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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-17.Storm/守護騎士、離島にて
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17-(0) 遠征準備

 差し込む陽の光は日に日に厳しさを増し、当初の穏やかさを何処か遠くへと追いやってし

まった。季節はすっかり夏への助走期間だ。何度か上陸するであろう梅雨時の台風も、一月

もすれば強くなった日差しに圧倒され、涼の一つも残しはしないのだろう。

(……はあ)

 この日、睦月は学園の教室にいた。クラスは今ホームルームの真っ最中だが、その視線は

あさっての窓の外へと向いており、ろくに集中できずにいる。

 理由は明白だった。先日のガンズ・アウターの一件だ。

 ガンズを倒し、小松大臣や海之は無事東京へと帰って行ったが、もう片方の不安材料は解

決していない。学園に攻め込んできた二人──いや、三人のアウター達のその後がようとし

て掴めぬままだったのである。

 酒を飲む度に強くなる酒乱ジャンキーのアウター。

 こちらの持ち物を奪う、レンズ甲のアウター。

 そして自分を吹き飛ばした、まだ見ぬ竜巻のアウター。

 二度目・三度目の襲撃はまだない。だがこれからもないとは限らない。睦月は内心不安で

仕方なかった。またいつ学園の皆が──海沙や宙が巻き込まれるかと心配でならなかった。

 先日のガンズはこの三人とは別物だったのか、それとも奴らの仲間だったのか?

 分からないし、確かめても進展に繋がる訳でもないが、うろうろと思考の隅で問いは漂い

続けていた。これまでにない強敵達だ。やはり学園こっちに攻め込んできたメンバーなのだから、

敵も精鋭を選んで送り込んできたのだろう。闇雲に相手をすれば苦戦することは目に見えて

いる。一体一体、確実に倒さなければ。

「はーい。じゃあ皆、グループを作ってー。できれば五・六人単位でお願いねー」

 そんな時だった。はたと担任の豊川先生の間延びした声が聞こえ、クラスの面々がにわか

に立ち上がって動き始めた。

 教壇に立ってにこにこと、この女性教諭は皆の自主性を見守っている。

 一方で睦月は自分の席でぽつんとしていた。何をしたらいいのかよく聞いていなかった。

「……やれやれ。やはり上の空だったか。グループ決めだ。今度臨海学校があるだろう?」

「ああ。あったね、そういえば……」

 だからか、そんな親友ともの様子を見て、皆人がこちらに歩いてきた。あさっての方を見てい

たのは傍からもバレていたようで、睦月は少々ばつが悪くなりながらも理解する。

 初等部一年、中等部一年、高等部一年。飛鳥崎学園では進級があるごとに臨海学校という

名のオリエンテーションがある。別に三回もやらなくてもいいのではないかと思うが、それ

ぞれの段階で求められるものが違ってくることもあり、普段とは違った場所で学園生として

のいろはを叩き込む行事となっている。

「場所って何処だっけ?」

「天童島だ。飛鳥崎のずっと南にある」

「ああ、あそこね。確かサーフィンの人がよく来てるっていう……」

「らしいな。去年と同じ場所だ。まぁ予想していた通りだな」

 親友とそんなやり取りを交わしながら、睦月はちらと人垣の向こうにいる海沙や宙の方を

見遣っていた。二人が國子が話しかけ、快く応じられている。同じグループに誘われたのだ

ろう。出会った頃に比べれば、彼女もすっかり二人と打ち解けたように思う。

「……そういえば」

「うん?」

 だが、だからこそ、睦月は心配事がある。言わずもがなアウター達のことだ。

 臨海学校に行くということは、その間自分達が飛鳥崎を離れるということで……。

「大丈夫なの? 臨海学校の間に、この前のアウター達が現れたりしたら……」

「ああ。そのことか」

 なのに、対する皆人は落ち着いていた。尤も彼自身、普段から冷静沈着な人物ではあった

が、それにしてもこの“余裕”のような素振りは何なのだろう。

「百パーセントと訊かれれば確かに今回も今までも保証などないが、その点なら心配ない」

 皆人は言った。グループ決めでかしかましいクラスメート達の中にあって、その答えは不

思議と不敵で、はっきりと聞き取ることができた。

「策は、既に打ってある」

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