164.生まれたての若葉
いつもお読みいただきありがとうございます。
ようやくひと段落しましたので、この先はもしかしたら反動で砂糖が入り過ぎるかもです。
俺達がログアウトしたのは昼前だった。
なので他の皆はまだVRマシンにのってバーチャル世界を満喫しているらしい。
向うも世界観は同じらしいけど光達は結婚式を挙げたりと平和を満喫しているようだ。
そんな中、俺はと言えば医務室に連れて行かれて精密検査を受けていた。
いやこれ医務室というか集中治療室って言った方が良さそうな物々しさなんだけど。
「今まで実験で12時間連続でVR空間に居たものはいるが24時間を超えた者は君が初めてだ。
外部から強制ログアウトプロセスが作動しなかった原因なども調べねばならん。
本来なら数日間は検査したいところだが、そうも言えんのが悲しいところだ。
なので基本的な健康診断の他、急ピッチで進めるぞ」
「はぁ」
それで採血に尿検査に身長体重血圧、レントゲンの他に脳波計を付けて、心電図をまで取るのか。
せめてもの救いはレントゲンが終わったところで食事が解禁されたことか。
こっちは24時間以上食事を摂ってなかったんだからお腹ペコペコだ。
そうして程なくして出た結果を見て所長がぼやく。
「ふぅむ。異常なしか。つまらん」
「いやいや、良い事じゃないですか」
検査を終えて戻ってみればちょうどみんなもVR装置から降りてきたところだった。
俺の姿を見つけた光が天音の手を取りながらこちらへとやってきた。
「一会君。どこ行ってたんだい?」
「いやちょっとな」
「折角僕たちの仲人を頼もうと思ってたのにどこを探してもいないんだもの」
あぁ、そういえばふたりはVR空間で結婚式を挙げるって言ってたっけ。
俺が村人Aなのと同じように光は王子、天音は天使の役だったそうなので、身分とかのつり合いも気にする必要が無いだろうし良かったな。
でもその仲人に村人Aを呼ぶのは無理がある気がする。
「俺は村人Aだったからな。普通に探しても見つからないだろう」
そう言ってやると何故か光は俺の隣にいる姫乃に意味深な視線を向けた。
「つまり僕程度の絆では無理だったって事ですね」
「言ってる意味が分からん」
「だって藤白さんはちゃんと見つけられたみたいだし」
「……まあ、な」
改めて言われるとどうやって姫乃があの場所に来れたのか謎だな。
普通に考えれば姫様と魔神の繋がりなんてシロノを抜かせば無いわけだし、姫乃がシロノの事を知ってるとも思えない。
俺は極力視線を反らしたまま姫乃に聞いてみた。
「実際どうやって俺を見つけたんだ?」
「それはほら。一会くんの事だからVR空間でも問題に飛び込んでるだろうなって考えたら必然的にラスボスの所かなって思って」
「ああ、なるほど?」
「なんだ村基。お前そんな楽しそうな事してたのか!」
姫乃の回答にちょっと納得しかかってたら横から黒部先輩が肩を掴んできた。
いや別に楽しむためにやってた訳ではないんだけど。
水臭いじゃないかと言われても、なんて言って呼べばいいのか。
まさか正直に魔神の復活を阻止したいからって言う訳にもいかないし。
あと使ってたマシンが違うから呼んでも来れなかった可能性も高い。
そこへ助け舟を出すように向井さんが声を掛けた。
「はい皆さん。研修お疲れ様でした。
研修ルームで最後のまとめを行いますので移動してください」
移動した先で、本当にさらっとまとめの話を終えた俺達は帰る準備をしてバスへと乗り込んだ。
ただ、行きの時と若干座る席が変わっていた。
俺の隣には光が、そして姫乃の隣には天音が座っている。
隣に居る光は不思議そうにしている。
「えっと、僕が隣で良かったの?」
「ああ、悪いな。本当は天音と一緒に座りたかったんだろうけど」
「僕らは帰ってから幾らでも時間があるから良いんだけどね。
えと、藤白さんと喧嘩したって訳じゃないよね?」
「まあな」
「ということは……ああ、そういうことかな。
あ、前の席の聖君が藤白さんに話しかけてるよ」
「なに!?」
光の言葉に慌てて横を見れば、全然そんなことは無く、代わりにこちらを見ていた姫乃と目が合ってしまって慌てて光の方に戻した。
くっ、顔が熱い。
光は光で俺のそんな挙動を見て楽しそうに笑ってるし。
「だましたな」
「今のは騙される方が悪いと思うよ。
それより、ふふっ。一会君、まるで初恋の小学生みたいだよ」
「ほっとけ」
色々終わって冷静になったら今度は姫乃の顔をまともに見れなくなったとか、自分でもどうかしてると思ってるんだから。




