25-(0) 這い寄る影
夜の路地裏に、怪しく蛾の怪人が浮かんでいた。ゆっくりと二対の羽根を揺らしながら、
心許ない月明かりの下で漂っている。
そしてその表情は、明らかに焦っているように見えた。
理由は眼下──自身をここまで追い詰めた刺客達の存在である。
「皆、一気に決めるよ!」
そこには守護騎士姿の睦月がいた。加えて冴島と國子、仁及び数名のリアナイザ隊士らと、
それぞれが操るコンシェル達。総勢十数名。
マントを翻してジークフリードが、ゆっくりと太刀を斜め上段に振りかぶって朧丸が、盾
を前面に槍を逆手に握り直してグレートデュークが、一斉に次の攻撃に備えた。その中央で
睦月はEXリアナイザを頬元に当て、コールする。
「チャージ!」
『PUT ON THE HOLDER』
人気のない路地裏に響く電子音。空中の蛾の怪人──モス・アウターは直感的に危険だと
理解したらしい。大きく羽を広げて、大量の鱗粉を撒き散らす。
「おっと」
だが無数の攻撃が襲い掛かる直前、仁のデュークが睦月達の前に飛び出した。その堅固な
盾でもってこれを防ぎ、激しい火花を散らせながらも無傷を確保する。
加えてジークフリートも動いていた。その身体を流動する大量の水に変え、鱗粉攻撃ごと
モスに覆い被さる。ずぶ濡れになっていた。水圧に負けてどうっと地面に落ち、よろよろと
起き上がった時にはもう、勝負は決していた。
「どっ……せいッ!」
「はああッ、せいやーッ!!」
デュークが投擲した、力を纏って輝く突撃槍。朧丸からは紅い飛ぶ斬撃が放たれ、睦月か
らは円錐状のエネルギーポインタと空中からの蹴りが飛ぶ。
逃げる暇などなかった。モスは冴島のアシストを受けた、三人の必殺の一撃を次々ともろ
に食らった。槍で片腹を抉られた瞬間にもう片方を斬撃が、睦月の蹴りがグラついた全身を
駄目押しと言わんばかりに吹き飛ばす。
蟲の鳴き声のような、断末魔の叫び声。
睦月の蹴りを受けた直後、全身に瞬く間にひび割れをきたし、モスは爆発四散した。夜の
路地裏に一瞬大音量が響き、すぐに無かったかのように消え失せる。ストンと睦月はその場
に着地した。仁達もゆっくりと残心を解き、振り返った睦月に向かって屈託のないサムズア
ップや小さな頷きを。ここ数日の間、追っていたアウターをようやく退治する事ができた。
「やったな。これで奴の被害はなくなる」
「お疲れ様。見事なコンビネーションだったよ」
「あはは……。相変わらずオーバーキルばっかりですけどね」
『それくらいでいいんですよ。倒し損ねたらそれこそ、割を食うのは何の落ち度もない街の
人達なんですから』
『……そうだな。お前は少々、優し過ぎる』
仁や冴島とハイタッチし、苦笑いを零し、睦月は呟いていた。守護騎士となってかれこれ
三ヶ月が経とうとしているが、正直このアウターを斃す瞬間というものは未だにいい気分に
はなれない。
『ともかく、撤収だ。他人が来る前にそこを離れろ。不必要に目撃者を増やす義理はない』
了解! インカム越しの司令室で、皆人がそう一同に指示を出す。最初の呟きはすぐに脳
裏から消えていったようだ。リセット──睦月が変身を解き、冴島や仁、國子達もそれぞれ
のコンシェル達の召喚を解く。
『……』
だがこの時、睦月達はまだ気付いていなかった。
近くの物陰から、戦いの一部始終を覗き見ていたとある人物の存在に。




