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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-3.Girls/少年・佐原睦月
22/526

3-(6) モラトリアム

「スラッシュ!」

『WEAPON CHANGE』

 叫びながら突っ込んでくる、そのリアナイザからエネルギー状の剣を迫り出して襲い掛か

ってくる睦月を見て、ハウンド達は少し遅れてようやく事態を理解した。

 ガキンッ! 剣と鉤爪、互いの武器がぶつかり激しく火花を散らす。そのまま鍔迫り合い

を維持して駆け出しながら、二人は路地裏の奥へ奥へと入り込んでいく。

「な、何だよ?! 何で人間が、いきなり!?」

「知るか! とにかく逃げろ、すぐに追いつく!」

 汚れた段ボール箱や缶をなぎ倒しながら、二人は剣戟を交える。

 そんな両者の戦いから逃げ惑うように物陰に隠れながら、少年は苛立ちを含んで叫んだ。

 鉤爪が睦月の刃を受け止め、弾き返す。

 言い含められて、彼はその言葉のままに一旦この場から大慌てで退散していく。

「そうか……お前がそうなのか。あいつらが言っていた、俺達の敵……!」

「……」

 だが睦月は応えない。ただ義憤に冴えた意識のまま、再三と剣先を突き出す。

 しかし今度はそれを、ハウンドは鉤爪を斜めに入れて、爪と爪との間に差し込ませたのだ

った。む? 睦月の動きが一瞬止まる。ちょうど自分の剣が、彼の鉤爪の間に挟まった格好

になったからだ。

「ぬおぉぉぉぉーッ!!」

 そのままハウンドは、得物を抜けない睦月を引き摺り、周りの積み荷・ゴミを巻き込みな

がら思いっ切り彼を壁へと叩き付けた。うぐっ……!? 強烈な衝撃と共に睦月を中心とし

てヒビ割れが入り、少なからず謎のパワードスーツは苦悶の様子を浮かべる。

「でいッ!」

 だが続けざまに打ち込んだ左拳は、空を切ってこのコンクリ壁を打ち抜くだけだった。

 寸前、睦月が一旦引き金から指を離して剣撃モードを切ったのだ。そのまま地面を転がり

ながらこれを避け、一度距離を取り直そうとする。

「無駄だ!」

 しかしそんな睦月の手を、今度は左腕から飛ばした鎖分銅が捉えた。

 しまっ──! 叫びかける彼をそのまま力ずく引き寄せ、ぶんっと中空へと放り投げる。

ドラム缶やら何やらのゴミの山に、睦月は吸い込まれるように落ちていった。

 痛てて……。埃の舞うその中から程なくして這い出てきて、ニィっと口角を吊り上げるハ

ウンドと改めて向き直る。

「……だったら。目には目を、歯には歯を……爪には、爪をだ!」

『ARMS』

『HEAT THE TIGER』

 すると睦月はリアナイザのホログラム画面からサポートコンシェルを新たに選択し、引き

金をひいた。次の瞬間、銃口から赤い光球が射出され、途中で二つに分かれ、仕掛けようと

するハウンドをワンツーコンボの体当たりで弾き返しながら、リアナイザを腰のホルダーに

収める睦月の左右の手に取り込まれていく。

「……」

 深呼吸。その両手には新たに手甲が装備されていた。

 くわっと目を開く。するとそんな睦月の意思に呼応するかのように折り畳み式の鉤爪が起

き上がった。更にはじゅうと、爪先には熱を帯びているのか蒸気が上っていた。ハウンドと

じりじりっと間合いを取り合い、そしてほぼ同時に地面を蹴って飛び出す。

 初撃数発。お互いの鉤爪はそれぞれを弾き返した。

 だがそれから次の一手。睦月はハウンドの鉤爪に嵌るように、敢えて狙って片腕の鉤爪を

捻じ込ませていた。

 ギチギチと絡んで動かせない右手。こちらはこの一個だけだ。

 ハッとハウンドが気付いた。しかしもう遅い。次の瞬間には睦月は、空いたもう一方の鉤

爪で彼の胸元を力いっぱい薙ぎ、激しい火花と共にこれを吹き飛ばしたのである。

「ガッ……! アァ……!」

 絡んだ鉤爪を離すまでに一発二発、三発と貰った。

 空いた手から一発。睦月の方から鉤爪を抜き取り、裏拳を打ち込むように一発。更に両手

を揃えて突きを放って一発。

 じゅうじゅうとダメージを受けた胴から蒸気が上っていた。悶絶するほど苦しい。

「……よし。これで、とどめを──」

 吹き飛ばされ、お返しとばかりにゴミの山に吸い込まれ、フラフラと立ち上がる。

 だが一旦両手の鉤爪武装を解除し、腰のリアナイザを抜いて操作しようとした次の瞬間、

ハウンドは逃げ出した。

 ダメージもある。何より予想以上だった。

 ふらつきながらも壁際の出っ張りや詰まれたガラクタを踏み台にして跳び上がり、このア

ウターは方針を転換、一度体勢を立て直す方向へと舵を取り直す。

「くっ……!」

 慌てて睦月は逃げた方向へと飛び出した。そこはもう路地裏を抜けた表通りだ。

 見れば疾走していた。猟犬──犬よろしく四足歩行でアスファルトの地面を高速で駆け抜

け、夕暮れ時の帰宅ラッシュの隙間を縫うようにしてどんどんその姿が遠くなっていく。

「拙い、逃げられる。パンドラ、あいつの走りに追いつけるコンシェルってない?」

『ありますよー。ではこの子のアームズを使ってください』

 言われて、早速ホログラム画面でアクティブになったコンシェルを呼び出した。

 銃口から赤い光球が、やはり途中で二つに分かれて両脚に吸い込まれていった。どうやら

今度は脚系の武装らしい。

『ARMS』

『SPRINT THE CHEETAH』

 見れば両脚にぎゅっと締まるような脛当てが装着されていた。

 更にその見た目はぐるりと横縞に穴──排気口らしきものが備わっており、シュウシュウ

と既に蒸気を上げ始めている。

『じゃあ構えてください。一気に走りますから』

「構える? そんな悠長、なっ──?!」

 だがそれでよかったのだ。パンドラの言葉に突っ込むよりも早く、つい踏み出した片足を

合図とするように刹那、ぎゅんと勝手に両脚が猛烈な速さで動き始めたのだ。

「あばばばばばばば! 何、これ、速、過ぎ……?!」

 その疾走は、道路を走っていた運転手達が何が通ったのかを視認できないほど。

 ただむわっと熱の篭もった空気の移動だけが感じられ、彼らは一様に横目を向けながらも

頭に疑問符を浮かべていた。

『いましたよ! あそこです!』

 それでも追跡には困らないようだ。通りを疾走すること暫し、前方にハウンドの姿を捉え

たのだった。

 ギョッ!? 四足走行、時折正面に来た車に飛び乗ってかわしながらも、肩越しに相手は

追いついて来た事とこの奇怪な走りに驚いている。

「いた、けど。でも、こんな速さ、じゃ、止まれ……」

 しかしここまでだった。何とかギリギリの所で走行する車を避け、車線変更をしていた睦

月だったが、これは拙いと急に道を曲がっていったハウンドに追いすがる事が出来なかった

のである。

 要するに速過ぎて曲がり切れなかったのだった。

 ブレーキという術を持たぬ睦月とパンドラは、そのまま直進して正面の古ビルに突っ込ん

でしまっていた。濛々と大量の土埃や瓦礫を巻き上げ、ぐったりとその中で倒れる。

『睦月、大丈夫か!?』

「……何とかね。でも、あのアウターは見失っちゃったみたいだ……」

『うーん、この子は加速がつき過ぎるんですねえ。今度は予め同カテゴリの子をトレースし

ておいた方がいいかもです……』

 それから騒ぎになる前に急いで土埃を煙幕に退散し、変身を解除した睦月は國子らリアナ

イザ隊と合流した。

 時刻は既に夜になっていた。曰く、青年は無事病院に搬送したという。事件解決の為とは

いえ、彼には申し訳ない事をしたなと思う。

 結局召喚主である少年にも逃げ切られてしまったそうだ。なまじ地の利は向こうにある。

また司令室コンソールに戻って監視を続ければ、再び捕捉する事は可能だろうが……。

「今日はここまでですね。一度帰りましょう」

「そうですね。少なくとも顔は割れましたし、後は家なり何なりを張って追い詰めればいい

でしょうから」

『……そう、悠長な事は言っていられないかもしれないがな』

「??」

 インカム越しに、皆人が呟いていた。

 夜の飛鳥崎の片隅で、頭に疑問符を浮かべながら、そう睦月はそんな親友ともの声に耳を澄ま

せる。

『既にこっちであの召喚主の事は調べ始めているんだが……どうも随分とやらかしているみ

たいでな』

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