七十七話 帝国第五騎士団
アルドラン帝国の帝都ディーリッド。
帝都の奥に聳え立つ黒鉄の城である、ディーリッド城。
城に隣接して整備された広大な敷地には帝国軍人が今日も訓練に励んでいる。
そして、三階建ての軍司令部の一階の最奥、その部屋に割り当てられているのは、第五騎士団の詰め所である。
第五騎士団隊長室に座るのは一人の女性。
イーラ・リール・ミルセリア。
侯爵の娘であるが、今はこの騎士団の団長を務めている。
「団長、司令部からです」
そう言って、一枚の紙を渡す。
それを見て、イーラ団長は顔をしかめる。
真っ赤に染まった髪は普段なら下ろしていて、肩甲骨まである。けど、訓練になれば一つにまとめていて、それがなびくさまなど、絵画にしてもいいほどに綺麗だ。
吊り上がった眉に目尻は団長の家の遺伝である。
団長自身はあまりその目のことが好きではなかったが、「この顔のおかげで、男性たちが怯んでくれるのなら助かったよ」と困ったような複雑な笑みを浮かべていた。
「フェディル、お前も目を通しておけ」
そう言って、投げて渡してきた紙には短い一文が書かれていた。
『三季節巡り後、王国西端フィリーツ領に進行』
私もそれを見て顔をしかめてしまう。
「軍議を私抜きでやっていたのも、これのせいか」
第五騎士団。
つい最近編成された新たな騎士団である。
所属しているのは全て女性であり、子爵から騎士階級の女性で編成されている。
ずっと帝国は男性社会であったが、その中でもイーラ団長は立ち上がり、こうして騎士団の結成までこぎつけてくださった。
しかし、そのせいもあってか、他の騎士団からの当たりがキツイ。
良く思ってない人の方が大半だ。
それがこの詰め所でもある。
もともとがただの物置。
埃をかぶったこの部屋や詰め所を掃除して、何とか部屋の体をとってはいる。
それに軍議が知らされないというのはよくある。
噂を聞きつければ、イーラ団長はそれはもう顔を歪ませるぐらい、真っ赤になり軍議の場に駆け付けるのだが。
「これは……休戦協定を反故にするつもりでしょうか」
「だろうな、男共はよほど戦争がしたいみたいだ」
面白くなさそうに、机の上に置いてあった紙を一枚丸めて、イーラ団長は投げ捨ててしまう。
「戦争なんてしてる場合じゃないだろうに……」
「そうですね」
私が生まれる前は王国のように緑が茂り、多くの野生動物が住んでいたという。
しかし、今のこの帝国はどうだ。
土地は痩せて、動物共はどんどん緑のある方に去っていってしまった。
野菜も自国で取れる分なんてたかが知れている。
他の大陸からの品に頼っている現状であるが、いつそれが打ち切られるか分かったものじゃない。
「フィリーツ領、フェディルは知っているか?」
「いえ……存じません」
「最近できたところらしい。開拓して人も増えている」
豊かな生活をしているのだろう。
帝国はどんどん貧富の差が広がっているというのに。
「密偵によれば、だが、兵の姿は見えないらしい」
イーラ団長が暗い顔をする。
無抵抗の村人たちを斬るのは私だって、嫌だ。
だけど、私たちは軍に所属している。
ならば、やらねばならない。
命令されたのであれば、斬らないといけないのだ。
「嫌な仕事になりそうだな」
イーラ団長もそれをよく分かっている。
そして、この人は命令されたのであれば躊躇う事はない。
覚悟が出来てないのは団長以外かもしれない。
「そして、これが私達の最初の仕事だ」
そう、私たちは新設された騎士団であるため、実戦経験がない。
今まで訓練ばかり。
それによく分からない雑事ばかり押し付けられていた。
「そうですね、引き締めて行かないといけませんね」
「そうだ。けど、どうせこれも他からの横槍が入って、他の団主導になるだろうな」
諦めたような口調であるが、悔しそうに口の端を噛んでいる。
私たちの騎士団は人数自体が少ない。
女性しかいないというのもあるが、女性で武芸を修めようとする者自体が帝国では少ない。
大体の女性は自分は家の道具、良い嫁ぎ先を決め、家に利益をもたらそうぐらいの考え方しかないだろう。
私たち騎士団は二百人にも満たない。
良くこれだけで編成されたと笑われもしたが、イーラ団長は「笑わせておけ」と言っていたが、やはり悔しい。
「いつか帝国を中から変えないといけないな」
「イーラ団長が皇帝になりますか?」
「私が皇帝? 無理だ。私に政は向いてないさ」
イーラ団長が大きく声を出して笑う。
私からしたら、今の皇帝に比べたら、よほど向いているとは思う。
みんな、騎士団のみんなはイーラ団長が尊敬しているし、慕っている。
もし、イーラ団長が皇帝を目指すのであれば、我ら騎士団一丸となって協力するだろう。
「話を戻そう。フィリーツ領の領主だ」
私は話を聞くために姿勢を正す。
「レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレット。爵位は男爵だが、王国にスカーレットという家はない」
「成り上がったということでしょうか?」
「分からない、が、王国は帝国よりも貴族社会だ。新参者が爵位を簡単にもらえるわけがない」
それだけ言われれば、私でも理解出来た。
何者かが、爵位を与えた。
「それにスカーレットの容姿はまだ少女だそうだ」
意味が分からない。
そんな人物に爵位を与える意図が。
「密偵は他に何か情報を持ってきてないのでしょうか?」
「近づいたものはいたそうだ」
それだけで結果が分かる。
「帰ってきてないのですね」
「あぁ」
「それほどの手練れなのでしょうか」
「分からない。ただ、スカーレットではなく、その周りの者が手練れかも知れない」
イーラ団長の言葉はどこか不安が混じっている。
伏せた目は深い思考の海に落ちているようにも見えた。
「フェディル、知ってるか? 私の悪い予感はよく当たるって」
「今知りました」
「そうか、よく当たるんだ」
一度言葉を切り、視線がどこか虚空に向けられた。
「幼い頃、叔父が死ぬときもなんだか胸騒ぎがして、嫌なことが起こりそうだと思っていたら亡くなった。叔母の病気もそうだ」
「偶然では?」
「こういうものは自分を信じてみるものだ。私は自分の予感を信じている」
「嫌な予感がしたんですか?」
「あぁ、フェディルが持ってきた紙を見た時からな」
イーラ団長は天井を見て、背もたれに体を預ける。
「嫌な仕事になりそうだ」
「その前に訓練です」
「あぁ、初任務の日が決まったと伝えてくれ。そうすれば、皆一層訓練に身が入るだろう」
礼をして、部屋を出て行こうとすると、またイーラ団長が呟いた。
「外れてくれるといいな」
私は部屋を出て、訓練場に向かった。
謝辞
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