしたものの、自分には会社の決定を(くつがえ)す力もないし、相手が一国の王太子では太刀打ちもできない。

 あがいても、結果は変わらないような気がしてしまう。


「桜子、今日学校は?」


『騒ぎが落ち着くまで、しばらくは無理かも。うちの周り、記者でいっぱいだし、うちの上はヘリがバンバン飛んでるし……』


「新聞にデカデカ写真載せられてたしな」


『朝からテレビにも映ってるよ……。試写会に行った時の映像がしつこく繰り返されていて、さすがに見るのがイヤになる』


「学校に行っても質問攻めにされそうだしな」


『せっかく圭介に会えるようになったのに、またしばらく会えないなんて……』


 桜子の声が沈んだ。


「何かわかったらいつでも電話して。おれ、メディアに載るニュースくらいしか見られないし」


『うん、約束』


 じゃあ、と電話を切った。


 圭介の方は学校をサボる理由はないので、出かけなければならない。

 いつもだったら出発している時間をとっくに過ぎている。


(ヤベえ、遅刻する!)


 慌てて支度を終えて部屋を出ると、入口の壁に妃那が寄り掛かっていた。


「……立ち聞きしてたのか?」


「失礼ね。遅いから迎えに来たのに。電話中みたいだったから待っていたのよ」


「そう?」


「さあ、行きましょう。今日は邪魔な桜子がいなくてうれしいわ。行きも帰りも一緒よ」


 妃那はご機嫌な様子で圭介の腕を取って引っ張っていく。


「……て、やっぱり立ち聞きしてたんじゃないか」


「いいえ。聞かなくてもそれくらいこの状況から察することはできるわ」


「だよなー……」




 その日1日、妃那は桜子の話をしなかった。

 付き合っていることを知っている妃那が何も聞いてこない。


 このニュースを知って、邪魔者は消えたともっと喜ぶのかと思っていた。

 これで婚約は決まりと、迫ってくるのかと思っていた。


 そんな圭介の予想に反して、妃那はいつもと変わらずに学校へ一緒に行き、二人のランチを楽しんでいた。


(『知る者』だから、全部知っていたのか? それとも……)


 変におとなしすぎる妃那が奇妙だった。

次話、薫子もいよいよ始動?

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