<11話> 「踠きし者」 =Fパート=
休憩時間が終了し、今回の我々の目的である富くじの発行承認に議論が及んだ。
アレクサンダー商会単独で行う予定であったが、他の役員が一緒に参加したい旨を表明した。
すると「俺も俺も」と、次々に参加希望の商会が名乗りを挙げていった。
収集が付かなくなりそうであった為、結局は理事長の一声により、ギルドを挙げて行う事となった。
アレクサンダー商会として、大規模化は嬉しい誤算であった。
決を取る。
他の商会メンバーやギルドの役員は、賛成多数。
異論を唱える者はいない。
無事に承認されるかと思った時だ。
一人、絡んできた。
ビニー・ケイルだった。主張はこうだ。
「自分の経営失敗により招いた負債をなくす為、富くじを用いて市民に補填させるのか?」
「他国の王族らしき怪しき赤髪の女が商会に出入りし、助言したとの噂がある。他国の陰謀に荷担するのか?」
「富くじなど、ここ百年以上行われていない。経済規模が発展したこの都市で、そんな実績のない物を認められない」
「無理だ。過大評価し過ぎている。リスクも考えろ」
(いるんだよね……、自分が出来ないからって、無理って決め付ける人。
その為のチーム連携を今、ギルドで模索中なのに)
役員からも、ついに冷ややかな眼差しを浴び始めたビニー・ケイル。
(何なんだ、この人は……)
私の中に、いや恐らく、ここに居る多くの者の中に、やり場の無い怒りがこみ上げてきていた。
アレクサンダー商会単独の場合の計画案を参考にと配ったのだ。
ビニー・ケイルは、そもそも数値計算も理解出来ていない。
さらにはトンチンカンな数値にいちゃもんを付けてきた。
アレクサンダー商会の計画案は悲惨で、恥ずかしい数字だとビニー・ケイルは言う。
しかしこれは全くの間違いで、むしろこの計画案は現実的で、控え目に言っても大成功の可能性が大であると役員たちは読み解いた。
ビニー・ケイル曰わくーー
「こんな素人が考えた富くじの計画案を。 ま、好き勝手やりたいならギルドでなく
個店で行えば良いんじゃないですかねぇ。ここに話を持って来るなって言う事ですわ」
ここは商会のギルドであり、更には百年以上行われていない事もあり、役員ですら富くじの素人ではあった。
そしてウィリアムさんは、好き勝手やるなどとは一言も言っていないのにである。
妄想が激しいのか、意味が理解できないのか、はたまた両者か。
ビニー・ケイルが吠える。
「以前、某商会に経営でおかしな所があったので指摘してあげたんですよ。わざわざ店に出向いてね。
私の言う事を聞かず、結局そいつは店を閉店し、この街から消えましたね。本当、笑えますよ」
(それにしても、よくもまぁ、他の商会や役員を全員敵に回す様な事を平気で言ってくるなぁ。
本人、気が付いていないのか? 気が付いていないんだろうな……きっと)
議論は空回りを始め、もう一度休憩を挟む事となった。
そして事件は急転直下の展開を迎えた。
「おい。ケイル」
声を掛けたのは、傍聴していた一般組合員だ。
その声にドキッとしたのか、ビニー・ケイルは一瞬で立ち上がった。
「店長!?」
ビニー・ケイルは警備兵に連れていかれた。
その顛末に、我々と役員一同、唖然とした。
Gパートへ つづく




