表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマドキのサバサバ冒険者  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/240

★異端審問官

 ■


 あれからはほとんどシルヴィスとヨルシカ任せだ。

 グィルの死の説明や、樹神や魔族といった者達の説明……こういうのも俺が説明するより彼女らが説明した方が収まりが良い事は分かっていたので、俺は珍しく黙っていた。


 別動隊の者達への説明も全て丸投げしてしまった。

 俺はアシャラに訪れた一冒険者でしかない為、信用というものがないのだ。

 まあ俺個人の信用がないというのは仕方がない事だが、連盟の術師である事が悪い方向へ働かないとも言い切れない。


 連盟が向けられる感情と言うのは余りにも種々雑多なもので……中には強い憎悪を抱く者だって当然居る。

 例えばヴィリが滅ぼした小神の信者だとか、ラカニシュの被害者たちだとか……とにかく色々と被害者がいるわけだ……


 それでも世界の敵として排斥されないのは、一般的に言って邪悪な存在やら危険な存在やらを連盟が滅ぼしてきたからである。


 勿論人々の為にそれを為したなどということはなく、多くはもっと恣意的な理由によるものだが。

 俺がサブルナックを最初に始末した理由も依頼絡みの結果だった。


 奴はとある貴族の娘をだまくらかして色々と良くない遊びをしていたのだが、悪魔と言うのは割と雑な部分もあり、その所業を長くは隠せない。

 当たり前だろう、貴族の娘の友人が次々に石化したり急死したりすれば騒ぎになる。


 まあそうなると普通は教会の仕事なのだが、その貴族は大の教会嫌いだった。

 宗教を嫌う権力者と言うのは決して少なくない。


 そしてどこから知ったのか知らないが、連盟へのツテを使って俺に……何というか悪魔祓いの依頼が下りて来た。

 アレもそれなりに高名な悪魔だが、まさか相対する羽目になるとも思っていなかった当時の俺は、高額な報酬にホイホイ釣られてしまったというわけだ。


 結果として俺はサブルナックを追い返し、貴族の娘を助けたのだが……

 それがきっかけとなってたまに貴族の依頼を受ける事もままあった。

 その一つにロイ……いつかの色ボケ3人組の教育を引き受ける事になった。


 ロイは貴族の三男坊で親父は当然貴族なわけだが、ロイの事もそれなりに想っていたのだろう、冒険者となったロイを心配してギルド経由で俺へ個人依頼をおろし……俺は奴とついでに奴の仲間をそれなりに使える程度まで鍛える事となったわけだ。


 そう考えていくと不思議だな。

 物事は全て繋がっているのだなという気がしてくる。


 ◆◇◆


 SIDE:ヨルシカ


「いいかい? カチコミなんて馬鹿な真似はよして、まずは事情を手紙で伝えるんだ。ヨハン、君は衝動的に行動してトラブルに突っ込んで、トラブルの最中に思慮深く動く男だろう? 今回は最初から思慮深く行こう」


 私がそういうと、ヨハンは"お前は俺の……"と言い出して、何か腑に落ちていないような表情を浮かべた。

 きっと、お前は俺の母親かなにかか、と言おうとして……


 いけない、なんだか辛気臭くなってきた。

 ただ、ヨハンが言うには手紙はもう出してあるらしい。

 間に合うとは思っていなかったけど森へ向かう前には既に教会に文を飛ばしていた様だ。


 アシャラは中央教会とは疎遠だからな……

 都市の成り立ち的に、開祖アシャートをある意味で神と崇めるアシャラは法神第一主義の中央教会とは仲が良くない。

 だから教会自体も都市にはない。


 ヨハンが言うには、こういう案件だからすぐに中央教会から人員がやってくるという話だそうだけど。

動くにしても何するにしても、その使者に事情を話して反応を見てからみたい。

でもその結果がどうでも、アシャラは出立するとの事だった。


 ともかく、私も少し時間が欲しかったので丁度良かった。

 旅立つからって着の身着のままで都市を出るなんてしたくはないからね。


 ■


 という事でアシャラの復興というか、掃除というかそんな事を手伝っている内に数日が経過した。

 樹神の眷属の死骸……というか植物の塊は結構な数があり、その処理をしたりしていたのだ。

 触媒は国持ちだった為、一生分の火炎術式を使った様な気がする。


 そして俺は宿の自室に男を招いている。

 黒い服の中年男性だ。

 眼鏡をかけてうさん臭い笑みを浮かべている。

 俺がそういう趣味だっていうわけではない。


挿絵(By みてみん)

「お初にお目にかかります。私は中央教会所属、2等異端審問官ザジと申します。ヨハン殿の異神蠢動についてのお手紙を拝見し、部下を引き連れ駆け付けて参った次第なのですが……どうやら間に合わなかった様で! 申し訳ございません。手紙の配達人は既に捕縛しております。彼は急ぎの知らせだという事を知っていてもなお予定より2日も遅れて文を届けて来ました。特にご要望が無い様で御座いましたら神敵への利敵行為と見做し、そのまま処刑とさせていただきますが……?」


 異端審問官か。

 穏便な方が来てくれたか。

 異神討滅官だとメンツをつぶされただのなんだの揉める可能性があった。

 まああの段階ならこっちが来ると見込んでの事だったが。

 それに俺も文を穏健派の仕切る教会へ飛ばしたという事もあるし。


「配達人には温情を」


 遅れた理由次第かもしれないが、その理由が酒や女だったとしても殺される程の理由ではない……いや、まてそいつが予定通り届けていればもう少し楽だったのでは……? 


「配達人には温情を。ただし、理由次第では俺が死罰をくれてやります」


 俺が言い直すと、よろしいですとも、とザジはいう。

 異端審問官はその職務の性質上、苛烈な者が多く少し心配だったのだが、理性的な者が来てくれた様で安心した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 理性的、とは?
[良い点] 異端審問官もヤバいが主人公もヤバい。(ヤバイ)
[良い点] トラブルの最中に思慮深く動く男草生える笑 そして後半怖い笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ