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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-11.Emotion/結社M.M.T
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11-(3) アングラ倶楽部

(これは……拙い事になった)

 翌日の学園。仁は一人トイレの個室の中で頭を抱えていた。言わずもがな、昨夜かち合っ

てしまった睦月達との一件である。

 はっきり言って、訳が分からない。だが少なくとも確かなのは、あれ以来ずっと彼らが自

分のことを疑いの眼で見ているという点であった。

 訳が分からない。だけど実際居た堪れなくて、こうして今朝から休み時間毎に教室を飛び

出し、彼らの視線から逃げ回ってしまっている。

(ちゃんと説明はしたいけど……)

 でも。でも、その為にはどうしても越えなければならないハードルがある。そしてそれを

カミングアウトする事は、オタク側の人間である自分にとっては酷く難しいのだ。

 ──M.M.T。

 それが現在、自分が代表を務めている秘密結社の名だ。

 正式名称『海沙さんマジ天使』──清楚可憐にして微笑が似合う大和撫子、今や絶滅した

と言ってもいい男子理想の女性像を体現した彼女の魅力に心奪われ、密かに愛でることを誓

い合った同志達の集まり。それが自分達だ。普段はとある同好会をカモフラージュとして活

動し、彼女の近況やその他サブカル全般についても熱く語り合ったりしている。

 ……ぶっちゃけてしまえば、要するに非モテの集まりだ。ファンクラブと言えば聞こえは

いいが、本人に了解を取った訳でもなければこんな自分達に好かれてもきっと気持ち悪がら

れるだけだろう。

 だけど……それでも自分は知っている。彼女が時々、こっそり本屋で新刊から過去の名作

まで、ライトノベルを買い求めていることを。もしかしたら自分達は、高嶺の花だとばかり

思っていた彼女と、実は同じ趣味で語らう事が出来るかもしれないと。

 ……でも明かすまい。悟られるべきではない。そういう場所で見かける時、彼女は決まっ

て変装をしてまで訪れているし、普段仲の良い天ヶ洲や佐原、三条とお付きの陰山などとは

そういった方面の話は殆どしている様子がない。おそらくこっち側の趣味については隠して

いるのだろう。まぁゲーマーの天ヶ洲辺りならば、親友でもあるし、そう露骨に拒否反応を

示されない気もするが……。

 ともかくである。オタクはオタク、モテ男はモテ男なのだ。

 もしかしたら、という淡い期待は始めから持っておかない方がいい。知らない方がいい。

無駄に浮かれて近付いて、玉砕したら多分二度と立ち直れない。そもそも自分達M.M.T

は彼女を「密かに」愛でることを誓い合った仲間であって、もし抜け駆けなんてしようもの

ならその結束はいとも容易く崩れ去ってしまうだろう。

(……結束、か)

 しかしそう自分で言っておいて可笑しくなる。現行のリーダーでありながら、自分は今現

在進行形でその仲間の一人を疑っているのだから。


 発端は少し前の出来事だ。その日もいつものように部室に集まり、海沙さんやサブカル談

義で盛り上がっていた中、自分達の前に思わぬお宝がもたさらされた。

 それは海沙さんの生写真だった。しかもこれまでに流通していたものとは明らかに表情も

アングルも異なる、ありのままの海沙さんの姿。

 自分達は興奮した。まさかこんなアップのショットが撮れるなんて……。

 当初自分は、仲間達はこの写真を持ってきた主を尊敬の眼差しで見ていた。

 名は八代直也。比較的後から入ってきた部類だが、その行動力と情熱の強さは皆も一目を

置いている。

 ……だがそうやって熱に浮かされている中で、自分はふと疑問に思ってしまったのだ。


“そもそもこいつ、一体どうやってこんな画を撮ったんだろう──?”


 そうだ。あまりにも出来過ぎではないか?

 こんな至近距離の画、普通にやっていちゃあ先ず撮れない。それこそ間近まで隠れ続けな

ければ、犯罪紛いの盗撮でもしなければ不可能だ。しかし自分達はM.M.T。彼女のこと

は全力で愛でるが、彼女を不快にさせたり害を及ぼしてまでその欲求を満たす事はしない。

してはいけない。

 ……だから、居ても立ってもいられなかったんだ。

 昨日、偶然渡り廊下から見たのだ。海沙さんが「ストーカー」の相談を、佐原や三条達に

していたのを。慌てて近くの物陰に隠れて、必死になって聞き耳を立てて、その不安のほど

を知ってしまったのだ。

 まさか……。そう思った。

 ストーカー? 八代が? それまで漠然と抱いていた疑問が、その瞬間強くて明確な不安

と恐れに変わっていた。身内を疑って、寒気が走った。

 だから佐原達が犯人を誘き出そうと話し合い始めたのを聞いて、自分もこうしてはいられ

ないと思った。確かめなくてはならないと思ったのだ。

 犯人は誰なのか? もしそうなら、俺はリーダーとしてけじめをつけなきゃいけない。

 せめて先に確かめたかった。

 だからあの時俺は、せめて自分なりに犯行の瞬間を押さえようと──。

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