<2話> 「異世界と仮想の狭間で」 =Hパート=
<2話> 「異世界と仮想の狭間で」 =Hパート=
ルイダは、無反応だ。
包んだ外套ごと、私はルイダを抱え込み、移動した。
私は悩んでいた。
ルイダをどうすべきかを。
結論から言うと、ルイダを正面口手前の受付の内側に置いてきた。
これからの戦闘は、瞬殺し損ねた瞬間、100体以上の魔物に襲われる事になる。
そうなってしまったら、ルイダを助ける事ができない。
失敗した場合は、私が囮となり、その100体を引き付け、宿から離すつもりだ。
私は正面口にある障害物を退かし、鉄の柵を開けた。
中に自分以外に居ない様に思わせる為、わざと正面口を開け放ったままにしたのだ。
外に出ると、魔人の数を確認した。
私の正面、路上に1体。
私の頭上、空中に1体。
1体見当たらない。
(まずいな。1体倒したのがバレたか?)
そう思った瞬間、残りの1体が私の影より現れ、背中側から襲ってきた!
私はとっさに振り返ったが、魔人の繰り出す右手の爪の攻撃を躱せなかった。
私の心臓のある左胸の辺りを爪で切り裂きにきたのだ。
が、次に起きたのはこうであった。
攻撃してきた側の魔人の爪が砕け、腕があり得ない方向へと曲がった。
そして私は、ぼそりと呟いた。
「最低」
服には、爪の跡が残り、裁断されてしまった。
それにより胸が、はだけた。
しかし、身体には傷一つ無かった。
あまりの硬さに、攻撃した側がダメージを負ったのであろう。
私は剣を構えた。
そして腕が曲がり、のたうち回っている魔人の首を一瞬で斬り裂いた。
≪黄昏の剣≫
|破壊力 :125
|攻撃力 :+60
|片手剣技:+340
|耐久値 :∞/1
|etc...
「さて」
私は目の前に立っている魔人を睨み付けた。
そして防具を装備し直した。
GMの防具を装備してしまうと、「ここにGMが居ますよ」って宣伝するようなモノだ。
その段階ではない。
進軍の目的すら解らないのだから。
軽装備の鎧などを選択した。
ただし、性能は本気だ。
軽装備の防具は、重装備の鎧と違い、特殊効果が付与された物も多い。
これも、その内の一つだ。
(後手に回るのは止めだ)
標的を空中の魔人に定め、転移魔法を直ぐに掛けられる様に準備した。
私は姿勢を低くし、剣の刃の方向を水平にした。
平突きだ。
平突きの発動する瞬間、GMスキルで目の前に居る魔人の背後に飛んだ。
私は背後から魔人の左胸を貫く。
更に平突き発動中に魔法効果を発動させた。
私の唯一使える魔法、転移魔法である。
GM権限により強制転移も可能なのである。
平突きで突いた更にその先に、空中に居た魔人を強制転移させた。
私の平突きは、背面から2体目の左胸をも的確に貫いた。
そして今度は平突きしていた右手に左手を添え、右胸側へと横薙した。
1体は見事に最後まで切断されたが、切っ先側のもう1体は勢いが付き過ぎて3メートル程右側へ吹き飛んだ。
(まだまだ、だな。次は転移魔法での受け手側の硬直時間を配慮して上手くヤルか)
薙ぎ払い、剣を振り切った為、その剣を止めた瞬間に隙が出来た。
構え直そうとした時だ。
背中から、雷が突き刺さった様な感覚があった。
私の身体に、魔法の杖とも短剣とも違う何かが、貫き刺さっていた。
「ぐがぁ」
(しまった、乙女にあるまじき声を)
突き刺さっていた何かが、私の体をすり抜け、風と共に地面に落ち、そのまま斜めに地面に突き刺さった。
私の鎧の追加効果が、守ってくれたようだ。
5分間に1度分身が、私を攻撃から守ってくれる風魔法が付与されているのだ。
私は背後から、おぞましい気配を感じた。
振り返らなくても分かる。
(彼女だ)
「ほぉ、人間の娘、何やら面白い玩具を着けておるな」
私は隙を作らないよう、慎重に振り返った。
振り返ったその時、丁度ヘアカラーの効果が切れた。
それまで黒かった髪が、赤くなり、風になびいていた。
「いや、人間ではなかったか、フフフフ」
そこには暗黒竜の首筋に跨がる、少女の姿があった。
青白い肌には鎖以外、布などは何もまとっていない。
鎖は手枷と足枷から、小さな胸をつたい、首輪へと繋がっている。
お腹の辺りに施錠の様な物もあり、繋がっている。
暗黒竜に乗った邪神に憑依されし巫女が、私を殺しにやって来た。
3話へ つづく
2話をお読みいただき、ありがとうございます。
ファンタジーやMMOでは、時代設定が1300〜1500年代の事が多いように感じます。
この作品は、作中でもあるように1700年前後の設定にしています。
鉄砲や、帆船などの出番がくるまで、連載を続けたいものですね。




