出立したり
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「本当に宜しいのですか?最初は金貨2000枚という額の高さに驚きましたが、今は逆です。ロハとは流石に申し訳ないのですが…」
俺がミシルへそう言うと、彼女は首をフルフルと首を振った。
「良いのです。今回の件は助かりました。術師ヨハンが居なければあの悪魔はエル・カーラを喰い荒らしていたでしょう。…あれ?でもそもそもあの悪魔が術師ヨハンを恨んでなければ」
「なるほど、そう言うことでしたらこれ以上の固辞は失礼にあたりますね。あり難く受け取ります。ではまた何処かでお会いしましょう。教師コムラードへも宜しくお伝え下さい。療養所を訪ねたのですが面会謝絶でした」
形勢不利とあらば逃げる。
戦いとは基本的に避けるべきものなのだ。
俺は一礼し、踵を返し、ミシルの屋敷を辞去した。
『…の、…盟の…師が、…合に…お気を…くだ…』
早足だったので聞き取れなかったが、多分些細な事だろう。
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「教師ヨハン!」
屋敷の外で待っていたのはルシアン、マリー、ドルマだった。
見送りか。殊勝な。
「やあ。もしかして見送りにきてくれたのか?」
そう問うと、ルシアンが頷く。
「とてもお世話になりましたから」
嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
そして…流石に気になるのでぶるぶると震えているマリーに話かける。
「マリー。涙を拭きなさい。顔を上げなさい。術師が顔を下げる時。それは手も足も出ない敵を見下す時だけだ」
顎を掴んで彼女の涙を布で拭いとってやった。
「君が、いや、君達が一人前の術師になる事を確信している。ところでマリー。君の涙を拭ったこの布だが…術の触媒として使っても良いかい?君が俺を良き教師として慕ってくれている事は理解している。その真心…誠心なる想いは、1度だけ俺を致死の一撃から護ってくれるだろう」
流石に無許可は倫理的に良くないと思ったので確認を取ると
「はい!教師ヨハン…!是非使って下さい!」
嬉々としてそう言っていたのでありがたく受け取った。
生身の腕のほうでしっかりと彼等と握手をし、手を振り待合馬車乗り場へ向かう。
俺の霊感が囁くのだが、どうも彼等とは再び関わりそうな気がするな…根拠はないのだが。
次の目的地はアシャラ都市国家連合。
自然に囲まれた大地の実り豊かな小都市群だ。
名産品は白葡萄酒。そして燻製肉。
運が良ければヨルシカとも再会できるだろう。
◆◇◆
SIDE:ルシアン
「決めたわ。私、学院を卒業したら冒険者になる。そして教師ヨハンを…あ、もう教師じゃないのか…ヨハンさんを追うの。最初は恋かとおもったけれど、多分違うわ。小さい頃、神様に祈る時に感じてた気持ちに似てるかも。とにかく、あと2年だからあっという間ね。ルシアン、ドルマ、あんた達も付いて来なさい。ルシアンは私と一緒に居れて嬉しいでしょ?ドルマ、あんたはお金が大好きなのよね?腕が立つ仲間が居ればお金稼げるわよ」
マリーがまたとんでもない事を言い出した。
いや、でもとんでもなくはないのかな?
どうなんだろう。
ただ、これは何となくなのだけれど、僕等がヨハンさんのお陰で…せいで?何かを逸脱してしまった事は薄っすら分かる。
よく分からない…正直いって考えがまとまらない…
「少し考えてみるよ。でも、何て言うのかな、3人なら何しても楽しそうだね、冒険者って何する人達なのか良く分からないけどさ。でもなるべく人殺しはしたくないな。後、マリーとも一緒に居たい」
そういうと、マリーは“そ、そう…”と少し恥ずかしそうだった。
ドルマはとても疲れてる様子だった。
昨晩の疲れが残ってるのかな?
心配だ。
次回からはアシャラ都市国家連合です。
あんまり殺伐しない予定です。むしろカジュアルな方かと。
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