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第九十二話 宇宙の冷たさ

誤字脱字の連絡とご感想ありがとうございます。

次の戦いに向けた準備がお互いに終わりつつあります。


 魔物勢力──エゼキド監査軍がラグナラクに代わる切り札を完成させた頃、地球側の切り札であるソルグランドは宇宙の闇と星の輝きの只中から、惑星ナザンの蘇りつつある姿を眺めていた。

 ソルグランドによって国造りの神話再現によって大量のプラーナを与えられ、息を吹き返した惑星は風が吹き、水が流れ、大地は再生し、核は熱を取り戻しつつある。

 このプラーナを吸い尽くされ、死んだはずの星を蘇らせる文字通りの神業には、かつての住人カジンも驚愕を禁じ得ず、ともすれば地球の一部の人々のようにソルグランドに対する信仰が発生する土壌が育まれている。


 当のソルグランドはまさか異星人にまで崇拝、信仰されるとは夢にも思っておらず、生まれて初めて宇宙から星を眺める、という貴重な経験を満喫中だ。

 呑気と呆れるような状況ではあるが、本来、一民間人であった真上大我が、神々の補助ありとはいえこれまで命懸けの戦いを繰り広げてきたのだから、こうして精神をリフレッシュさせるか、新鮮な経験をしなければ心身を万全に整えるのもままならない。


 地球から見上げるのとは異なる星空の中、青と緑の色彩を取り戻しつつあるナザンを、ソルグランドは命綱の類や宇宙服の類を着用するでもなく、淡い光を全身に帯びてなんの支障もなく眺めている。

 マジカルドールや魔法少女達が宇宙空間での戦闘に向けて訓練と調整を重ねている中、ソルグランドは出来て当然とばかり宇宙空間に何をするでもなく対応していた。


 ソルグランド自身、この大事な時期に星を観察してリフレッシュしているだけではない。

 カジン達によって用意された宇宙ステーションを根城に、訓練に励んでいる数百名の魔法少女とマジカルドール達を眺めながら、もし、惑星の重力圏に掴まって落下し始めた場合や、訓練宙域から外れそうになった場合にすぐさま救助する役目もある。

 幸いなことに魔法少女達は宇宙でも問題なくパフォーマンスを発揮できている。問題と言えば重力下での戦闘経験しかない為、宇宙での戦いに慣れていない点だ。ハードに問題はないが、ソフトに問題があるわけだ。


「ありゃりゃ、あの様子だと宇宙ではフォビドゥン達と訓練させられませんね」


 ソルグランドは、当然のように傍らに控えている夜羽音へ、数キロメートル先の惨状について、歯に衣着せぬ評価を伝えた。

 妖精に擬態している夜羽音はというと、仕方ないという理解と、もう少しどうにかならないか、という二つの感情がせめぎ合っているのが雰囲気で伝わる。


「フォビドゥン達が魔法少女を参考にしたのは明らかですが、環境に対する適応力、あるいは汎用性においては上と言わざるを得ませんね。魔法少女達もシミュレーターで経験を積んではいますが、やはり実地での訓練となると勝手が異なってしまうようで……」


「はは、まあ、俺も『天津甕星(あまつみかぼし)(しん)の権能のお陰で、宇宙でも自由に動けているわけですから、魔法少女達に比べると少なからずズルをしている気分になるもんで、厳しいことは言えそうにありません」


 天津甕星、あるいは天香香背男(あめのかがせお)香香背男(かがせお)とされる、日本神話における星の神の名である。古事記には登場せず、日本書紀にてその存在が触れられる、謎多き神だ。

 世界の神話を見ると星を司る神は概ね高位の神として扱われるが、天津甕星においては葦原の中つ国平定の障害となった、服従させるべき、まつろわぬ神と語られている。

 夜羽音は人間には伝わっていない諸々の事情を知っているだろうが、これまでと同じように詳細は語らず、宇宙での戦いの助けとなると助言をしたのみに留まる。


「ネイバーの皆様は既に順応しているようで、人間側の調整待ちです。地球人類とフェアリヘイムにしても、史上初となる大遠征です。いくら準備をしても十分とはなりませんでしょう。万全に整えたと口にしても、実際は万全には程遠い。これまでの魔物との戦いは全てそうでした。今度は都合よくゆくなど誰も思っておりません」


「あのラグナラクを撃破して、それなりに時間を与えてしまいましたからねえ。性能の落ちた量産型ラグナラクを引っ張り出してくるか、それとも同じ性能のラグナラクをまた持ってくるのか……一番厄介なのはラグナラクの上が居ることですかね」


 もしそうなったら、被害が大きくなる前に苦殺那祇剣を即座に使うしかない、と腹をくくるソルグランドに、夜羽音もまた烏なりに表情を引き締めて彼の見解を嘴から発する。


「ここに至って、我々の魔物側に対する情報不足が尾を引いておりますね。ただ、カジン達から提供されたデータと我々地球側の知恵や未来を司る神々の尽力、フェアリヘイムの協力に基づく高精度の推測なら出来ていますよ」


「ふーむ、つまり占い、あるいは神託? それとも未来予知か予言と言うべきですね」


 ソルグランドの脳裏には未来を予言したばかりに不幸な結末に至った物語や逸話が、いくつもよぎった。

 今回ばかりは地球とフェアリヘイムにナザンの運命までかかっているのだから、結末は自分達の手でつかみ取りたいと、真上大我という一人の人間としては切に願う。


「現代の皆さんには神託や占いでは、科学的根拠に乏しくて信じがたくはありましょうが、魔物側の兵器としての最高戦力はラグナラクで間違いはありません。ただあれには資源回収装置としての側面が考慮されていました。完全に戦闘に特化させた兵器、例えばこれまでの魔物少女の集大成としての新型が出てくれば、話は変わってきます」


「そして間違いなく、新型は作られていると皆様方はお考えなのでしょう?」


「短いですが濃いお付き合いをしてきただけに、神々についてよくお分かりだ。大我さんの言われる通りの推測を立てておりますよ」


 ソルグランドは溜息を吐きながら腕を組んだ。最終的には二メートル程度の人型になったラグナラクを苦殺那祇剣で撃破したが、今度は人型ラグナラクが……


「俺を倒すことに特化させた仕様で出てくる、か。フォビドゥン達に持たせた機能もより洗練されるか、取捨選択した上でしょうね。人気者は苦労しますなあ」


 ソルグランドのおどけた調子がちょっとした強がりであるのを、夜羽音はよくわかっていたし、ソルグランドも気付かれているのを分かっていた。

 強がるソルグランドの心中を慮るからこその夜羽音の気遣いだ。人と神ながらその付き合いの濃さは種の違いを超えて、お互いを無二の相棒へと変えていた。


「その人気に応えなければなりませんからね、苦労が多いのも道理です。もちろん、私達を含めて周囲の方々は貴方を全力で支えます。それをどうかお忘れなく」


「片時も忘れたことなんてありませんよ。俺だけでここまで戦えて来られるわけがありません。魔法少女達の助けになりたくてソルグランドを引き受けましたが、そんな俺も多くの方々に助けられている。これだけ強い力を与えられても、一人でなにもかも出来るわけではなく、誰かと支え合っているという事実をしみじみ実感します」


「貴方がそのように感じてくださる方でよかった。ソルブレイズやザンアキュートを含め、多くの魔法少女達が貴方に支えられるように、貴方を支えたいと思っていますよ」


「はは、いやあ、孫娘と同じ年頃の女の子に助けられていたら面目ないと思うのは、頭が固すぎますかね? それ以上に嬉しくてついにやけてしまいますけど」


 はにかむソルグランドに夜羽音は何も言わずに、ただ微笑んだ。

 人と人との思いやりが描く輪が生み出す力と癒しは、魔物達にはない大いなる力であると、古から人を導き、見守ってきた神の一柱たる夜羽音はよく知っていたから。

 ソルグランドは魔法少女達の、夜羽音はソルグランドの保護者感覚で訓練を見守っていたが、では見守られている魔法少女達はどうだったか?


 修理の終わったザンエイに設置されたカタパルトからの出撃と着艦、実戦を想定した模擬戦を行えているのは少数で、大部分は無重力空間での移動に慣れるところから始めている。

 大気圏内での飛行能力は魔法少女の多くが基本機能として備えているが、宇宙空間の行動は想定外の状況だった。

 幸いフェアリヘイムと協力し、微調整を加えるだけで宇宙でも地球と同じように飛行することはできた。問題は……


「わ、とととと……」


 少しだけ慌てた声を出し、あらぬ方向へ飛んで行ってしまうソルブレイズを、ペアを組んで訓練をしていたザンアキュートが受け止めて、すぐさま停止する。

 受け止めて勢いを相殺し、ピタリと停止するまで実に滑らかな動きだ。ザンアキュートは既に宇宙空間に適応している優等生だった。


「プラーナの放出を止めて。プールや海の中でただ浮く感覚よ。それで慣性飛行に移るから。もちろん、私が受け止めているからどこかに飛んで行ったりはしないから大丈夫よ」


「うん、ありがとう、ザンアキュートさん」


 ふう、と小さな息を吐いて、ソルブレイズは自分の身体を受け止めるザンアキュートのぬくもりに気付いた。

 太陽の光を直接浴びる環境だが、魔法少女の肉体とプラーナによるシールドは、太陽光の熱も宇宙空間の冷たさからも彼女達を守ってくれる。


「太陽の光は熱くないし、宇宙なのに寒くなくて、空気がない筈なのに呼吸も出来る。それなのにこうしてザンアキュートさんの体温も感じられるなんて、不思議ですね」


「そうね。呼吸しているのは空気じゃなくて、気化させたプラーナ。体温を感じられるのも、未知の宇宙空間という環境に、これまで通りの部分を一つでも多く残す為の措置と聞いているわ。それに体温を感じられるのも、仲間と触れてぬくもりと共に存在を感じて、安心できるから、配慮されたのかもね」


「マジカルドールが声だけは元のままっていうのと、同じ理由というわけですね。未知の中に既知があることで得られる安心感は、大きいんだなあって感じます。宇宙ってあんまり広くって、なんだか怖くなっちゃう時があるから分かるなぁ」


 周囲に目をやれば同じように訓練に励む魔法少女とマジカルドールの姿があり、巨大なザンエイとなによりナザンという惑星が存在しているから、決して孤独というわけではない。

 だが周囲に広がる無数の星々の輝きと計り知れないほど広がる宇宙の闇を見ていると、ふとした瞬間に果ての無い穴に落ちるような、あるいは宇宙の果てに意識が吸い込まれるような、言葉にしがたい不安が心の中に生まれるのだ。

 厄介なことに手に取って捨てられるようなモノではないから、ただの気の迷いだと忘れたふりをするか、今、ザンアキュートに抱き留められているように他の命のぬくもりを感じるしか、不安を紛らわせる手段がない。


 魔法少女もマジカルドールも魔物と互角以上に戦える強靭な肉体と能力を持っているが、心ばかりは自分達で鍛える他ない。

 未だ本格的に地球から飛び立ち、宇宙で世代を重ねるまでに至っていない地球人類にとって、宇宙での戦闘とは敵の強大さ以前に環境自体が難敵なのだった。


「それでも、地球から外の宇宙に旅立つわけではないのだから、少しの辛抱よ。それに今回もカジンさん達とソルグランド様が一緒だもの。なにも心配する必要はない。違うかしら?」


「……うん、そう、そうだね。ラグナラクとの戦いでは結局、ソルグランドさんに頼ってしまったけれど、今度の戦いではあの人にばかり頼らないで済むように、私達がもっと強くならないと」


「ええ、その意気だわ。私はソルグランド様を全人類が崇拝するべき至高の女神と思っているけれど、なにもかもを委ねてただ縋るだけなんて唾棄すべき弱さと甘さよ。あの方に救いを求めるだけでなく、あの方を支えられるように自らを戒め、磨くべきなのよ」


(え? そ、そこまで? いや、地球規模で大恩人ではあるだろうけれど……)


 元々、魔法少女達の間でソルグランド派の創設者として、着実に勢力を伸ばしているザンアキュートであるが、同派でない魔法少女を相手に、ここまで露骨にソルグランドへの信仰を語るのは珍しい。

 これまでソルブレイズと共に尋常ではない強敵との死闘を重ねてきた経験、そしてまた同格の魔法少女とあって、かなり心を許しているようだった。

 なによりソルグランドを相手に心情を告白し、恥も外聞もなく大泣きした姿を見られているのが一番の理由かもしれない。


「さあ、いつまでこうしていても仕方がないわ。訓練に戻りましょう。プラーナを推進力に変換して飛ぶ。空を飛ぶのと理屈は一緒よ。後は宇宙には空気抵抗がないっていう違いを頭の中に常に入れておくの」


「地球で空を飛ぶのが得意だった子は、風がないのに戸惑って宇宙だと上手くいかないパターンが多いんだっけ」


 ザンアキュートに軽く押されて、ソルブレイズの身体がゆっくりと離れて行く。

 息をするくらい自然に、とまではいかないが地球で空を飛んでいた時を思い出しながらプラーナを微調整し、姿勢を整えてザンアキュートと正面から向き合う。

 宇宙での適応訓練に参加している中で、ソルブレイズは比較的、マシな方だった。

 ソルブレイズが口にした通り、地球環境での飛行を得意としていた面々はだからこそ宇宙での飛行に手間取っていて、ソルブレイズ以上にあらぬ方向に吹っ飛ぶか、得意のマニューバーを失敗する光景が何度も繰り返されている。


「ハードに問題はないのだから、後はソフト、つまり私達の問題よ。ソルグランド様に負担を押し付けてしまっているのを、誰もが申し訳なく思っているのだから、気合は充分。後は成果を出すだけよ」


「つい焦っちゃうけれど、焦ってもいい結果にはつながらないから難しいね」


 ふう、と困り眉になって溜息を吐くソルブレイズに、ザンアキュートは同意しつつ窘める言葉を口にする。ソルブレイズが本気で悩んでいたら、もっと真摯に向き合うところだが、そうでないのは声の軽やかさで分かった。


「そういうものよ。ただ、私達は必ず結果を出さないといけないわ」


「うん。結構、重圧だよね。でも、そうだな。これまでは魔物を撃退するだけで受け身だったけど、今度はこっちが攻める番なんだから、モチベーションは全然違うよ。だから大丈夫、私も含めて皆、作戦までには絶対に間に合わせる」


「その点は私も同意よ。全員のモチベーションが高いのは疑っていないわ。ようやく魔物共に、一泡吹かせてやれる絶好の機会なのだから」


 魔物達の築き上げた要塞の攻略となれば、これまでと違って情報を得られる可能性が高い。攻め込む側に回ったというだけでなく、ようやく魔物側の尻尾を掴める期待から、人類側のモチベーションは極めて高かった。

 魔物達がエゼキド監査軍という名すら知らない状況から、ようやく一歩前進できるかもしれない。そんな瀬戸際に彼女達はようやくたどり着いたのだった。

これからの戦闘描写を冗長にならないよう、気を付けてゆきたいところです。


アマツミカボシはマーベルでえらいこっちゃになっていますけれど、なんででしょうね?

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