<2話> 「異世界と仮想の狭間で」 =Dパート=
「どうしたら良いの。これ、絶望だわ」
大勢の客が居てうるさい店内ではあったが、私の声が聴こえたのか、プルが近寄ってきた。
「どうしたっす? もう悪酔い?」
「それが、全然酔えなくて……」
「えーー」
「プルちゃん、このお店で一番強いお酒、お願い」
「えっと、一番強いのは蒸留酒だけれど。普通は炭酸入りの水で飲むのね。そのままストレートでいっちゃいます?」
「いいわ、それ頂戴!」
プルが硝子製の小さなグラスを棚から取り出し、瓶から注いで、持ってきた。
「これで酔わなかったら、人間じゃないっすよ! 比較的甘めの蒸留酒っす」
(確かにこの世界の人間ではないけれど……。
これで酔わなければ、この世界に絶望しかない)
私は一口、口にした。チェリーブランデーの様な味がした。
(うー、これバニラアイスに掛けて食べたい。何それ、想像しただけで美味しそう)
二口目、体が温かくなる感じがした。
二口だけなのに、ほのかに酔ってきた。
(これはいけるかも)
アイテム表示を見た。
|≪バラザクラのブランデー≫
|アルコール度数40%
|大量に飲むとHPが減り、死にます。
ぶーーーーッ
思わず、吹いた。
(お酒、もったいない、もったいない)
「大丈夫っすか? 吹いちゃったけれど」
「あー、大丈夫、大丈夫。昔の事を思い出しちゃってね。思わず……ね」
「思わず吹いちゃう、蒸留酒にまつわる面白話し、聞きたいっすねー」
「あー、えー。また今度機会があればね」
「ちぇー。今度の時の楽しみしておくっすよ」
(大量にって事は2~3杯なら大丈夫よね。良かった。私の毒物耐性スキルをも超える強いお酒があって。この世界の神様、絶望した私をお許しください)
ブランデーをストレートでコップで何杯も飲んでいたからか、全く他の客に絡まれなかった。
きっと、こう思われているに違いない。
「あの人、酒豪だから、一緒に飲んだら潰される」って。
誘惑に負け、ブランデーを結局6杯飲んでしまった私。
それでも、ほろ酔い程度だった。
プルさんに「またねー」と告げ、
ほろ酔いながら、宿屋へ戻る事にした。
(そうだ、明日はルイダちゃんの朝食が待っていたわ)
完全に夜の帳が下りていたが、町は各店舗の出す明かりで賑わっていた。
(これなら、迷わず宿屋に安心して帰れるわ。治安の良い町で良かった)
私は夜空を見上げ、立ち止まった。
(ゲーム内で、確か強いお酒をデーモン族が落とした様な。なんだっけな、思い出せないや。もし目の前に現れたら、酔った勢いで打ちのめしてしまいそうだわ)
夜空を見上げていると、一筋の閃光が走った。
「え」
(ちょっとー……)
「嫌な予感しかしないんですが……」
Eパートへ つづく




