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異世界転生 ツイン園児ぇる  作者: をぬし
第五章 童乱 幼子の結んだ縁
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78話 寸分の争い

優れてようと 丈夫であろうと

横から押してしまえば脆いものだ


側面が駄目なら背後から

背後が駄目なら上から 下から


だが 勘違いをしないでほしい


これは不意を突いた戦法なだけで 弱者の戦い方ではない


上位者が扱うからこそ 必殺の一撃となるのだから



 風が吹いては枝がゆらゆら、葉っぱががさがさ。


 まんまる、かくかく、キノコがぽんぽん生えている。


 お空は元気に茂みにひそひそかくれんぼ。



 森のお散歩はとっても楽しい。



 そういえば、今日の朝ごはんはなんだろか。


 もうお日様は上へ上へと昇ってしまい、お昼となった。


 帰ったら朝とお昼、2つのご飯をお腹いっぱい食べれるのかな。



 やっぱりコタコタを食べちゃおう。2つめ。

 うん、美味しい。



 どーん。どかーん。


 遠くで音が鳴るとトリさんリスさんが逃げていく。


 追いかけて遊ぼうかな。



 やっぱりやめた。



 咲ちゃんをお助けしなきゃ。


 守るんだ。



 キンキン硬い音がする。


 騒いでいるけど、これが咲ちゃんの言ってたお祭りなのか。


 行ってみよう。



「ぐぁっっぐ!??ごは・・・ぁ・・・」



 白い兵隊、黒い兵隊。

 白い方はおねんねなのか。



 お怪我してる。お腹に穴が空いて、痛そう。


 

 長いぼっこがこっちを向いた。



「待て!武器を抑えろ!子供が紛れている!!」

「罠か!?・・・違うか?」



 長いぼっこが上を向いた。忙しそう。



「逃げ遅れたのか?近隣に村は無いはずだが」

「仮拠点にもそれらしい報告は飛んでいないが・・・難民か?」



 黒い兵隊。


 帝国の人達。



「おい、子供。ここは戦場だ。今すぐこの場を離れろ」



 帝国は悪い人と教えてくれた。

 咲ちゃんをいじめる悪い人。




「聞こえなかったのか?邪魔だ!とっとと失せろ!」



 だから・・・



「やっほーなんだ」




 ()()()()()()()って、言っていた。





ーーーーーーーーーーーー







 ボウッ!!



 黒髪の少女に近づいた帝国兵士の鎧の隙間からドス黒い紫煙が吹き出て地に崩れる。



「な!?敵襲ぅ!!遠隔魔法の恐れあり!!」

「残党がいたか!武器を構えろ!!」



 仲間の1人が倒れたことで、草むらから次から次へと帝国兵士が集まり周辺を探り出す。



「貴様ら王国に勝ち目はない!!諦めろ!!」



 当然呼ばれて出てくる馬鹿はいないが、重要だ。


 帝国兵士の1人が声で牽制しながらも倒れた兵士の元へと武器を構えたままに近寄っていく。



 仰向けに倒れてはいるのだが、燃え上がるような音がしたにも関わらず鎧に傷が1つも無い。


「生きている・・・?」


 鎧越しに仰向けのまま胸が上下にゆっくりと動く様を見てて生存を確認。



「タッチなんだ」

「は?」



 2度目の闇の爆発が起きる。


 首元や兜の切れ込みから紫煙が噴き出し、倒れていた帝国兵士と重なるように崩れ落ち・・・異様な現象に気がついた。



「ち、違う、こいつだ!?こいつがやった!!!」



 黒髪の少女が鎧へと触れた途端に、闇の爆発が起きた事に。



 遠方からの攻撃と勘違いしたのも無理がない。

 鎧の影に隠れてしまって見えなかったのだから。



「貴様は何者だ!!王国の者で違いないな!?」



 帝国兵士の誰もが鋼の武器を黒髪の少女に向けて距離を取る。



「をことぬしは をことぬしなんだ」

「名など聞いていない!!王国の者かと聞いている!!」

「そうなのか」

「恍けるな!今の力はなんだ?答えよ!!」

「おねんねなんだ」

「っ・・・!!」



 よく見れば・・・見なくとも少女どころか、幼児にしか満たない風貌。


 黄色い帽子がやたらと目立ち、野外で食事(キャンプ)と言わんばかりの桃色の上に柄の付いたスカートは逆立ちしても兵士とは思えない。


 いつ矢が飛ぶかも恐れる中で、大きめの白い鞄以外に武装の一つもしていない。



 容姿相応の見てくれは戦場において裸同然、自殺行為もいいとこだ。



 そんな一見 無防備な子供を相手に鋼の鎧で身を包んだ大の男が数人係で刃を突き付けることのなんと情け無く滑稽な姿か。



「っ!・・・捕縛する!!抵抗するなよ?」



 帝国兵士は6人。内2人が倒れた。



 木々に挟まれ視界悪い中彼等は散開して取り囲もうと行動に移し出す。



 兵士の1人が瞬きをし見開いた瞬間・・・黒髪の少女が線となって、消えた。



「どこにっ!?」


 消えたわけじゃない。


「奥だ!!奥に向かった!!」


 仲間の兵士が見逃さなかった。

 だが見つからない。


「違う!?草木に紛れている!!」


 草木の揺れる音がするが、帝国兵士の者達の音に紛れてわからない。

 

 その内の1人が口を開いた。



「わるいひと」

「どこっ・・・!??」



 どこに、と口にしようとした帝国兵士が幼い声と鎧越しで背中を押される感触に生涯初の怖気を覚えた。



 ボウッ!!



 振り向く間もなく3度目の闇の爆発でまた帝国兵士が意識を失い草の茂みを巻き込んでは伸し掛かる。



「このガキ!!」



 黒髪の少女の斜め後方に位置していた帝国兵士の槍を突いて突進する。


 仲間をやられた仇返しとばかりに容赦のない突きには慈悲はない。

 狙いは腹、小さな体に当たれば致命傷だ。



「っ・・・!!?」



 だが、勢い付けて槍を突き出したのは失敗だった。


 (まと)とは本来避ける物であり、気を付けるべきは避け方だ。



 倒れた帝国兵士を()()()にして飛び越すとは。

 


 カツンと硬い物、仲間の鎧にぶつかる感触にその帝国兵士兜の裏は冷や汗に包まれる。


 体躯が()()()()()


 狙いを外して危うく倒れた仲間に突き立てる寸前だった。


 

「背が低い!!対人(ひと)と思うな!!」



 黒髪の少女の飛び越えた先に待ち構えていた帝国兵士の槍による横薙ぎが振るわれる。


 邪魔な草木の少ない位置からの一撃。

 狙いは剥き出しの足、当たれば最後だ。



 キィンッ



 爆発とは違う奇妙な音が辺りに響く。



「なぁっ・・・!??」



 岩や金属だとか、そんな(やわ)な物じゃない。


 足払いを放った槍は、少女の投げた物体に児戯のように弾かれ態勢を崩される。



 警戒に警戒を重ねて(なお) 侮っていた。



 驚愕すべきは自身の槍を弾き飛ばしたのが薄っぺらな紙細工だった事だけでなく、左腕を胸の内から横開きに高速で投げるその練度(れんど)


 時永(ときなが)為果(しおお)せた技術の塊は一桁ではあり得ないのだ。



 走馬灯が走る中、相対していたその男は悟りに至る。



 目の前の存在は、()()()()()()



 打ち上げられた身体を強引に引き戻し、帝国兵士はどうにか態勢を戻したが眼前に姿はない。



「おねんねなんだ」



 頭部を守るはずの視界の狭い兜を身につけていた事に、兵士は胸の内で悔いては呪う。



「っぁ・・・!!??」



 真下。槍の柄の内側。背が低いのだと言っていたのは誰か。


 眼前に・・・いるわけがない。



 ボウッ!!



 少女の触れたであろう己の足が失う錯覚に芯の底から震わされ・・・恐怖と闇が帝国兵士を(むしば)み、倒れた。



「なぁ、なんなんだよぉ・・・こいつは!??」



 少女の接近を知らせようと顎は開けど声は出ず、間に合わない。



「をことぬしなんだ」

「っ・・・!?」



 化け物だと目の前の少女が自己紹介してくれればまだ冷静でいられただろうか。


 こいつと聞いて、悠長に名前を告げる歪みもしない表情は人間味があまりに薄くて気味が悪い。



「お前は伝令を!!どうにか・・・抑えこむ!!」

「了解っ!!」



 もう1人の仲間が黒髪の少女の前へと躍り出ては盾となる。


 瞬きするたび倒すような相手に捕縛など彼らの思考にはすでにない。



 倒れた仲間も、する気がなかったのかもしれない。



「こんな話、聞いてないぞっ・・・!!」



 逃げた帝国兵士の胸の内は湿った籠手の裏側が物語る。



 ボウッ!!



 背後で聞こえた爆発音が聞こえ、喉が詰まる感触に襲われる。


 茂みに触れ、落ち葉を踏む小さな足音が尋常じゃない速度で少女が近づいてくると認識するたび、息が乱れて荒げる。



 鋼の鎧が邪魔で邪魔で仕方がない。



「みっけなんだ」

「ぅあぁぁあっ!??」



 聞こえた声から逃れようと驚くあまり、帝国兵士は道を誤り木へと利き腕をぶつけ、踏み外しては仰向けに転げてしまう。


 急ぎ上体を起こせば、黒髪の少女は槍の間合いに入っており・・・手を伸ばそうとして絶望した。



 命綱()が衝突した木の向こう側に落ちているのを見て、木に衝突した拍子に落とした間抜けにようやく気づいたのだ。



「ちち近寄るな!!」

「ていこくのひと、わるいひと」

「ひぃぁ・・・!!」



 黒髪の少女が持つ白き物体。



 鋼の槍を児戯のように弾くそれに、僅かな自尊心をも切り裂かれた。



 逃げ場を奪われ、武器を失い、仲間も倒れた。



「こ、降参!!降参だ!!やめて、やめてくれっ・・・!!ごめんなさいっ・・・!!」



 孤独となったと知った途端、帝国兵士の頭には命乞いしか思いつかなかった。



 目尻に浮かんだ涙に汗が混じって目に染みるが、閉じた時が恐ろしくて意地でも開く。


 鋼の鎧と武器に守られた自身の内側が、ここまで貧相だったのかと。


 尻もちをついたままに牙の抜けた帝国兵士は思いつく限りに惨めな己を(さら)け出す。




「そうなのか」




 てくてくと幼い歩幅で迫っていた黒髪の少女の動きが止まった。


 張り付いたかのような無表情で何を理解したか。



「はっはぁ、はぁ・・・な、なに、ぃ!?」



 緊張で震えた舌をどうにか回して帝国兵士は聞き出そうとした途端、黒髪の少女の短い左腕が持ち上がり息が引っ込んだ。



「ばいばいなんだ」



 手を2、3度振っては黒髪の少女は歩き出し、小さな身体が茂みに隠れて見えなくなった頃、帝国兵士が恐る恐る身体を起こす。



「ばいばい・・・?どういう、意味だ・・・?助かったのか・・・?」



 意味不明な言葉に理解が及ばないが、とにかく自分は助かった。



 だが・・・少女の向かった方角を思い出し、帝国兵士は焦りだす。



「ほ、報告をして、いや・・・しなければ・・・!!」



 報告すべきは情報を持ち帰ろうと離れた王国兵士の阻止。


 正体不明の脅威(黒髪の少女)の存在。



 黒髪の少女よりも先に辿りつかねば・・・帝国の勝利が揺らぐのだ。

読んでくれてありがとうございます


ツイッターでもよろしくお願いします

@vWHC15PjmQLD8Xs

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