80話 戦荒し
複数人で楽しめるパーティーゲームでありながら
1対1を好む者がいることに 不思議に思うのはおかしな事だろうか
1でも3でも4でもなくて 2が重要
CPUでもいれて多数にしてもいいだろうに
アイテムでも付け足してハチャメチャに盛り上げればいいのに
2人で一緒に冒険できる物でもいいのに
複数人が集まっていても 1対1に拘りを見せるのだ
理解の及ぶ事があるとするならば
総じて しょうがない が許せない質ではなかろうか
食物連鎖の底辺に近い生物といえば、何が思いつくだろうか?
先に考えられるのは草食動物といった他の生物を襲わない存在を想像する者が多く、微生物など除けば概ねその通りだ。
鹿、馬、牛、象などと数多くの個体がいるがその中でも体躯の小さな生き物が兎や栗鼠といった小動物だ。
齧り付く程度の小さな歯はあれど、獲物を狩るような牙は当然無い。
角で払うことも出来なければ突進を打ちかます身体も持たず、五感こそ優れてはいても結局は逃げの一手を見つける為なのだ。
小さな身体、俊敏な逃げ足、それを補う感覚器官こそが彼等の持ち味ではあるのだが・・・これは小動物に限った話。
「そっちはどうなっている!!?」
「ぞ、存命!九!!半数以上やられた!!」
「固まって迎え撃て!!散るとやられるぞ!!」
「こんな森でどうやって!?あの化け物がどこから来るか・・・!?」
兎のように逃げ足の素早い存在が、必殺の一撃を絶え間なくぶっ放してきたとしたら。
地を蹴り、木を蹴り、石を蹴る。
猿ほどの体躯をした存在が動いたと思えば加速も無しに縦横無尽で駆けて跳ねては飛び回る。
キィンッ
鋼同士がぶつかり合うような音が聞こえ帝国兵士達へと戦慄が走る。
数は2つ。
「ぐぁっ!??」
「剣が!?」
1人は兜ごと頭を抑え付けられたかのように腰を曲げて膝を着き、1人は手に持つ武器を落とされた。
何処から、何が、何を投げたか。
宙に浮くの弾かれた剣に・・・
ボウッ!!
気を取られていると横で倒れた仲間がやられる。
「・・・っあ!?な!!」
鋼の鎧も剣もそうだ。
たかが石ころ2つで弾き飛ばされるだなんて鈍どころの騒ぎじゃない。
石が飛んできたのは草陰の中からで、気づいた時には横にいる。
「タッチなんだ」
「く、くそぉおお!!!」
反則過ぎる、なんだこいつは?
半ば狂乱に陥りながら目の前の幼い化け物に空手となった腕で掴みかかるが、
ボウッ!!
帝国兵士の伸ばした腕に幼い手が触れてきた瞬間、闇の爆発が起きる。
「こっちから音がしたぞ!!」
倒れる鎧と静かな爆音の元へと他の帝国兵士が近寄った。
姿が見えればこっちのものだと考えて。
「そうなのか」
「・・・へぁ!?」
ボウッ!!
間抜けな声と共にまた1人。
姿が見えても追えるかどうかは別の話なのだと考えて間もなくして地へと崩れた。
聞こえて駆けつけ倒されて、聞こえて駆けつけまた倒される。
あれやこれやとやられる内にある者が叫び出した。
「周囲の草を切り払え!!視界を広げろ!!これ以上の被害を抑えろ!!」
「「「了解!!」」」
子供の一つ覚えのように単調過ぎる戦法があまりに凶悪、あまりに強力。
重い鎧が枷となり、視界の狭い兜が忌まわしい。
であれば、外せばよいのではなかろうか
兜のベルトに手を掛ける帝国兵士達が出てきていた。
「外すなっ!!!」
曹長の一喝で手を留める者もいるが、そうでない者に不幸が起きる。
剥き出しの頭に目掛けて矢が突き刺さり、貫いた先から血を噴き出して地に倒れたのだ。
「「「ぅおおおおおお!!!」」」
交戦している最中に防具を外し出す、愚か者の末路など油断をしなければ起こりえない。
青い装飾を施された鈍い鉄の輝きを放つ鎧を身につけた王国兵士達に矢を放たれ、白兵戦に持ち込まれてしまったのだ。
「武器を持て!!」
「王国の残党が・・・!!」
壊滅寸前にまで追い込まれ、散り散りとなった王国兵士達にも僅かな戦意。
幼い化け物による急襲によって一気に陣形を崩された状況下に起きる王国兵士達による強襲。
「くそっ!!あの化け物がいなけりゃ・・・!!」
数で押せるはずの相手がたった1人の存在によって利を生かせずに崩される。
数の多い帝国兵士に隠れる場所が無い上に、数の減った王国兵士の発見に手間取る始末。
行軍がままならないまま立ち往生を強いられていく。
だが・・・何も被害は片寄っているわけでもない。
キィンッ とまた、音が鳴る。
「隙あらっ!??」
「な、何!?」
帝国兵士が盾で凌ぎきれず、生まれた隙に突き出された王国兵士の剣軸が大きく弾かれる。
「うぉああ!?」
「な、何あ!!?」
かと思えば、帝国兵士が読みを誤り槍を空振り、空いた脇目掛けてかました王国兵士の横切りが地面目掛けてすっ飛んだ。
狙うにしても異様に正確、外すにしたってこれはない。
王国兵士の邪魔をしだすのが解らない。
「おい!?奴は味方か!??」「一体!?」「今の音!??」「こ、こっちは味方だぞ!!?」「どうなってる!!」「お、俺を狙ってる!!」
敵と味方の誰が言おうとお構いなしだ。
水と油を混ぜた後に劇物でも混入したかのような状況に王国兵士達は混乱から武器を振るう事をやめてしまう。
その劇物があっちこっちに飛び跳ねるから物騒なわけだが。
「タッチなんだ」
ボウッ!!
眼前に敵が迫るというのに、視線の下を行く敵にどう立ち向かえばよいのやら。
闇の爆発によって槍を突き出そうとした帝国兵士が倒される。
邪魔な鼠を追っ払おうと抵抗する帝国軍の足下を縫うようにすり抜ける。
「もらっ!!?」
「ダメである」
ボウッ!!
今度は剣を突き出し始めていた王国兵士が闇の爆発に抗えず転ぶように崩れ落ちた。
「奴はなんだ!?貴様ら王国の者じゃないのか!!!」
「お、俺は関係無い!!お前達が何かしたんだろ!!」
鳴る爆発は凶報か。
弾ける音は福音か。
「を、ををおをことぬし様!!おやめを!!!」
「じゃまなんだ」
「ぅぁあぁ!!??」
黒髪の少女、をことぬしの一騎掛けは留まらない。
王国兵士は逃げ惑い、帝国兵士は倒れていった。
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「きゅうけいなんだ」
ぬしちゃんは白いカバンの中から刺繍の入った風呂敷を取り出しては木の根元敷き始める。
「にゃんにゃんなんだ」
表と裏と決まりはないが猫の刺繍を可愛いからと表にしては尻に敷いては地に降ろしたカバンから水筒を取り出した。
ぬるいが喉を潤すには充分。
帽子を外してみれば一気に冷ややかな風が髪の隙間を通り抜けるように頭を撫でていく。
雑に帽子を地に叩きつけ、木の葉や埃を払ってみたが洗濯をしてもらわないと汚れを落とすのは難しそうだ。
「なくなっちゃったんだ」
白いカバンに溜め込んでいたお手製手裏剣は既に無い。
帝国兵士が多すぎたのだ。
ついでで王国兵士も。
代わりに道中で拾った石を詰め込んではみたが、紙より重いしカバンの中身は土やら抜けた雑草で酷い有様だ。
「おじさんにおこられるのか」
石を投げては拾っての繰り返し。
手が傷つかないわけがない。
砂利や土、細くて薄い爪の隙間まで汚れてしまい、手の甲は鞄に入れた時に擦れた痕や痣が付いていたのを見て、ぬしちゃんは変わらぬ表情のまま呟いた。
最初は落ちた紙手裏剣を使ってみたが、崩れた形や汚れで上手く投げられずに使い物にならなくなるのだ。
「コタコタ」
残してあったお菓子の存在を思い出す。
今や白いカバンの中身は石の巣窟、包んでいた袋は布製で丈夫でない。
潰れてないだろうか?
その思いで手を伸ばしたところで、白いカバンが・・・吹き飛ばされた。
「そこを動くな」
「はぼ」
親しみを感じさせない低い男の声が聞こえてくるが、ぬしちゃんは急いでカバンの元まで向かって持ち上げる。
カバンが矢に射抜かれたのだ。
ハンドルの付け根が千切れて中身の石がごろごろと零れ落ちていき、コタコタを入れていた布袋も混ざって落ちてくる。
ひしゃげて平たくなった布袋の中身は・・・見るまでもなく無事ではないかもしれない。
「子供!!次はない、こちらを向け」
コタコタがやばい事を確認が取れたぬしちゃんが向き直せば、そこには帝国兵士の一団。
それも両手足で数えられる数ではなく、奥の木陰に潜む影も数多い。
ぬしちゃんからは丸見えではあるが。
一団の先頭に立つ他の兵士よりも模様の違う鎧を身につけた男が両刃の長剣を向けては語りかけてくるのだ。
「倒れている者の中で両軍共に外傷も無いまま気を失っている者が数多くいた。それは貴様の仕業に違いないか」
「しわざ」
「・・・貴様がやったのか、そう聞いている」
「うん、がんばった」
長剣構えた帝国兵士が沈黙の後、片手へと持ち替えては上へと掲げる。
「戦荒らしと相違無し。貴様を脅威と判断して二千の兵が訪れる。よくも進行を妨げてくれたな・・・遊びは終わりだ」
掲げた長剣が指揮となり・・・黒髪の少女を目掛けて大量の矢が放たれた。
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