62話 熾烈
パズルとはありあらゆる型 厚さ 形を合わせて楽しむものである
難解なほどピースが全て収まった時の快感は嬉しい物があるが
解けないまま終わることもあるのだろう
だが そもそもパズルとは合わさる様に作られているものであり
ちゃんと合わさるようになっているものだ
人の心とはパズルの枠であり 経験した行いがピースとなる
何度も形は崩れて歪むパズルなど 誰が好んで遊ぶだろうか
燃えるような赤い夕空が沈み始め、暗闇が焼けるような淡い夜空へと塗り替わっていく。
城内で装備の確認を終えた剣士、弓使い、風使いと同伴していた聖女の4人は並んで市民街へと向かって歩いていた。
市民街に近づくにつれて家路を歩く者や旅の者の姿がちらほらと見えてくる。戦争がどうのと騒ぎ、商品の値上がりに嘆き、そんなことを知ったこっちゃないと危機感の無い者達で溢れていた。
周りが忙しなく動いている中、4人に会話が無い。
剣士は頭を両手で組み悩んだ表情のまま上の空。
風使いは両手に杖を両手で持ち、顔を隠すように横目で顔色を窺っている。
目線は斜め下を向いて凛とした美しい顔を切なげに晒して歩く姿は聖女と言うには儚げだ。
ただ一人、普段と変わらない弓使いは元より自ら話題を広げるような男ではない。
「あー、んで。先生さんは元気でたのか?」
先生さん、と粗暴な物言いの目立つ剣士からの聴き慣れない呼ばれ方に気になるが、自身へと向けられたものだと気づいた聖女はそれに笑顔を作って答えた。
「私は・・・はい。大丈夫ですよ」
「その下手くそな笑顔でか?」
「え?」
赤と黄が歩いていた足を止め互いに目を合わせた。1人は驚いて、1人話があるからだ。
歩みを止めた2人が気になり青と緑も2人へと振り替える。
「そうは見えねぇって言ってんだよ」
「・・・すみません」
「サキとぬしのことを城の連中が勝手してるのは癪だけどよ、結構本気クサいぜ?」
「2人で城内で保護される事は・・・私も良かったと思っています。王の好意で手助け頂いている事も」
笑顔を作らず、心根で話すような真摯で清廉な声だ。
嘘では無いだろう。
「つーことは・・・先生さん、あんた俺らが羨ましいのか?」
「・・・え?」
真向から叩き斬る剣の太刀筋のように率直であり単純な言葉。
何より、鼻に付く挑発的な発言に風使いと弓使いが呆気にとられる。
「俺らがあの金ぴかの椅子のある部屋でお前だけ浮かない顔してたろ?風っ子が元気ねぇつってたしな」
「ちょっと!?その言い方・・・!?」
本当に口が悪いのがこの男の欠点だ。確かにあの鎧は魅力的であり、今後の日本捜索で遠路を渡ることになれば大きな助けにはなるが、これはない。
調子づいた馬鹿な男が自慢気に女に話す、という現場に見えた2人は小さな異変に気付く。
いつもであれば叱咤の言葉が飛びかねない暴言に・・・彼女は驚いたように目を見開いたまま反論をしないのだ。
「せ、先生?」
「私は・・・」
「図星かい」
自身のツンツンとした茶髪をボサボサと左手で掻き上げながら剣士は仕方なさそうに眉をひそめながら、続けて話そうと口を開く。
「まあ、つってもそりゃ」
「いい加減にしてよ!!」
突然、深緑色の短い髪を乱して剣士の真ん前へと詰め寄りだす。
「あ?風っ子、お前が知りてえって言ってたから確かめたんだろが」
「言い方が気に食わないってことよ!前々から気になってたけどもう頭きた!!」
「は?意味わかんねぇ?なんの問題あんのかって」
「羨ましー!とか良いもんもらって調子こいてんじゃないの?この脳筋!!」
剣士の額がヒクついた。頼んでおいてこの態度で返してくる女に腹を立てたと同時に・・・納得もしたからだ。
「ふぅーーーー・・・」
剣士は深く、深く息を吐く。
中身が空っぽだろうと言い訳で返すようないつもと違う、違和感
「隠し事してたお前に言われる筋合いねぇよ」
「あ、あれは、その・・・!」
「あーどうせ頭が頼りねーからだろ?子供連れて危険地帯連れてく男だもんなぁ」
「違う!そうじゃなくて!」
いつもの彼の温厚な怒り方とは違うことに弓使いは気付き、口論を止めようと動くが・・・遅かった。
「俺・・・仲間を信用してねぇお前から!話なんざ聞きたかねぇよっ!!」
「ぇ・・・」
剣士の心からの怒声に辺りに静けさに包まれる。
ヘーゼル色の瞳から零れる涙が幼さの残る風使いの頬の伝って流れた。溢れて溢れて、止めようが無いくらいに。
彼女の涙を見て動揺を隠すためか、剣士は目を反らしてしまう。
「ぅぁあああああっ・・・!!!!」
「お、おい!?」
それが誤った行いだと剣士が気づいた時には風使いが泣き叫びながら走り去ってしまっていた。
傍から見れば恋人同士の喧嘩別れのような有様で周囲の人だかりでは幼さの残る顔立ちの女性と人相の悪い男の話題で溢れてしまっている。
剣士の紅い鉄の胴が押されてしまう程の弓使いの手の甲で強く叩かれ、叱咤される。
「何してる・・・早く追いかけろ!!」
「な、なんで俺が!あいつが泣いたからって」
「隠し事がなんだ?それくらい目を瞑れんのか!?お前は変な頭は回るくせに人の関心は薄っぺらだな!!」
「は!?お前に言われたかねぇ!それがなんだっつんだよ!?」
冷静さ。整った顔立ち。そんなものをかなぐり捨てた弓使いの形相が怒りへと歪む。
剣士のような燃え滾る熱さではない。極限まで凍えた刺すような熱さが弓使いの眼光に秘められている。
「さっき言ったな?頼りない奴だと!俺が来る前からそんな馬鹿に3年ついてく女がいるか!?あの娘にはお前しかいないからだろ!?」
「お、お前、それ!?」
「過去に何かあるはずだと どうしてお前が気づいてやれない!?隠し通すつもりだったらあんな似つかわん凶器を頼むわけがないだろう!!」
・・・本当に馬鹿だ。
「クソッたれっ!!」
鞭の撃たれた馬のように剣士は走りだす。子供っぽい反抗心から生まれた残酷な言葉に罪悪感を覚えながら。
道歩く人達を避けてはどけては押し退けて風使いを追いかけて行った。
弓使いは走って立ち去る2人を見届け、黙ったまま立ち尽くしている1人の女性へと身体を向け、肩へと手を掛ける。
「・・・訳が聞きたい。教会でいいか?」
あれだけ騒いでいたというのに放心したようにまともに身動きしない彼女の様子は明らかにおかしい。
「・・・気を使わせて、すみません・・・」
日の目はすっかりと消え失せ、暗闇となった街道に魔法石の街灯が光出す。
凛とした美しい顔に光は無い。
ただ・・・消え失せるような影が差しているだけだ。
------------
「サキ様。サキ様?」
暖かくふわふわな感触の上で横たわる中、自身の名を呼ぶ声が聞こえてくる。
「サキ様。お食事のご用意ができましたよ」
「・・・ふぇ」
咲ちゃんは目を覚ますと、そこは布団の上だ。窓の外はすっかりと暗くなっており、ぬしちゃんに釣られて眠ってしまっていたようだ。
声をかけて来たのはいつもついて来てくれる使用人の1人でよく遊んでくれるメイドさんであった。いつもより早すぎる睡眠で時が過ぎ、お夜食の時間になってしまったようだ。
しかし、起きた拍子に細い両腕で布団の上まさぐっては見るが、布団以外の手触りを感じずぬしちゃんがいないことに気付いた。
「ぬしちゃんは?」
「ぬし様は今お手洗いに」
「ぬしちゃん!」
「サキ様?」
ぬしちゃんがいないことで慌てだした咲ちゃんは少し驚いた様子の使用人を置いて、急いで廊下へと向かってベッドから飛び起き、走り出した。
ドアノブへと手を掛け廊下へと出た瞬間。
「わ!?」
「はぼ」
ぷにっとしたほっぺと、ぷよっとお腹に衝突してしまい咲ちゃんはお尻からすっころんでしまった。
「咲ちゃんなんだ」
「ぬ、ぬしちゃん!」
ぶつかった勢いで尻もちをついているのはぬしちゃんであり、慌てて走ろうとした拍子にぶつかってしまったようで部屋から使用人、廊下から衛兵や使用人が転んだ2人に急いで駆けつけてくる。
「大丈夫ですか!?お怪我はないですか?」
「えと、だいじょうぶ!」
「おしりでちゃくちなんだ」
「今身体を起こしますね」
使用人達で転んでしまった2人の子供の背中とふとももを支えて起き上る手助けをして起き上らせ、咲ちゃんはそのまま ぬしちゃんの手を取って話し出す。
「ぬしちゃん!咲をおいていっちゃだめ!」
「そうなのか」
「うん!ぬしちゃんは咲といっしょにいるの!」
「おトイレもなのか」
「そうだよ!咲がねてたらおこしてもいいの!」
「いっしょなんだ」
「ずっといっしょ!」
安心からかニコニコと笑顔になっていき咲ちゃんはご機嫌そうだが、ぬしちゃんはいつもと変わらないぷにぷにの鉄仮面のままだ。
それが平常時なのだから仕方ない。
ぬしちゃんはつないだ手を眺め黙ったまま眺めており、何かがついているのかと気になって咲ちゃんも見てみるが、一見何もついていない。
だが、右の手の平にぬるっとした感触を感じた事で視線の意味を知る。
「ぬしちゃんどうしたの?」
そして・・・親友の口から放たれた言葉に咲ちゃんは耳を疑った。
「おててあらうの、わすれてたんだ」
「・・・え」
「うんちついちゃったんだ」
「ぇえぇ!???」
ぬるりとしたての感触の正体。
残酷な真実を告げられ、咲ちゃんは髪が逆立ちそうなほどに大慌てになり手を振りほどこうとするが、異様なほどに力強い親友は手を離してくれない。
「わーー!!わーあぁあ!?はなしてぇ!!」
「ずっといっしょである」
「うわぁぁん!!たすけてぇええ!!」
「い、今すぐお手拭きを!」
「は、はい!!」
余計な事だけ、ほんっとうに余計な事だけを地に埋まった大木に鉄の杭を打ち込み大岩で叩きつけ封印するような歪んだ解釈をする大阿呆に四苦八苦となりながら廊下は無駄に賑やかになっていくのであった。
「ぬしちゃんのばかばか!」
「ごめんなんだ」
「おててはしっかりあらわないといけないの!」
「がんばった」
「もーーーう!」
お手拭きだけでは互いの手に塗れた汚れが落ちた気にならず、結局一緒に洗い場に行って念入りに洗う事となり、今は使用人たちと共に食卓の間へと辿り着いていた。
両腕をぶんぶんと振り回しぶーたれながら親友を睨むが迫力の欠片も無い。
どう怒り顔で表現したとしても かわいい と付いてしまい肝心の相手は口では謝っているが張り付いたように微動だにしない表情のままであり使用人達は扱いに困っていた。
「サキ様、ぬし様。どうぞお入りください」
「ありがとう!」
「らくちんなんだ」
使用人の1人が扉を開き、咲ちゃんとぬしちゃんを室内へと案内され、そのまま席へと誘導される。
お城でぬしちゃんと一緒になってからメイドのお姉さんや兵士達に囲まれて2人並んでご飯を食べるのが日常となり始めていた。
ここ最近は忙しいらしく王様や他の偉い人達と顔を合わせる事も少ないため幅の広い机の上がなんとも物寂しい有様となっている。
「おはなとかおいたらきれいなのにね」
「お花でしょうか?」
「うん!つくえのまんなかにおいたり、うえからぶらさげたりするの!」
「上からですか?」
髪を束ねた使用人が咲ちゃんの椅子を引き、座った咲ちゃんの指の先をなぞる様に眺めてみれば、机はともかく上からぶら下げるのは発想に無く頷きながら話を聞いている。
「つくりもののおはなをさかさまにして、なかからあかりがでるの!」
「サキ様の国にはそんな豪華な物があるのですね」
「うん!たべものをたべるおみせで、どこのつくえにもあるの!」
咲ちゃんが話しているのはガラスで作られた花の形をした電球のことではあるが、彼女は見た事がないらしくアンティークを想像上で膨らませて羨望の眼差しを子供達へと向けだした。
「ぬし様もそのお店、でしょうか?ご一緒してたのですね」
「ううん。ぬしちゃんとはいったことないの」
「そうなのですか?姉妹のように見えたのですが」
「おはななのか」
「おはな!」
「お花ですね!」
むしろ貴族達のような人たちがいないのが幸いか、食事が来るまでの間メイドのお姉さんが進んで話を聞いてくれるので暇を持て余す事は無い。いつの間にか咲ちゃん達の座る椅子の間に屈んでは役職を気にせず楽し気に会話に混ざっている。
親友を追って王様の部屋へと向かっていた夜、ブリキのおじさんがバッタバッタと大きな盾1つで悪い人を弾き飛ばす前にぬしちゃんに助けてもらってからは今のように親切に2人に接してくれるのだ。
髪は茶髪、瞳は茶色で顔にはそばかすがついている。人込みに紛れたら探すのは困難なほど地味な顔立ちではあるが打ち解けてきてから見せてくれる明るい表情は幼い咲ちゃんから見てもとても好印象だ。
「ニホンの話のようですね。私も気になるところです」
食卓の間の扉が再度開かれ、彼女達の談笑に割って入るように入ってくる男の姿。
白と青を基調とした服を着ている巻きひげが特徴的な男・・・知将と呼ばれる男だ。
読んでくれてありがとうございます
ツイッターでもよろしくお願いします
@vWHC15PjmQLD8Xs





