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転生王女は今日も旗を叩き折る。  作者: ビス
後日談・番外編
376/396

総帥閣下の夜話。

※レオンハルト視点となります。

かなり甘めに仕上がっていますので、苦手な方は回避推奨(飛ばしてもストーリーに問題ないです)

 

「それでね、テオったら凄い顔をしていたのよ」


「それは見たかったな」


 相槌を打ちながら、柔らかなプラチナブロンドにヘアオイルを塗り込む。

 オレの無骨な指が繊細なローゼの髪を傷付けてしまわないよう、殊更、丁寧に。


 寝台の横にあるテーブルの上の洒落たガラス瓶を取り、中のオイルを少量、手のひらに落とす。体温で温めてから、またローゼの髪にのばすように付けた。


 酷く慎重なオレの手つきを見て、ローゼは苦笑する。


「レオン。そんなに丁寧にやらなくても大丈夫よ?」


「手を抜いたとバレたら、オレは侍女達に殺されるよ」


 冗談だと思っているローゼは、『あはは』と軽やかに笑う。しかし、あながち冗談とも言い切れない。流石に物理的な攻撃はされないと思うが、暫く肩身が狭くなる事は確定だ。

 何せ、侍女の仕事であるローゼの世話を、オレの勝手で奪ったのだから。


 今日はローゼが国王陛下の視察に同行していた為、ずっと別行動だった。

 たかが半日、されど半日。いつも傍にいた弊害か、胸に小さな穴が開いたような寂しさを感じてしまった。


 情けない事だと、自分でも思う。

 けれど開き直っているオレは、今更、ストイックに自分を戒めたりはしない。欲に従って、足りなかったローゼとの時間を補うべく、湯上りのローゼの世話を譲ってくれと侍女達に頼んだ。


 侍女達は当然、渋った。自分の仕事に誇りを持っているというのもあるだろうが、彼女達はローゼに心酔している。

 自分達の手で日々、丁寧に磨き上げている美しい女主人の世話を、粗雑な男に任せたくなかったのだろう。


 オレに引く気がないと悟った侍女達は、不承不承といった体で了承。オレに、手順や加減を事細かに叩きこんだ。


 ここでしくじれば、たぶん二度と任せてもらえない。

 オレは侍女達の説明を忠実になぞった。


「それに、オレが好きでやっているからいいんだ」


「……楽しいの?」


「凄く」


 口角を薄く上げて、答える。

 するとローゼは意表を突かれたように目を見開く。驚いた猫のような目が元の大きさに戻るのに合わせて、視線が泳ぐ。


「……そう」


 頬を淡く染めた彼女は自分の髪を一房手に取り、手慰みのように指にくるくると絡める。照れが滲む声は聞き洩らしてしまいそうなくらい、小さかった。


「いつか爪の手入れもやらせてほしいな」


「えっ……、ツメ?」


「そう、爪。技術が圧倒的に不足しているから、当分、先になると思うけれど」


 髪にオイルを塗る程度なら、ギリギリ許してくれる侍女達も、爪の手入れは断固拒否するだろう。オレ自身もまだ怖くて手が出せない。自分の爪なら、欠けようが割れようがどうでもいいが、ローゼの爪が傷つくのは絶対に嫌だ。


「な、なんで……?」


「楽しそうだから」


「なんで!?」


 ローゼは心底、理解出来ないという顔をした。


 何故と問われて、即座に答えは思い浮かぶ。けれど、正直に話して引かれたくない。

 『自分の宝物を自分の手で丁寧に磨き上げたい』という俗な欲求は、この清廉な妻に、果たして理解してもらえるだろうか。


 数秒悩んだオレは、無言でローゼの手を下から掬い上げるように取る。引き寄せてから、ウロコのような小さな爪に口付けた。


「内緒」


「……っ、顔が良い……!」


 ローゼは、悔しそうに小さく呻いてから天を仰いだ。

 宗教画の天使みたいな姿をしているくせに、オレ程度の容姿で悶えるのだから不思議な感性をしている。


 でも、妻の好みに合致しているのなら、この顔に産んでくれた事を母に感謝しよう。


「色気がすごい……ずるい……」


 ローゼがブツブツと何事かを呟いている間に、用意してあった布でローゼの髪を優しく押さえて、余分な油分を落とす。

 艶の増したプラチナブロンドの輝きを満足気に見つめてから、自分の手も布で拭った。


「ほら、顔を上げて。最後の仕上げをするから」


「……はーい」


 ローゼの髪を軽く纏め、用意しておいた絹の布で包む。

 ローゼは『ナイトキャップ』と呼んでいたが、帽子というよりはヴェールか異国の民族衣装のようだ。


「はい、終わり」


 露わになった形のよい額に唇を落とす。


「ありがとう」


「うん、またやらせて」


 ローゼからの返事はなかったが、嫌がっている訳ではないと赤く染まった耳が教えてくれる。

 未だに初々しい妻は、たぶん恥ずかしがっているだけだと前向きに受け止めておこう。


 道具を片付けながら、時計に視線を向けると、国王陛下との約束の時間が迫っていた。


「そろそろか」


「父様と約束しているんだっけ?」


「そう。だから、先に休んでいて」


「……大丈夫?」


 ローゼの眉がやや下がり、心配そうな顔になった。


「大丈夫」


 晩酌に付き合えと言われた時には驚いたが、別に嫌ではない。

 あの方は自分にも他人にも厳しいが、理不尽な事は言わない。もしお叱りを受けたとしても、それ相応の理由があるはずだから、腐らずに受け止めるつもりだ。


 それに晩餐の時の穏やかな顔つきを見る限り、そう悪い話でもない気はしている。


「虐められたら教えてね。私が仕返しするから」


「もう少し、信用してあげて」


 意気込むローゼに、オレは苦笑して返した。


 寛容で滅多に怒らないローゼだが、父親である国王陛下にだけは少し当たりが強い。昔の関係性を思えば警戒するのも仕方ない事ではあるが、気は許しているようにも見える。今日も出発前は憂鬱そうな様子だったのに、帰ってきた時には良い笑顔になっていた。


 だから、ローゼは国王陛下の事を嫌っている訳ではないと思う。

 おそらく、その逆。きっとローゼなりに、父親に甘えているのだろう。ごく普通の父と年頃の娘のように、互いの様子を窺いながら距離を測っている。


 そう思えば、二人の不器用な様子が微笑ましく見えた。


「オレは平気だから、ほら、休んで。今日は一日出かけていたから、自覚はなくても疲れているはずだ」


 腰に腕を回して支えながら、ローゼの細い体を寝台に横たえる。

 膨らんだ腹部が内臓を圧迫しないよう、横向きにしてから、布団を引き上げた。


 ローゼは寝かしつけられた事が不満なのか、拗ねた子供みたいな顔をしていたが、瞼は重そうだ。

 重力に負けてくっつきそうなのを押し上げて、じっとオレを見つめる。


「おやすみ」


「……おやすみなさい。あんまり、飲み過ぎないようにね」


 少し寂しそうな声に離れがたい気持ちになるが、約束を破る訳にはいかない。後ろ髪を引かれる思いをどうにか抑え込み、寝室を後にした。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 レオン様はマリー様限定で色々とスキルアップしてて、クッキーにヘアケア果てはネイル⁈ やる気すごい。 愛されてますね、激重で。 この後は父様とサシ飲み。どんな話しになるかすご…
レオン様、独占欲が強過ぎてストーカーになりそうな勢いですね(苦笑) マリーちゃんの兄様や弟君も相当な独占欲の持ち主だし、母様も独占欲が強そう、マリーちゃんは人気者ですね。 ……侍女達からの過保護ぶ…
せんべいもですが、キムチも合うそうですよ?お酒に(≧∇≦) つまり、納豆も合うって言うこと・・・ 納豆の天ぷらが水戸市で食べられてるから天ぷらも晩酌に出ますかね??? 発酵食品に醤油や味噌ありますし(…
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