表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマドキのサバサバ冒険者  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/240

★森へ

 ◇◇◇


 ニヤニヤと小生意気な笑みを浮かべながら草人間を近間から、遠間から叩き斬るヴィリはどこからどう見ても術師ではない。

 やってる事はただの剣士というわけでもないのだが。

 ともかく、今この瞬間もヴィリは術を使っている。


 彼女は一般的な術師とは違い、自らの行動がトリガーとなり術が発動される。この場合の触媒はその行動内容、行動に対する気構えと言った所だろう。触媒とは何も目に見えるものに限るわけではない。むしろ目に見えないものこそが触媒として価値がある場合もある。例えば神への祈りだとかそういうものだ。


 そういったタイプの術は手持ちの触媒がなくとも起動できるというメリットがあるが、自らの芯にブレが生じた場合は深刻な出力低下を招くというデメリットもある。


「いいね、乗ってきた! やっぱりお前等そこに居てよ! どうせ逃げようたって森中にアレいそうだしね! あたしが守ってあげる! こいつら鈍感だし、あンまやる気無かったんだけど……状況は良いカンジ!」


 ヴィリの振るう剣がどんどん鋭く早くなっていく。

 一振りで見えない斬撃を何本も飛ばし、体から仄紅い靄の様なものが立ち上っていた。


「カミサマの使いっ走りに!」

 ヴィリが剣を持った腕ごと体を大きく捻る。


「あたしがぁ!」

 剣を武器にしている者が何故そんな真似をするのかは謎だが、ヴィリはその剣を思い切り草人間の群れにぶんなげた。


「負けるかよぉ!」

 ぶんなげた剣の元へ突っ込んでいくヴィリ。剣がなくともその拳と足で草人間をぶっとばしていく。

 そして剣を拾った後はまた投げたり拾いにいったりしていた。


 そんな彼女を斥候の2人組みは凪いだ目で見ていた。

 あれだけ強ければ多分助かるだろうという根拠のない楽観と、なんだか少し頭が悪いのかもしれないなという哀れみが凪ぎの視線を生み出したのだ。


 ヴィリの術はノリが大事なので、明らかに非合理的な行動であっても結果的にそれが正解となりうる事が多々ある。

 彼女が立ち向かう相手が強大であればあるほど、それに対して自らが取る行動が英雄的であればある程彼女は強くなる。


 放って置けば死にかねなかった斥候2人を守り、怪しい草人間と戦うというのは一見ハンディの様に見えるが、ヴィリの術の出力を高める要因だ。


 こういった自身の行動に対する認識で出力が大きく変動する術というのはそれなりに珍しく、他には中央教会の聖騎士階級以上の者が似た様な業を扱う。もっとも彼らの場合はそれを術ではなく奇跡と呼ぶのだが。


 ともあれそういう事情もあり、彼女はマッチポンプみたいな真似はしつつも生贄を捧げたとかいいだした緑の使徒を拷問して殺すなどしていた。


 それが英雄的かといわれれば全く、断じてそんな事はないが、なにやら他者には窺い知れない彼女なりの一線というものがあるようだった。


 まあ今回に関しては彼女はどちらかといえば良い事をしている……かもしれない。


 と言うのも、カミサマを全員ブッコロすという物騒な目標を掲げているヴィリは、世界中の神話なり伝承なりもよくよく調べているわけで。


 今回大森林で緑の使徒の護衛(といっても彼女自身が何人も彼らを殺してしまっているのだが)をつとめるに至ったのも、彼女が大森林にいるらしいというカミサマを探すためにふらふらしていた所、たまたま樹神が封印されている場所へたどり着き、たまたまそこに緑の使徒の一員がいて、たまたま彼女が馬鹿だから、たまたま説得されてしまい……という理由だ。


 なお、連盟の中には神降ろし染みた真似をする者がいるが、ヴィリとしては特に思う所はない。

 むしろ強い好意を向けている。

 なぜならその者は、カミサマを役立たずと断じて信仰を捨て去り、自分で神のようなナニカを作ったようなチャレンジャーである。ヴィリ的基準ではそれはアリどころか、骨太な行いに分類される。


 ■

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「森に放った者から報告があった。植物で構成されたような人型の魔物が多数出没している様だ。街を取り囲んでいる」


 グィルが眼鏡を拭きながらぽつんと言った。

 焦っている様子はない。


「落ち着いているのですね」


 ヨルシカが問う。その声色には、なぜこんな状況で落ち着いていられるのか、という非難の色も混じっている様に思えた。


 グィルは何の感情も籠もっていない目でヨルシカを見つめて口を開いた。


「鈍い。脆い。そんなものが千来ようが万来ようがどうとでもなるからだ。その様なモノに崩される程アシャラはそこまで弱くはない。兵も動く。冒険者達も。防げるだろう、暫くは。問題は本体の方だ。放って置けば手が付けられなくなる。あれは森そのもの。そして森は成長する」


 俺は長々説教したり挑発したりする事は好きなのだが、大事な時にウダウダと理屈をつけて行動までの時間を引き延ばす事は大嫌いだ。

 やるしかなく、そしてやると決めたなら、すぐにやるべきである。


「では行きましょう。グィル、貴方にも来て欲しい所です。ヨルシカ、公平に行こう。君と君の街の為に命を賭けてやる。君も俺の為に命を賭けろ。来てくれるな?」


 俺がそう言うと、ヨルシカはただ一言だけ答えた。

「勿論」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの敵が連盟の杖か!?と思ったらそうではなくてホッとしたような残念なような 嫌でも絶対戦ったらろくな事にならないですよね…独自の設定がなかなかに素敵ではまりました、応援してます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ