9-(3) 狙撃の紳士
国立飛鳥崎学園の校舎は、南から順に初等部・中等部・高等部の各学年用の棟が横長に配
置されている。その東側には職員室や特別教室が収まった通称「ゼロ棟」が一つずつ、及び
全生徒共用の大グラウンド、西側には主に文化部用の部室棟が並ぶ。
更に初等部と中等部のと間、高等部の北面にはそれぞれプールと小グランドが併設されて
おり、その立地上、水泳部へは校舎裏と文化部棟の間を通り抜けるのが近道となる。
「~♪」
宙もまた、その例に漏れなかった。鞄と水着袋を片手に一人、この学園の表側から隠れた
空間を通り過ぎようとしている。
「──?」
だがちょうどそんな時だったのだ。ふと校舎の物陰から、数人の男子生徒達が彼女の行く
手を塞ぐように現れた。しかし当の宙本人は怪しむ訳でもなく、すぐにその面々がよく知っ
ている仲──自分のゲーム仲間達である事に気付く。
「よう。待ってたぜ」
「お、藤崎じゃん。どったの? 今日ってオンの予定あったっけ……?」
「いや、そうじゃない。今日はお前にリベンジを申し込もうと思ってな」
藤崎と呼ばれた、柄はあまり良くはないにせよ気心の知れた男子達。
人数は六人。宙がうーんと、と彼らとのゲームの予定を思い返していると、藤崎は妙に得
意げな様子で切り出した。
「TAだ。今日こそ、お前のカノンに勝つ!」
「ほほう? あたしとカノンに? いいよ、相手になってあげる。でも手加減なんてしてあ
げないからね、また泣きを見ても知らないよ?」
「抜かせ。もう今までの俺達とは違う。この日の為に特訓してきたんだ」
少々急な申し出だったが、宙は快く受け入れていた。遊びの誘いなら大歓迎だ。お互いに
鞄からリアナイザを取り出し、自身のデバイスをセットする。
次いでヘッドホンを装着。部活が始まってしまうが……まぁ自分はレギュラーでもなし、
さっさと済ませて合流すればいいだろう。
「こっちは六人。お前もCPUで頭数を合わせろ。フィールドも選ばせてやる」
「オッケー。にしたって随分な自信じゃない。あたしの戦闘スタイルはよく知ってるでしょ
うに」
だから妙に強気なこの友人達に、宙は内心警戒し始めていた。
選んだのは廃墟フィールド。風で土煙が舞い、多くの遮蔽物で仕切られた舞台だ。
上蓋のレンズから映し出されるホログラム画面を一通り操作し終わると、ずらっと目の前
にVRで作られた廃墟街の風景が広がっていった。
ヘッドホン越しに乾いた風の音と、次々にログインしてくる藤崎達のコンシェル。
敵は彼の大型個体一体と盾持ちが二体、残りは鉤爪付き手甲を装備した機動重視型の個体
のようだ。普段の対戦とは違い、既に役割分担を決めてあると見える。
(ふむ、なるほど。やっぱり何か企んでるね……)
味方となるCPUのコンシェルが五体、こちら側に現れ、臨戦体勢を取った。
宙はぺろりと舌先で唇を舐め、ざっと見当をつける。頭数は同じだが、こちらはシステム
から調達されたCPUで、生身の人間同士のような連携は望めない。実質彼らと彼らの策と
やらに対して一対六だ。
それでも……。宙は嗤っていた。これだから面白い。ちょうど技量の差が開いてきて退屈
し始めていた頃だったのだ。互いに技を磨き、策を戦わせる。対戦はこうでなくっちゃ。
「おいで、カノン」
リアナイザの引き金をひき、自身のコンシェルをフィールドにイン。
Mr.カノン。カール鬚のガンマン風紳士。銃撃戦に特化した性能に育て上げた宙愛用の
コンシェルだ。
腰に拳銃を二丁、背に長銃を一丁。
カノンはくいっと頭のテンガロンハットを指先で持ち上げ、召喚されたこのフィールドを
不敵な笑みで見つめている。藤崎達のコンシェルがガチャリと一斉に武器を構えた。
「……さぁて。じゃ、いっちょ始めますか!」




