26-(3) さらば守ろう
後々調べてみた所によると、どうやらあの廃ビルは瀬古勇が隠れ家として使っていた場所
だったらしい。
尤も自分達や、警察が踏み込んだ以上、もう彼はあそこには戻って来ないだろう。実際筧
達が中を調べた時、生活の痕跡こそあったが肝心の当人はおらず、既にもぬけの殻だったと
いう。ただその場所を、まるで守るようにアウターが徘徊していたというのは気になる。嫌
な予感がした。瀬古勇は、まだアウター達と関わっているのか。
『俺は反対だぞ』
現場から戻って来、少なからず消耗していると分かっている睦月を前に、皆人は言った。
他でもない二見とミラージュを、要請通り保護するのか否かについてである。
肩で息をしながら、何処となく残念そうに変身を解いた睦月。周りには同じく冴島や他の
隊士達が二見とミラージュを包囲するように立っている。
『最初に言ったように、こいつらがスパイである可能性は消えないんだ。大体、アウターを
味方に引き込むなんて……』
「したじゃない。前に」
『あれは例外中の例外だ。それにあの時だって可能な限り、情報は引き出したし、互いに相
手を売らない契約も取りつけた』
「でも実際、この二人から実害らしい実害って出てませんよね」
「まぁ強いて言えば、私達の活動を覗かれていたってことですけど……」
「そうだよ。それに二見さん達はちゃんと“蝕卓”について色々話してくれたじゃないか。
ギブアンドテイクは果たしてるよ」
『む……』
尤も睦月以下現場の面々は、皆人ほど警戒心を維持してはいない。
それはひとえに二人を捕まえること自体は簡単だったのと、彼らの“ただのんびり暮らし
たい”という願いに絆されたという部分が大きい。
通信の向こうで、皆人は唸っていた。次いで気配で司令室内の面々と相談している様子が
分かる。警戒するに越した事はないが、かといってSOSを蹴って態度を反転させられてし
まっても、こちらの情報が蝕卓側に告げ口される可能性がある。
「仕方ないか。やっぱりここで?」
「無抵抗の相手を倒すというのは、あまり気が進まないけどねえ」
「ちょっ……!? ま、待って!」
「裏切らないから! 訊きたい事が他にもあるなら答えますからあ!」
スーッと向けられる冴島達の視線。その妙な不穏さに、思わず二見とミラージュは後退っ
ていた。しかし二人はとうに包囲されており、別の隊士らに背後を埋められるだけである。
『……待て』
そんな時だった。暫く熟考していた皆人が口を開き、睦月達がピタと動きを止める。
『信用するかしないかはともかく、ここは一旦話に乗ろう。せっかくの内情を知っている証
言者だ。早々に切ってしまうのは惜しい。俺達にはまだ、知りたいことがある』
了解。その言葉を待っていたかのように、睦月達は通信の向こうにいるであろう皆人に頷
いていた。何とか首の皮が繋がったと理解したらしく、二見とミラージュもホッと胸を撫で
下ろしている。
少なくとも、何かしら向こうが仕掛けてきているのは事実だ。
何故ミラージュを送り込んできたのか? 今回の目的は何か? もう暫くこの二人を泳が
せておく必要がある。
『──』
それから数日。隊士らは交替を繰り返し、二十四時間体制で二見とミラージュの暮らす自
宅アパートを密かに監視していた。ミラージュ以外のアウターの接近があれば、すぐに分か
る筈だ。しかし今の所、こちらからも向こうからも、目立って怪しい動きはない。
通信越しに、皆人は司令室からこの監視映像を見ていた。香月以下研究部門、他の職員ら
と共に根気強く、相手の出方を窺う。
「……」
たがそれよりも。
静かに一人嘆息を漏らす皆人には、もう一つ懸念することがあった。




