表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/401

転生王女の動悸。

 

 レオンハルト様と話し合いをしたい。

 そう意気込んだものの、神子姫の護衛に加え、団長としての通常業務がある彼は多忙で、中々会える機会がなかった。


 それと……これは私の勘違いであってほしいのだけれど。

 避けられている気がしなくもない。


 一度だけ遠くから見かけた時に、視線を逸らされた。その上、さり気なく方向転換されたし……。

 レオンハルト様に対してだけ繊細な私のハートは、ピシリと砕けそうだ。


 彼が私を異性として見てくれているかも、なんてやっぱり都合のいい思い込みだったのかもしれない。


 自信はあっという間にシュルシュルと小さくなって、ネガティブな私が顔を出す。


 そんな時だった。


「あっ!」


 偶然にも廊下で神子姫と会った。

 私を見つけた神子姫は、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。


「こんにちは!」


「ごきげんよう、フヅキ様」


 神子姫の後ろから、当然の事ながら護衛のレオンハルト様もやってくる。


 あれ……? レオンハルト様、顔色悪い?

 薄っすらとだけど、目の下に隈があるような……。


 目が合うと、一瞬レオンハルト様の肩が揺れた。でもすぐに、何事もなかったかのように余所行きの笑顔を向けられる。

 これ以上踏み込んでくるなと距離を取られたような気がして、胸が少しだけ痛んだ。


 そっと視線を逸らすと、今度は神子姫と目が合う。

 キラキラと輝く榛色の瞳が、何か言いたげに私を見つめていた。


「あのっ」


「はい」


 流石ヒロイン。一生懸命な様子が健気で可愛いなぁ、などと考えながらも言葉の続きを笑顔で促す。

 すると、神子姫は勇気を振り絞るかのようにギュッと目を瞑った。


「宜しければ、その……私とお話ししませんかっ?」


「お話、ですか?」


 突然の提案に驚きつつも問い返すと、神子姫は慌てふためく。


「いえ、あの、お忙しいなら断ってくださって全然構わないんですけど! もしお時間あるなら、色々おしゃべりとか出来たら楽しいだろうなぁとか思いまして……」


 神子姫の声が、どんどん小さくなっていく。それに比例するみたいに視線も下がって、俯いた彼女は所在ない様子で指先同士を絡める。


 庇護欲をかきたてる小動物のような可愛さだ。

 攻略対象じゃない私がこんな可愛いスチル見ていいのかなと、ちょっと本気で心配してしまった。


 おしゃべりイベントといい、大丈夫? 追加料金発生してない?

 なんなら課金する??


「嬉しいです。今日は風が涼しいので、庭の東屋でお話ししましょうか」


 迷走しまくっている思考はおくびにも出さず、にっこり笑って提案する。

 きょとんと目を丸くした神子姫は、すぐに喜色が溢れ出したような顔で頷いた。


「はいっ!」


 はー。かわいい。




 私と神子姫は、広い庭園の一角にある八角形の白いガゼボにやってきた。

 今日も快晴だけど、風は少しひんやりしていて気持ちいい。青空に浮かぶ鱗雲を眺めながら、もう少しすると夏も終わるのだなと思った。


「お姫様と二人でおしゃべりできるなんて感激です!」


「私も、フヅキ様とゆっくりお話ししてみたかったの」


「出来たら、花音って呼んでもらえませんか? お姫様には、名前で呼んでほしいです」


「じゃあ、私の事も名前で呼んで? ローゼマリーだと長ければ、マリーでもローゼでもどちらでもいいわ」


「えっと、ま、マリー様?」


「なぁに? 花音様」


 照れ臭そうに私を呼ぶ神子姫、改め花音ちゃんに微笑む。

 すると彼女は頬を赤らめながら、「えへへ」と嬉しそうに破顔した。


 ほんっとかわいいなー!!


 叫び出したい気持ちをぐっと奥歯を噛みしめる事で、なんとか堪える。

 攻略対象の男子達を捕まえて、膝を突き合わせてじっくりと、この子の可愛さについて語り合いたい。


 というか、攻略対象達と会えたのかな?

 召喚の時に会えたはずのルッツと、私の護衛のクラウス以外って中々会う機会ないよね。魔王の石も無くなっちゃった事だし、もしかして、もう帰っちゃうんじゃ……。


 それは寂しい……でも、魔王が消滅したにしろ解放されてしまったにしろ、ここから先は花音ちゃん一人に背負わせるべきじゃない。


「ねぇ、花音様」


「はい?」


「いつ頃までこの国に留まってくださるの?」


 覗き込んで問うと、花音ちゃんはパチクリと瞬いた。


「勘違いしないでね。私は長く滞在してくださる方が嬉しいわ。でも、危ない目に遭ってほしくもない。父様も貴方が望めば帰らせてくださると思うの」


 花音ちゃんはじっと私を見つめた後、コクリと頷く。

 それから小さな声で、「国王様にもそう言われました」と答えてくれた。


 父様は花音ちゃんが望めば帰れるように、魔法陣もそのままにしてあるらしい。魔力を流し込んで、花音ちゃんが入れば起動するそうだ。


「本当なら、そろそろ帰ったほうがいいみたいです。あんまり長くこっちに留まると、ズレが生じる恐れがあるって」


「ズレ?」


「うーんと、パズルのピースみたいなものでしょうかね。私が来た時間と場所がくり抜かれていて、その空間に今の私ならピッタリ嵌るけど、成長すればする程、嵌り辛くなっちゃうといいますか」


 なるほど。

 二、三ヶ月なら誤差で済むけど、年単位経過しちゃうと成長している分、ピースを嵌め込むのが難しくなるって事かな。


「といっても私は私なので、ズレるとしても少しだけみたいですけど。ちなみに他の人が間違って起動してしまうと、どこに行くか分からないみたいです。下手したら次元の狭間に落ちちゃうかもしれないって」


「……それは怖いわね」


 上も下もない真っ暗闇に落ちる想像をしてしまい、背筋が寒くなる。

 そっと腕を押さえると、眉を下げた花音ちゃんも「ですよね」と同意した。


「一人で暗闇を永遠に彷徨(さまよ)うのは、とても恐ろしいでしょうね……」


 ぽつりと独り言のように呟く。


「……恐れながら、ローゼマリー様」


「え?」


 今まで黙って周囲を警戒していたクラウスが、何故か声をかけてきた。

 何かあったのかと表情を引き締める。


「ご安心ください。ローゼマリー様が向かわれるのでしたら、私が必ず共に参ります。決してお一人には致しません」


「…………」


 半目になった私は、無言でクラウスの端整な顔を眺める。

 有事かと身構えた分、脱力感が半端ない。


 論点が合っているようで合ってない。

 というか決定的にズレている事に気付いてほしい。


 決め顔で宣言してくれているところ申し訳ないんだけど今、そんな話してないんだ。


「あのね、クラウス。気持ちは嬉しいのだけれど……」


「行く先が次元の狭間でも、地獄であったとしても、私はお傍におりますよ。もちろん、嫁がれる時も」


 だから!

 なんで私が次元の狭間だの地獄だの、物騒なとこにいく前提なのかな!? わざわざ好き好んで、そんな場所に行く訳ないでしょうが!


 …………ん? なんか最後、とんでもない事言わなかった?


「……嫁ぎ先にも?」


 青褪めながら、口を開く。


 頼む、空耳であれ。もしくは言い間違いであってください。お願い。


 そんな私の願いを嘲笑うように、クラウスはとても綺麗な笑みを浮かべた。


「はい。嫁入り道具に加えてくださいね」


 よ、嫁入り道具が増えた……!!

 嘘でしょ。普通、嫁入り道具っていったら、家具とか衣類とかそういう物なはず。なんで私の嫁入り道具のうち、二枠がイケメンで埋まっているの。

 こんなの絶対おかしいよ!!


「気持ちだけ貰っておくわ」


「遠慮なさらず。全てが貴方様のものです」


「胸がいっぱいだから、後はしまっておいて頂戴」


 額に手を当てながら返すと、鈴を転がすような可愛らしい笑い声がした。

 出処を探すと、花音ちゃんが私とクラウスを見て楽しそうに笑っている。


「お二人はとても仲が良いんですね」


「えっ」


 何処をどのように見たら、そんな結論が!?


 顔を引き攣らせる私と違い、クラウスは当然だと言わんばかりのドヤ顔だ。


 イラッとしたので殴っていいかな?


「そうでしょうか?」


「はい。マリー様が凄くリラックス……じゃなくて、えーと、寛いでいる? ように見えたので、きっと仲良しなんだなって思ったんです」


 確かに、今更クラウス相手に緊張はしないけど。

 なんか仲良しと言われると複雑な気持ちになるなぁ。


「レオンハルト様もそう思いますよね?」


「!」


 悪気なく、花音ちゃんはレオンハルト様に話を振った。振ってしまった。

 四人しかいないこの場で、レオンハルト様に話しかけるのは、ごく自然な流れではある。気遣いの出来る花音ちゃんらしい判断であって、きっと他意はない。


 レオンハルト様は、たぶん何でもない事のように笑顔で同意するだろう。場の空気をおかしなものに変えないように、当たり障りなく。

 仕方ないって分かっている。でも、聞きたくないし見たくない。私の事なんて欠片も興味ないなんて、思い知らせないで。


 そう思いつつも、目は自然とレオンハルト様へと向かう。

 怖いけれど気になる。知りたくないけど、知りたい。相反する気持ちが命じるままに、レオンハルト様へと視線を向けた。


「…………え」


 驚きに、小さな声が洩れた。

 レオンハルト様は、話しかけた花音ちゃんではなく私を見ていた。真っ直ぐな目は怖いくらい鋭く、熱い。ちり、と肌が焼け付くようだ。

 絡みつくような視線に晒されて、ゾクリと背筋が粟立つ。


 身を竦めた私を見て、レオンハルト様は痛みを堪えるみたいに顔を顰めた。そして口角を微かに吊り上げる。自嘲するみたいな笑い方だった。


「ええ、そうですね。……怖がらせてしまう自分とは大違いです」


 違う。違うの、怖かったんじゃない。

 そう否定したくても、頭が混乱して上手く言葉に出来ない。


「フヅキ殿。そろそろお約束のお時間です。魔導師長がお待ちですよ」


「えっ、え、あ、はい」


 赤い顔で私とレオンハルト様を交互に見ていた花音ちゃんは、促される形で立ち上がる。

 二人が去っていくまで、私は立ち上がることもできなかった。


 怖くて震えたんじゃない。

 目線一つで全身が痺れるくらい、ドキドキした。今も体中が熱い。


 真っ赤な顔を隠すみたいに両手で押さえながら、溜息を吐き出す。


 腰が砕けそうになりましたなんて、はしたない事言えるわけないじゃないか……!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 。゜(°`皿´°)゜。 グズゥ 年下の美少女に翻弄される大人の男性……について課金できるのはこの窓口ですか!? キャリーオーバー分クダサイ! 課金上限…? ばんなそかな!(コントローラーぶ…
2020/08/08 20:40 退会済み
管理
[一言]  中身が残ねn(紅いシミで汚れている)
[一言] 更新お疲れ様です。  なるほど~、こうしてオープニングにつながっていくのですね。  フヅキちゃんちゃんには悪気はなくとも乙女ゲームのヒロイン属性のお仕事をしているのかな?  とは言え、フ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ