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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-12.Emotion/持たざる者の矜持
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12-(1) 大江アンノウン

 カメレオン・アウターとの交戦と、仁がシロだと判明してから二日が過ぎていた。

 それでも学園はいつも通りを演じ続けている。ちらっと、睦月と皆人は教室の片隅──仁

の席を時折見遣るが、今日もそこに彼の姿はない。

「大江君、今日もお休みだって」

「……そっか」

「参ったな。俺のミスで、こんな事に」

「皆人ばかりが悪いんじゃないよ。その、僕だって疑ってはいたんだし……」

 休み時間。何とも言えぬ表情で海沙が話しかけてくる。

 睦月の席に集まって。睦月と皆人は彼女のそれよりももっと深刻な風に、強い後ろめたさ

をもってこれに応えている。言わずもがな、当の仁と直接相対して──失敗したからだ。

「どうしちゃったんだろ。やっぱり僕らが詰め寄ったせいで来れなくなってるのかな」

「うーん……。ていうかさ、本当に大江が犯人じゃないの? 問い詰めたら逆ギレして雲隠

れって怪しさ満載だと思うんだけど」

 しかしその一方で宙は未だ懐疑的だ。後ろめたさからの心配を募らせる睦月に、彼女はそ

れみたことかと疑いの言葉を絶やさない。

「ソラちゃん……」

 尤も今回の大元である、当の海沙はといえば、この親友ともとは逆で相談から現在に至るまで

の経過を後悔している風に見えたが。

「一昨日にも話したろう? あの時、大江が犯人であるのは物理的に不可能なんだ。それこ

そ、瞬間移動でもしなければな」

 だから、皆人は改めて宙に釘を刺す。

 自らのミス、浅慮とはいえ、先日の囮作戦での状況において彼が実行犯とするには無理が

あった。勿論彼女達にはアウターの──おそらく今回の犯人であろうカメレオン・アウター

については言及しないし、疑問をもたれないように細心の注意を払う。

「それに、仮にあいつが今回の犯人なら、あの時俺達に気付かれた時点で逃げるべきだった

筈だ。なのに実際は、俺達の視線の先に──道向かいの物陰に突っ立っていた」

「まぁ、確かに自殺行為、だけど……」

 くるくる。もみあげ近くの髪を指先で弄りながら、ぶつくさと宙は呟いていた。

 それでも眼は不服を訴えている。では一体、犯人は誰だというのだ? まさか本当に、海

沙を襲おうとしたのは透明人間だったとでもいうのか……?

「と、とにかくさ。もう一度大江君に会えない事には始まらないよ」

「ああ。謝らないといけないこともそうだが、聞き出す必要がある。何故あの時、あの場所

に俺達と同様に居合わせて、そして逃げたのか? 犯人ではないにしても、何らかの事情を

抱えている可能性はある」

「う~ん……。でも、そう上手く捕まるかなあ?」

「そうだね。二人の話を聞いた限り、同好会の人達もきっと警戒してるだろうし……」

「……」

 宙が、海沙がそうぼやき、しょんぼりと苦笑していたそんな時だった。

 ガラリと、ふとそれまで席を外していた國子が教室の扉を開けて戻って来たのだ。クラス

メートの幾人かが半ば反射的に視線を遣るが、もう慣れっこだからか、それもすぐに止む。

彼女はそのまま如才ない歩みでこちらに近付いて来た。その手には……何やら印刷された紙

が一枚、握られている。

「あ、國っちおかえり~」

「あれ? 何処に行ってたんですか?」

「……少々調べ物を。皆人様、どうぞ」

「ああ」

 手渡され、皆人がそれを広げる。どうやらそれは何かのリストのようだった。

 ずらりと縦長の紙面に書き込まれた人名と、学年とクラスのセット。睦月が海沙が、宙が

そんな一覧を一度頭に疑問符を浮かべて覗き込んでいる。

「電脳研──M.M.Tのメンバーリストだ。大江が姿を見せない以上、先ずは外堀から攻

めていこうと思う。さっき言ったあいつが抱えているかもしれない事情も、同じ仲間達絡み

であると仮定していいだろうからな」

「そうだね……。ちゃんと話が出来れば、だけど」

 眉を下げて、睦月が気弱な声音を出す。皆人はそんな親友ともをちらと横目に見遣っていた。

彼に応える代わりに、誰にも気付かれない程の小声で國子に問う。

「……準備はどのくらいだ?」

「大方は。午前中には完了するとの事です」

「分かった。では予定通り、放課後に開始だ」

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