<8話> 「魔神」 =Dパート=
エフェクトが消えると、そこには少女が横たわっていた。
更にその傍らにはキレイなリボンが落ちていた。
(ドロップアイテムか。それにしても少女は? ゲームではそんなイベントは無かったけれど……)
「ん? 何これ?」
凄まじい内に秘めた魔力を感じる。
それに気が付いたのは、何人かだけだった。
皆が少女の方を見ていたが、この魔力の根元は、転送装置の方だ。
「これ、キャサリンより強いんじゃ?」
それは転送装置からやって来た。
白髪の老人の様に見えるが、中身はまるで別物だ。
例えるのならば、イリーナに憑依している邪神に近い存在だ……。そんな気さえ感じさせる。
すると、イリーナの額に瞳の紋様が浮かぶ。
(イリーナの中の邪神が呼応している?)
邪神は意識を失ったイリーナの代わりに、身体を起こし、それに近付く。
近寄って来るそれは、少女の元へと歩み寄る。
洞窟エルフの王は、皆に手を出さぬ様にと、司令を出した。
イリーナの身体を通し、邪神がそれに話し掛る。
「久しいな、エンキよ」
それはイリーナの方を向いた。
「予をエンキと呼ぶ貴様。咆哮し者……か?」
「フフ。懐かしい名前で呼んでくれおるわ」
(どうやら、知り合い同士のようだ。いきなり戦闘にはならずに済みそうで良かった。正直、勝てる気がしない)
「どうやら、娘のニンクルラが迷惑を掛けた様だな」
「なあに、礼ならば我ではなく、隣りにおる友のリルへせい」
「へ? 私?」
「うむ。咆哮し者の友、リルよ。予は助かった。感謝する」
「え? えーー? どういたしまして?」
不意を付かれた私は、思わず疑問系になってしまった。
エンキは礼を告げると、少女である娘の傍らに寄り添う。
「娘は、自身の生んだ植物の怪物に取り込まれてな。娘の魔力を吸い、あの様な巨体に成長したのだ。予もこの神殿より出られなくなり、困っていた。予は怪物には負けはしないが、勝つ事も容易ではない」
(なるほど、私もそうだ。独りでもキャサリンに負けはしないが、勝てもしない)
「まさか娘が無事に帰ってくるとは、思いもよらなんだ。予は本当に感謝しているのだ。何か褒美をとらせよう」
私は一瞬考えたが、直ぐに答えた。
「そうですね、私は情報を望みます。エンキ老師、あなたからは魔人に近い、でもそれとは異質の何かを感じます」
「良かろう。予の知る事を話そう。予は魔人ではなく魔神よ。我々魔神は、こことは別の世界に住んでおるのだが、突然この世界へと神殿ごと転移させられれたのだ。ひと月前に」
(私と同じ頃にこの世界に?)
「この世界に魔王が現れたのも、ひと月前ですが、何かご存知の事は?」
「現・魔王……。あやつも我々魔神の一人よ」
「老師と魔王とのご関係は?」
「リル殿、そなたは予が敵となる事を心配しておるのだな? だが安心せよ。現・魔王との縁は限りなく薄い。そして、そこもとの隣におる輩と違い、予は恩を仇では返さぬ」
「フン。ぬかせ」
邪神が言葉を挟んだ。
「それにだ。先程そなたは『予には勝てぬ』そう思ったのであろう? だがそう思ったのも、予とて同じ。『そなたには勝てぬ』そう思っておる」
「はぁ、そういうモノなのでしょうか?」
邪神がまた言葉を挟む。
「友よ、そういうモノよ。エンキはああ見えて、学者肌でな。魔法魔術は多少使えるが、戦闘はからっきしよ。クククッ」
さっきの暴言に対して、お返しとばかりに言う。
実に嬉しそうだ。
イリーナの口元までもが緩む。
(やれやれ。大人気ない……)
エンキはその言葉を無視して娘を抱かかえていた。
そして、娘の横に落ちているリボンを魔力によって浮かせて、こちらへと放った。
それをイリーナの身体で受け取る邪神。
(なんだかんだ言って、仲が良いよね)
どうやらゲーム内と同じく、状態異常耐性てんこ盛りのリボンの様だ。
Eパートへ つづく




