閑話:エル・カーラの面々
◇◇◇
マリーとドルマが衆人環視の元、距離を取り向かい合っている。
2人の目つきは対照的だ。
マリーが燃え滾る闘志と殺意をその瞳に燃やしているのに対し、ドルマはまるで屠殺寸前の豚を見るような目つき……これから体のどの部分を解体するか考えている様な目でマリーを眺めていた。
周囲の者達……生徒達は2人から発される強烈な殺意に晒され、冷や汗をダラダラと流していた。
(これ模擬戦だよね……?)
(なんで殺し合いみたいになってるの)
(マリー……まるで炎の女神みたいだ。炎の断罪神エルフレア……それが君の本当の姿だったのか)
(この模擬戦……ど、どっちかが死ぬ……!!!)
「マリー。お前は友達だけどよ、俺に勝つつもりなら諦めた方がいいぜ。隙だらけで突っ立っているみたいだが、俺の中でお前は既に3回死んでる」
ドルマがポケットに手を突っ込みながらマリーに向かって歩いていく。
足元はだらしない事この上ない。
踵を踏み潰し、ニヤツキながらマリーを煽る。
「ねえドルマ。新しい制服仕立てたほうがいいわ……よッ! 燃えろ! 発火ァ!」
挑発するドルマに、なんとマリーはスタッフを振りかざして殴りかかった。
その先端は赤々と燃えている。
そう、相手が近付いてくるんだから飛び道具などは使う必要はない。
だが作戦は失敗した。
ルシアンやら例の“教育”を受けた者達以外の生徒相手ならそのまま燃えるスタッフで殴られて医療棟送りだっただろう。
しかしドルマはケッと笑いながら靴を飛ばす。
目標はマリーの顔だ。
本来はもっと勢いよく飛ばして武器を持つ指を狙う。
そうして脆い指を圧し折るかなんかして怯ませ、暴行を加えるのだ。
ドルマがそうしなかったのはマリーが友人だからである。
まあたかが靴だ。
しかも加減もしてある。
当たったからどうなんだという話なのだが、一瞬視界が塞がれるという事自体が問題であった。
──隆起せよ
ドルマが指輪に魔力をこめる。
ちなみにドルマはスタッフを持たない。
ダサいからだ。
彼は金持ちなので、でかい宝石を嵌めた指輪を杖代わりにしている。
メリケンサックの様な使い方をしてもいいし、取り回しもいい。いざという時は売ることだって出来る。
ドルマの術が起動すると、マリーの足元に石塊が隆起し、マリーはそれに躓いてしまった。
普通なら躓いたりしないが、視界が一瞬塞がれた事がバランスを不安定にしたのだ。
当然隙を逃すドルマではない。
すかさず駆け寄り、マリーの腕を蹴飛ばそうとする。
スタッフを手放させる為だ。
本来はここで顔面を蹴り上げるのが正しい作法なのだが、そこまではしない。
友人にしていいことではない、とドルマは思っている。
だが、マリーは倒れ、手をついたときに砂を握り締めていた。
それをどう使うのかといえば決まってる……そう、ドルマの目に投げつけた。
ドルマはまんまと目潰しを食らってしまい、よろめく。
マリーは隙を逃さず、スタッフの下部……鋭い方をドルマの喉下へ……突き刺すことはせずに股間を蹴り上げた。
本来は喉を潰し、詠唱をさせないようにするのが作法である。
だがマリーにとってもドルマは友人であるため、そこまでするつもりはない。
かといって股間を蹴り上げていいものかどうかは疑問だが……。
「ぐおっ!! ……う、うおおおお……て、てめぇ……マリー、腐れアマが……」
悶絶するドルマを見下しながら、マリーは高らかに勝利宣言をした。
「私の勝ちね! ここからあんたを殺す方法は10以上あるわよ! どうですか、教師コムラード! さあ! 私の勝ち名乗りを!」
マリーの要求に、審判であるコムラードは黙りこくっていた。
松葉杖をついてはいるが、講義が出来る程度には回復をしている。
コムラードは暫く黙っていた。
やがて口を開いたとき、コムラードの声はまるで地獄の底から響いてくるかのような恐ろしい声だった。
「生徒マァァァリイィィィィ!!! 生徒ドルマァァァア!!!! 貴様ら!! 教育指導室へ来なさい! チンピラみたいな喧嘩殺法!!! 学院では認められぬ!!!! 説教だ!!!」
怒り狂うコムラードの前では、いくらマリーとドルマが他の生徒とは一味違うと言っても力量差は歴然。
何と言ってもこの教師は一時とはいえ悪魔と互角に戦ったのである。
逃げ出そうとする二人の足元から一瞬で石の足錠をつくりだし、2人を行動不能にしてしまった。
あれやこれやと言い訳する2人を引きずり、コムラードは模擬戦場を出ていってしまった。
松葉杖すらももう突いていない。
怒りが肉体の限界を凌駕したのだろう。
ルシアンは連れ去られていく2人を見つめ、怯えているマリーもいいなとおもった。




