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イマドキのサバサバ冒険者  作者: 埴輪庭


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閑話:魔竜殺し②

魔竜デルミッドはかつては豊穣の地竜デルミッドという名で呼ばれていた。


地竜デルミッドはエル・カーラの北方にそびえるグラティエ山を根城としているのだが、岩でも木でも土でもあらゆるものを食う貪欲な竜であった。


幸いにもというかその食事量は竜のそれとしてはささやかな方だった。


そんな竜が何故豊穣の、などと冠されていたのか。

それはかの竜の糞にあった。


竜の活力を多く含み、様々な物質がまぜこぜになったそれは大地の成長を甚だしく促進した。

こういった点も相まって地竜デルミッドは世界から存在を排斥されるどころか、むしろ保護されていたのだ。


しかし第四次人魔大戦が始まった初期の段階で魔族が大地を毒した。

デルミッドは構わずに毒された大地を貪ってしまう。

魔族の魔力がふんだんに込められた魔毒はデルミッドを殺す事こそできなかったが、その心を損なう事には成功した。


しかしただちに狂を発した訳ではない。

竜の命と心はそもそもが非常に強靭なのだ。


だがそれが良かったのか悪かったのか…


存在そのものが益となる以上、軽々に害するという判断はし辛い。とはいえ、狂を、凶を発し災厄を振りまくと言うのなら西域一帯の覇者であるレグナム西域帝国は討伐隊を差し向けていただろう。

第四次人魔大戦開戦時点では帝国にも余力は十分あったわけだし。


グラティエ山の南方には帝国の魔導技術の最先端の産地である魔導都市国家エル・カーラがある以上、狂した魔竜がエル・カーラに被害を与える事を帝国は許容しない。


地竜デルミッドは少しずつ狂っていった。

レグナム西域帝国の失策は、損切りの判断をしくじったという点だろう。


結局帝国はデルミッドに対し、デメリットがメリットを上回るまでは注視すべし、と判断を下した。

結論から言えば、魔毒に侵された時点で速やかにデルミッドをぶち殺してしまうべきだった。

心と言うものは一度破壊されれば治るものではないゆえに。


そうしてデルミッドはついに完全に狂ってしまう。

そう、第四次人魔大戦が人類側の勝利で終わり、各国が復興に躍起になっているという状況で。


西域にはレグナム西域帝国の他にもいくつもの国があるが、第四次人魔大戦の際には西域全域で魔物なり魔族なりが跋扈し、各国は散々荒され、終戦後も復興に必死になっていた。


それは西域の覇者である帝国とて同じ事だ。

端的に言えば、暴れだした魔竜討伐に割くリソースがない。討伐軍を組もうにも兵の数にすら事欠く状況だった。


帝国は結局、魔導都市国家エル・カーラに対し独力で対応してくれと丸投げする。


エル・カーラとしては眉を顰めざるを得ない。

こういった状況で手を貸してくれないのなら、何の為に隷下しているのだという話になってしまう。


折りしもエル・カーラは先の魔王軍襲撃の際に魔導協会の一等術師【雷伯】ギオルギ師が襲撃してきた魔王軍を率いていた複数の下魔将諸共に爆砕し、その戦力を大きく落としている。


ギオルギ師に替わり一等術師へとなったのが術師ミシルであったが、彼女はエル・カーラの守りで忙しい。


だが、そんな状況下にあって “え、魔竜!?殺る殺る!”とばかりにエル・カーラを飛び出していったのがイグニテラの面々である。


彼らもまた魔王軍襲撃の際に活躍したのであるが、名無しの魔物なんぞは幾ら殺しても個人の勲とはならない、だからもっと大物の首がほしい…とはイグニテラ所属の冒険者にして術師マリーの言である。


ギオルギ師も浮かばれまい。

煌く才能をここで潰してはならないと考えて、魔将を殺りたがる彼らを(特にマリーを) 宥め、未来への礎となるべく命を爆裂させ魔将を葬ったと言うのに、遺された彼らは魔竜と戦いにいくと言うのだから。


まあ実際イグニテラの面々が下魔将と相対していたとしたら、戦い自体は勝てたかもしれないが1人ないし2人は死んでいたためギオルギ師のとった行動は誤ってはいなかったというのが救いか。


◇◇◇


「アリーヤ、俺はお前が付いてくるのは反対なんだけどな」


ドルマがアリーヤの腰を抱き、顔を近づけながら囁く。

アリーヤはドルマの胸板に頬ずりしてからその気遣いに明確に反駁した。


「わたくしは愛する男の帰りをのんべんだらりと安全な場所で待つだけの女ではありませんわよ。それに術師としての業前はわたくしの方が上なのですけれど?これはいわば愛の試練ですわ。魔竜討伐の勲があればお父様も貴方とのけ、けっけけッ婚を「アリーヤお姉様!!!!!」ぴぃッ!?」


盛大に惚気だす二人に杖を向けているのは赤髪の美女…マリーである。


「これから死地に向かうと言うのに、なぜそんなに気が抜けているのですか!ドォルマァ!あんたも惚気てるんじゃないわよ!」


まあまだエル・カーラを出立してもいないのだしそこまでキレなくても、と思うのだがマリーは盛大にキレ散らかしていた。


マリーとしては複雑な心境である。

姉として敬愛するアリーヤが男にデレデレしているのを見ると、まるで家族を盗られたように感じるし、それだけなら相手の男をぶっとばしてしまえばいいのだが、相手の男と言うのが親友のドルマであるわけだから…


ついでにいえば、自身はルシアンとあんな堂々といちゃつくことなどは出来ない。恥ずかしいからだ。照れてしまう。堂々と抱きついたり出来る二人が羨ましい。


要するにマリーの怒りはただの私怨である。


「ルシアン!あなたからも何か言いなさいよ」


それまで3人を静観していたルシアンは前で進みだして口を開いた。


「アリーヤさん、ドルマ。戦場ではいちゃつかないようにね。ところでマリーのつけている香水…昨日と変わっているのに気付いたかな?これは僕が調合したんだ。調合につかった水は僕が魔術で生み出した水だ。万年氷晶を触媒にして生成したんだよ」


◇◇◇


出発前に色々と紆余曲折はあったが、4人はグラティエ山へと出発した。


移動はアリーヤの実家から供出された高級馬車である。


「戦争は終わったといっても魔族の残党も魔物もまだまだあちらこちらで暴れていますわねえ」


車窓から流れる景色をぼんやりと見ながらアリーヤが言う。

グラティエ山までは多少時間がかかる。

馬車の速度で一昼夜は走らねばならない。

御者は交代で、今はマリーが手綱を握っていた。


「魔族の残党とか勇者にこそ何とかしてもらいたいけれど、そのアリクス王国の勇者も魔王の呪いを受けて臥せっているらしいね。教会もどうにも出来なくて、ヨハンさんも解呪を試みているけれど何ともならないって話だそうだよ」


ルシアンがアリーヤに答える。

マリーが傍にいないとルシアンは比較的まともだ。


あの人にどうもできないなら勇者はもうだめだろうな、ご愁傷さん、とドルマはアリーヤの尻を触りながら内心で呟いた。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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