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イマドキのサバサバ冒険者  作者: 埴輪庭


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帝国へ⑥

 ◆


「あの!ヨハンさん…」

 マイアが深刻そうな様子でヨハンに声をかけた。


 ん?と顔を向けてみればマイアからはある種の覚悟が感じられる。


「なんだ、マイア」

 どうせくだらない話なんだろうなと思いながらヨハンはマイアに先を促した。


「そちらの女性ですけれど…ヨハンさんの仲間です…よね?もしかして…ここここ…恋人…?いや、でもあのヨハンさんですからね。あの時、ウルビス北西の森を探索中、私とロイがいい雰囲気になって手を繋いでいたら、ヨハンさんはその手を蹴り上げて私達二人を引っぱたきました…痛かった…。いえ、恨んでるとかではなくてですね、その、恋愛とか絶対にしなさそうだなって…」


 案の定くだらない話であったが、それを呆れる事なく聞き切ったヨハンは、1つ重々しく頷き口を開いた。


 マイアの横ではロイが項垂れている。

 村に迫るとどめようがない災厄を前にして、すべてを諦めきった古老のような様子であった。


「そうだ、彼女はヨルシカという。ヴァラクで知り合ったんだ。何度か死線を抜けて親しくなった。恋愛云々の話については余り深くは言及しないが、もし俺と君達が行きずりの関係であったなら、飛んでいたのは平手ではなく拳だった。あの時もいったが、胡乱な視線がいくつか俺達を見ていたんだからな。恐らくは魔獣の類だろう。ああ、そうだ、マイア、君は確か中央教会に所属していた聖職者だったよな。法神教は無くなった。次の神様を探しておけよ。…それで、ロイ。折角だから君の親御さんにも挨拶して行こうかなと思うんだがどうだ?便宜をはかってもらったこともあるしな…」


「え!!!!そうなんですか!?…そっか、まあいいか。最近はお祈りもしていなかったし。あ。でも法術つかえるかな…」


 マイアは割りと適当な反応を返し、ブツブツ呟いたかとおもえば人差し指に淡いピンク色の光を灯した。


「うん!問題ないですね!ならいいや。あ、ヨルシカさんですね、私マイアと言います。紹介おくれて御免なさい。昔ヨハンさんと一緒に冒険していたんですよ~。私とロイ、そしてガストン…元気にしてるのかな、ガストン…」


 マイアが少し沈んだ表情を浮かべる。

 ロイも同じだ。


「ガストンか。ガストンならヴァラクで女二人と楽しそうにやっていた。昔よりはマシな顔つきをしていたよ」


 ロイとマイアは目をぱちくりさせて、何か納得がいかなそうな様子を隠そうとはしなかった。


「お、俺達はガストンの離脱で結構悩んだんだけどな…それが女二人と楽しくだなんて…二人か…二人って凄いな」


 何を想像しているのか知らないが、マイアがチンピラみたいな目つきになっている事に気付いたほうがいいぞ、とヨハンが言う事はなかった。


 なぜならヨハンには、先ほどマイアが言っていた件とは別件のいちゃつきでマイアを敵の奇襲から庇い、骨折したという恨みがある。

 元をただせばそれもロイが悪い。


 だからロイなどという性欲犬はマイアから盛大に暴力でも振るわれればいいとヨハンは思っている。


 恩は忘れないが仇だって絶対に忘れない陰湿さはヨハンを構成するアイデンティティーの一要素でもある。


「ヨハン、なんだか個性的な人達だね。でも悪い人達じゃなさそうだ。それにしても、結構厳しかったんだね。私もなにかトチったら厳しく指導されたりしたのかな」


 ヨルシカが言うと、ヨハンは腕を組んで何かを考えている様子だった。

 ややあって口を開くが、自分でもイマイチ納得がいっていない様子でもある。

 これはヨハンには珍しい事だ。


「そうだな…悪い奴等じゃない。だがマイアには少し驚いたな。あれは法神由来の法術じゃない。もはやマイア独自の術といっていい。信じがたいが、彼女の中には既に敬虔な法神教徒が己の中に描く法神に匹敵する確固たる何かがあるようだ。過激派だの穏健派だの、そういう連中が自身の中によすがを見出すことはそう不思議な事でもないのだが、色ボケマイアが何故…」


 ◆


「それにしてもザジ殿、このようなところで出会うとは!壮健でありましたかな?ふむ、筋肉を見るに、鍛錬は怠っていない様子。それにしてもこの異変は一体どういう事であるのか…文献による所を信じるならば果ての大陸の封がとけた…と言う事になりますが、しかし猊下が壮健であるかぎりはその様な事はありますまいて。勇者殿も未熟ですが、いずれは力を伸ばすでしょうし」


 そういいながらゴ・ドが酒を呷った。

 ここは帝都ベルンのとある酒場である。

 ちなみに法神教徒は酒が禁じられていない。


「まあアシャラから帝都はさほど離れておりませんからね。ゴ・ド殿も帝都に用事が?私は帝国宰相殿へ行脚ですよ、例のね。帝都はどうにも法神を軽んじるといいますか…いえ、法神教自体が好まれておりません…」


 2等異端審問官であるゴ・ドとザジは互いに肉体を武器とする者であり、さらに互いにおっさんであるという点、ついでにいえば同僚達と話が合わないという点で親しかった。


 ゴ・ドはイスカから帝都に向かい、ザジはアシャラから帝都に向かい、そして偶然にもばったりと顔を合わせる事になったのだ。


 異端審問官は基本的に法神教に害為す異端の討伐を主任務としているが、人格に問題がないものは布教活動にもいそしむ事がある。


 レグナム西域帝国への布教はゴ・ドやザジのような少なくとも中央教会では人格に問題が少ない者達の仕事でもあった。


 帝国は基本的に法神教を毛嫌いしているが、中央教会としても大陸最大版図の帝国を無視するわけにはいかない。


 教会戦力は油断ならないが、それでも帝国を力ずくでどうにかできるわけではないため、言葉の外交を積み重ねていく…というのが往時の中央教会の方針であった。


 まあ、もう法神教はなくなってしまったが。

 なお、この二人はその事実をまだ知らない。


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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