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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-7.Seven/元凶を求めて
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7-(5) 冷鉄の魔窟

 世間は週末になっていた。多くの学生は束の間の休日を謳歌するが、それでも巷の大半は

変わらず人も物も駆動し続けている。

 表向きは暫くぶりの母子おやこ水入らず。休日のお出掛け。

 睦月と香月は海沙や宙、青野・天ヶ洲両家の面々に見送られ、自宅を後にしていた。その

実は言わずもながな、H&D社への潜入調査決行の時である。

「──では皆さん。準備はいいですか?」

 司令室コンソールに一旦集合してから睦月と、國子率いるリアナイザ隊が出動。残って映像越しに推

移を見守る皆人や香月ら研究部門のメンバー、更に皆継ら対策チームの要人達も加わり、一同

はいざH&D東アジア支社のある飛鳥崎の南部ポートランドへと赴いた。

 待機したのは同社の製造プラントを視認できる倉庫群の一角。地図的に姿を隠しておける

ギリギリの地点。そこでずらりと並んだ睦月及び隊員達に向かって、國子は囁く。

「打ち合わせの通りここからは全員、迷彩ダズル装備のコンシェル達をそれぞれ使役した上で工場

内に潜入します。とはいえ、姿は見えなくなりますが、物音などは隠せません。くれぐれも

気付かれないようお願いします」

司令室側こちらからこうして回線を使って話せるのは此処までだ。工場内は既に敵の本陣、のう

のうと同じように通信していれば間違いなく察知される。後はコンシェル達が記憶したログ

を回収してチェックするしかない。とにかく無事に帰還することを最優先に考えるんだ。敵

の本拠地か、いち拠点か。どちらにせよ、その内情を暴こうとした中で連中に見つかればほ

ぼ詰みだと思え。不要な戦いは極力避けて、少しでも情報を持ち帰れるよう行動しろ。いい

な?』

 了解──。面々が頷き、調律リアナイザを構えた。ホログラム画面を操作して彼女達が引

き金をひく中、睦月もパンドラと共にEXリアナイザを取り出して掌で認証し、早速変身を

開始する。

『TRACE』『READY』

「……変身」

『DAZZLE THE CHAMELEON』

 正面に撃った銃口から、紫色の光球が飛び出した。それは彼を周回し始めるデジタル記号

の輪と共にぐるりと中空を旋回し、一瞬眩い光となって睦月を包む。

 守護騎士ヴァンガード──変身は完了した。本来なら白亜と茜色のパワードスーツに身を包む所だが、

今回はカメレオン・コンシェル、爬虫類系・パープルカテゴリのそれを纏うため全身のカラー

リングは薄紫で統一されている。

「えっと。胸元のコアに手をかざして、っと……」

 そして睦月が事前に教わった通りの挙動を取った次の瞬間、その姿は瞬く間に周囲の景色

に溶けて見えなくなった。

 これがカメレオン・コンシェルの能力である。

 高性能の光学迷彩。國子のコンシェル・朧丸のそれと同系統だ。故に彼女の召喚したこの

般若武者のコンシェルも続いてその姿を景色に溶かして透明化、更に本来そうした能力を持

っていない他のメンバーのコンシェル達も次々と同様に光学迷彩を発動し、透明になる。

「とりあえず、第一段階は成功ですね」

「ええ。香月博士達が必死になって頑張ってくれたんだもの」

 睦月と國子以外のメンバーのコンシェル達に同様の機能──カメレオン・コンシェルの能

力を移植したのは、他ならぬ香月ら研究部門の面々だった。皆継らが決行当日の警備状況な

どを調べてくれている間、彼女達は必死になってこの作戦遂行能力の強化を実装せんと奮闘

していた訳である。

『では行こう。作戦開始だ。……無事を祈る』

 睦月及びリアナイザ隊のコンシェル達一行は、このポートランドを出入りするトラックの

陰に隠れながらH&D社の工場へと潜入を開始した。事前に皆継・皆人らが調べてくれた物

資の搬入時刻とタイミングに合わせて沿い、駆け、内部へと突入する。國子以下リアナイザ

隊の面々は、先の倉庫群に引き続き身を隠したまま、自身のコンシェルに意識を伝達させて

より精密な遠隔操作をするTAの高等テク──“同期”で以って睦月をサポートする。

 進入自体は、思いの外上手くいった。

 元よりこの港湾地区は機械化・オートメーション化が顕著であり、徒に他の人間が行き来

していない特徴がこちらに味方した格好だ。とはいえ、それは同時に一度敵に見つかってし

まえば救援が望み薄という事でもある。

 H&D社東アジア支社併設、製造プラント内部。睦月達はかなり警戒しながら進んだが、

想像以上にその中は殺風景だった。

 とにかく大型の機材や統一規格にずらりと並べられた部屋ばかりが目立つ。そこを何台も

の監視カメラが、じぃっと緩慢な動きでレンズを這わせている。

 余程の事がなければそれで見つかりはしないだろうが、全てを検めている余裕は無い。向

かうは一路、実際にリアナイザの製造が行われているラインだ。しかしよほど目的のそれは

奥にあるのか、進めど進めど一行の前に現れるのは人気のひの字すらない部屋──仮眠部屋

や倉庫ばかりだった。睦月達の心の中には、じわりじわりと焦りばかりが蓄積する。

(……本当に改造リアナイザ、此処で作ってるのかなぁ?)

(分かりません。ですが可能性は高いです。もっと、隠された場所なのかもしれませんね)

 カツ、カツ。タンタンタン……。

 時折一列を留め、周囲の安全を確かめる朧丸もとい國子を先頭に、睦月達一行は更に工場

内の奥へ奥へと進んでいく。


「──」

 時を前後して、彼らは暗闇の中でそっと目を開けていた。

 部屋の奥でゴゥンゴゥンと巨大なサーバー機がライトを点して駆動している中、それまで

じっと暗がりの中で微動だにしなかった寡黙な黒スーツ青年が動いた。円卓の斜め向かいに

座り、携帯ゲーム機で遊んでいたゴスロリ服の少女がふいっと顔を上げる。スチャ……。静

かに本を読んでいた黒衣の眼鏡男性がブリッジを触って頁を閉じ、ゆったりとデスクチェア

に座っていた白衣の金髪男性ものそっと、テーブルに置いていたノートPCが映す数列の群

れで出来た女性の顔から視線を逸らし、同じく青年の方を見た。

「シン」

「うん? 何かあったかい?」

 コゥ……。伝わるイメージは広範で、且つ正確。

 暗がりに点在する、広大な敷地内に潜ませた金色の小球コア達が一斉に戦慄き始め、主たる彼

に事態の急変を知らせる。

「ああ。……侵入者だ」

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