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イマドキのサバサバ冒険者  作者: 埴輪庭


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魔竜死闘②~一人帝国軍~

 ■


 ケロッパは目を見開き、魔竜シルマリアの評価を上方修正した。まさかこの超重力場で攻撃態勢が取れるとは、彼自身も思っていなかったのだ。現在の魔竜シルマリアは断続的に自重を十倍以上に増加させている。これは筋肉がどうとか、骨格がどうとかそういう理由で耐えられる限度を超えている。


(竜の吐息か、竜魔法か。そのどちらかでも犠牲は出るだろう)


 ケロッパはそれが自身でない事を祈った。

 それは自身の命を惜しんでの事ではない。

 隊の勝算が大幅に下がる為だ。


 その時、視界の端から何かが飛び込んできた。

 ラグランジュだった。

 剣を構えながら疾走している。


 その手に握られているのは、彼女の愛剣「月撫」だ。

 冬の夜の、冷たい月光を剣の形にかためたかのような美しい魔剣は、その別名を"銀糸剣"と言う。


 アリクス王国に伝わる月割りの魔剣をモチーフに、帝国魔導技術の粋を尽くして鍛造された人造魔剣である。

 魔剣にせよ聖剣にせよ、普通の剣と一線を画す点は逸話や伝承を内包しているかどうかなのだが、帝国が開発した人造魔剣には逸話も無ければ伝承もない。


 あるのは魔導科学の理だ。

 視るものが視ればわかっただろう、抜き身の剣身から大容量の魔力が拡散していく様子が。


 彼女の人差し指と中指がゆっくりと剣身に触れ、撫でる。

 疾走中という激しい動きの最中であるにも関わらず、彼女の仕草は一種の妖艶さを伴っていた。瞬間、剣身がまばゆく光輝く。これは柄内部に仕込まれた触媒に魔力が伝導し、剣が正常に仮起動した事を示す。


銀 花(ルプス・プルケル・)  月 狼(ホディエ・オステンデ)…起動せよ、帝国魔導"散月陣"!」


 詠唱詩は誤起動を防ぐ為のストッパーであり、今それが外された。その瞬間、月撫から放出されていた魔力が一斉に銀糸に変質し、舞い、弾け、シルマリアの全身を斬り刻んだ。


 意識は狂していても痛覚は残っていたか、シルマリアは悍ましい絶叫をあげてのたうち回った。


 ・

 ・

 ・


「あの姉ちゃん、ただうるさいだけじゃなかったんだなァ」

 ランサックが言った。


「あの女、煩いだけじゃなかったか」

 ザザも言った。


「あのアマ、やかましいだけじゃなかったらしいな」

 カッスルも…。


 ■


 帝国魔導とは言ってみれば帝国式魔術とも言うべき新しい術体系である。


 しかしこれは帝国領内、しかも周囲に帝国軍に属する者が多く存在する場合にしか使用出来ない。


 世界には様々な術体系が存在する。


 例えば協会式魔術。

 例えば法術。

 例えば連盟式魔術。


 それぞれの術体系にはそれぞれの強みや弱みがあり、術界隈の日進月歩は著しい。


 そんな中、帝国式魔術…帝国魔導は非常に新しい術体系で、即応性や柔軟性を追及して開発された。


 例えば協会式魔術ならば火球を投射する為には、現象を導くための詠唱を必要とする。

 多少文句が違っても術は起動するが、ともかくも詠唱しなければ始まらない。


 なぜならば世界中でそう認識されているからである。


 対して、帝国魔導は起動の鍵となる文言を一語に集約させた。つまり、火球を出すならば「火球」の一語だけで事足りるのだ。


 しかも語と語を組み合わせる事により、個人で新たな術を生み出す事も可能…と非常に画期的なのだが…現状、帝国魔導には大きな欠陥がある。


 帝国の、しかも軍という狭い世界でしか通用しない共通認識である為、帝国領外では使用出来ないという事。


 そして軍用に開発されてしまった為に、個人使用が出来ない事。


 更に、消耗が大きすぎるため求められる触媒の質、量が協会式のそれなどとは比べ物にならないという事。


 帝国魔導"散月陣"は最大射程半径50m、剣身から拡散させた魔力を切れ味鋭い銀糸へと変質させ、切断乱舞させる。

 魔力の消費は媒体となる剣が担い、本人は消耗しない。

 連続使用はできないが、剣は空気中の魔力を吸収する為、とりあえず殲滅しておくかという時などには丁度良い。


 しかしなぜ、ラグランジュが帝国領外で帝国魔導を扱えるのかといえばそれは酷くあんまりな理由であった。


 ■


「これぞ我が帝国の技術の粋!!我が身に宿る忠義の光、そして帝国の叡智の極光がこの暗黒魔界を遍く照らすだろう!我はここに誓う!この地に蔓延る邪悪を悉く滅し、果ての大陸なる蛮地を浄化し、我が敬愛する主へと捧げる事を!邪悪な魔族の飼い竜よ!帝国を恐れるならば神妙に我が下へ降るべし!」


 要するにラグランジュは帝国の命を受けて侵攻したこの地は既に帝国領土だと考えており、軍中にあってしか使用できないという制約も多対個という状況なら適用できると強く信じていただけなのである。


 この強烈な思い込みはラグランジュの人格形成に歪みを与えており、彼女は友達一人いないし、当然恋人もいない。


 それだけ聞くと、ちょっと残念で可哀そうな女性なのかなと思うかもしれないが、そんなに可愛いものではない。これはただの思い込みではなく正しく狂信であり、皇帝の為なら無辜の民を罪悪感なく一顧の疑問の余地なく虐殺できる程の忠誠心が無ければ術式の適用範囲を拡張などは出来ない。


 ただし、彼女の戦闘能力は折り紙付きであり、それゆえに魔王討伐隊に選ばれたという背景がある。

『月撫』(つきなで)


不死殺しの魔剣を真似っこしようとおもったが、不死を殺すという事の意味がよくわからず、とりあえず強力な再生能力がある相手と言えども全身をバラバラにしてしまえば復活はできないだろうという考えの元考案された兵器。銘の由来は『体毛』。月魔狼フェンリークのふさふさの体毛が周辺に散らばっているというイメージ。ふさふさの体毛なら撫でるという安直な連想から命名された。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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[良い点] もしかしなくても皇帝陛下から微笑み一発もらったら7徹くらいできちゃう系な方ですか?
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