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異世界転生 ツイン園児ぇる  作者: をぬし
第四章 心支度 哀戦慄
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61話 信頼 そして 会議

繋がることは悪い事では無い


仮に相手が腐っていたとしても

何を得るにしても経験として培うことができるからだ


当然目線を変えれば自身もその対象となりえるが

己が腐っているかどうかは 周囲の者にしかわからない


 今日もまた夜が来る。

 最近のお城はワタワタとしていて豪華な服を着ているおじさん達も鎧を着た人たちも忙しそうだ。



 帝国という国からの宣戦布告、というのが理由だ。


 意味が解らずに先生に聞いてみると、あと少しで戦争が起きてしまうらしい。



 怖い・・・。ぬしちゃんがいなかったらお布団からでないでずっとビクビクしていることしかできなかっただろう。


「ぬしちゃん・・・」


 これからご飯になるはずだけれど、ぬしちゃんは一足先におねんねモードだ。



 食いしん坊でお寝坊さん、何が起きても被り物のように表情が変わらない。

 ぼーっとして頼りなく見えるけれど、危ない時は必ず助けてくれるヒーローだ。この間は王様も助けてくれてどんな兵隊さんよりもとっても凄いのだ。



 だけど・・・助けた数だけ、怪我もたくさんしている。自分だったらずっと泣く事しか、泣く事すらもできないかもしれない大怪我。


 遺跡の、怖い蛇と戦って、身体がつぶれていたのを見た時は、それだけで気を失いそうになってしまったほどだ。耐えられるわけがない。


 それでも、大丈夫、って言ってくれた言葉が頭を離れない。そんなわけ、あるはずないのに。



 夜。ぬしちゃんが王様を助けてくれた、あの夜。


 ぬしちゃんだけでなく、王様も、兵士の人も怪我をしていて・・・中には腕が離れている人もいて、見ているだけで痛くなってしまって逃げたくなったが、できなかった。


 大人だって、絶対に痛いに決まっているから、それを知っているから、それが()()だから。


 魔法の力で怪我を治した時、兵士さんたちは泣きながらありがとう、とお礼を言ってきたのだ。大人でも、痛くて痛くて、辛いはず。



 戦争は・・・そんな人がたくさん出てしまうのは、自分にだってわかっている。だから、お城の人は急いで準備をしていることも。


 皆、怪我をしたくないから。


 死にたくないから、死んでほしくないから。



 だから・・・だからこそ・・・。



「咲たち、おうちに・・・かえれるのかな?」



 誰にだって帰る家があるはずで、家族がいるかもしれない。大好きな人が待っているかもしれない。



 王国の人も同じなら、帝国の人だって、帰る家があるはずなのだ。


 どうして・・・お互い負いたくない怪我をするようなことをするのだろう。



 喧嘩をしている友達がいて、振った拳が相手に当たると、ごめんと謝るところを見たことがある。



 謝る優しさがあるのなら、初めから殴らなければいいのに・・・どうしてだろう?なんでだろう?



 ぬしちゃんの手を繋いだまま、咲ちゃんは自然と瞼が閉じて夢の中へと旅立っていくのであった。





------------





 部屋の真上から下を見たとしたら見事な輪っかが見えていることだろう。間近で見れば切れ目は見えるが、長く繋がった木製の机である事がわかる。


 ここは会議を行う場、議会の間と呼ばれている部屋であり、知将、豪商、そして王の姿もここにあった。


 椅子に座り机へと議論を申し立てる王国の有力者、権力者の担う重鎮達の姿は今はない。


 扉の外では闘将が待機しており、無断で中に入ることのできる不届き者は存在しないだろう。



「帝国との戦は、避けられぬか」

「被害のでた小競り合いが3度。王城内への襲撃。その直後に布告・・・無理でしょう」

「余とて、命を間近で狙われた。和解に持ち込むつもりはない」


 王の左隣りに返答をした知将、王の豪商は右隣りへと座っている。


「して・・・余を狙った者共から何かを聞きだせたのか」

「申し訳が無い、王よ。拷問にかけてはおるのですが、情報をまだ聞き出せてない様子でしたぞ」


 深々と謝罪をしながら話す豪商の話を聞き、冷淡な表情のままに納得をしたような口ぶりで王は話す。


「ふん、戦までの時間稼ぎか。いい度胸をしている」

「腹の内に巣くう虫ですな。噛みつくだけの技量を持つのが厄介ですな」


 顎に手を当てて考え込む豪商の瞳にはギラギラと憎い者を思う目つきであり、太陽が裸踊りをしているような笑い声の主とは到底思えない顔だ。


「豪商よ物資と兵力、近隣の状況はどうなっておる」

「近隣の村々には呼びかけをしており避難の御触れを出しておりますぞ。物資は兵力分の装備の配給は終えて2日あれば十分間に合いますな」

「その調子で進めてくれ」

「この豪商にお任せあれ!」



 国同士の小競り合いと聞くは安いが・・・最初の一度目、突発的に起きた戦場は目も当てられないような酷い有様だった。最中に巻き込まれた村々の住人たちの被害が大きく強襲されたというのに生き延びた住人達は王国を許さなかったのだ。


 その事実と半端な噂をどこで広まったか、聞きつけた市民街の者達から反感を受けることが度々起きる始末。



 だが、2度、3度と起きた小競り合いはとある男の活躍によって帝国を退け、信用回復に至る今がある。


「知将よ頼めるか?」

「はい。ただいま地図を・・・陣形によって潜伏先を割り当ててみせましょう」


 知将という新しい地位を築いた大きな結果となったこの男の存在だ。



 知将の取り出した地図が机の上に広げられ、王国と帝国を象った駒をを順に並べていく。



 戦争が行われるのは国境の境目を中心にした平野だ。互いに領地を整地した結果となるが、長い絨毯を敷いたかのように幅広大きな道のように開けた平野となってしまっていた


 周囲に建築物の()こそあるが、建造物の無い広く荒れた土地だ。

 だが、この平野の厄介なところはまるで取り囲むように鬱蒼(うっそう)とした森に囲まれており、地図や日の光を頼りに進まねば迷ってしまうほど。


 裏を返せば、森に潜んで隠れて伏兵を潜ませることもでき、正々堂々と平野で戦おうものなら木々の中から挟撃されてしまうのがオチだろう。



「帝国からの文書を読ませていただきましたが大胆にも平野での決着を望んでいるのを見るに、本気でしょう」

「村々からの志願兵からでておりますがな・・・数に含めてもよいものか悩ましいところでしたな」

「ええ。前々回の王国の兵数が3万、前回が5万に対し、帝国は同等の数を用意してますが、奴らの魔術による攻撃と生物兵器は数以上の力を引き出しております」


 国をも悩ませる単語に嫌にはなるが、王と豪商は静かに知将の話へと耳を傾けている。


 王国とは違い、帝国は武よりも魔に長けた者が多いらしく、こちらの兵力差が勝っていようと決定打となりえない兵器を持ちだしてくるのだ。


 王国でも魔法を主にした学校は存在しており、盛んではあるが戦に持ち込み帝国と力比べをしてみると技量から劣ってしまうレベルであった。



「魔術を行う部隊には弓による射撃で封殺、数で押しましょう。問題はベアウルフなどを悪用した生物兵器ですが投石器や戦車部隊による編制で対処しましょう」

「攻城戦ではないのですぞ?効果があるか・・・」


 確かに当てれば凶悪な打撃にはなるが、生物だから生物兵器なのだ。

 獰猛な犬のような頭と熊以上に凶悪な肉体を持つベアウルフ程のモンスターであればそんなもの容易く避けてしまうだろう。


「いえ、放つのは岩では無く、大量の()を包んだ物を投げ込ませます。破けにくいよう丈夫な物などの用意も必要ですね」

「火の海とするつもりか!?」

「ええ・・・残念ながら、王国には対抗できる者も兵器を持ち合わせておりません。放たれる矢の一部に火矢を紛れ込ませるか、火炎の魔法であぶらせましょう」

「ふぅう・・・困ったものですな」


 なんとも原始的な案か。最悪、周囲の森に火が移れば両者ともに地獄を見る事になるが、その非情さが今は必要なのかもしれない。

 これには王も豪商も下手に口を挟まずに知将の戦案は続く。


「では、敵の潜みそうな伏兵についてですが、勝手ながら情報の入手に成功しました」

「それは真か・・・!?」

「なんと!」


 知将の言葉に2人は驚いてこそはいるが、身を乗り出しそうな王の姿には待ってました、と言いたげなほどに嬉しい知らせだ。



 2度、3度の戦いでもこの裏とも言える情報があったからこそ帝国を迎撃できたようなものなのだ。



「危ない橋ではありましたが、以前話された鉄の輸送先の調べがついたところ発見に至りました」

「突き止めたか・・・!」

「はい。地図を見て・・・森の中、ここですね」


 知将は余っていた帝国の駒を森の中へと配置する。近くに商人達が通るような細道が設けられてはいるが、戦場となる平野と比べるとかなり森の奥になりかねない位置に拠点があるようだ。


「場所が遠いので急な動きは対応できませんが、兵装を整えるのでしたら理想的な位置ですね。物資の配給先の事を踏まえると・・・私でしたら伏兵達の通過点、及び支援に使いますね」

「今すぐ兵を送らせるべきか?」


 先手を打つ王の言に知将は目を瞑り首を横に振る。


「いけません。仮に、今潰してしまえば奴らはこちらが気付いた上での姑息な手を考えるでしょう。帝国共の裏をかくのならこのまま泳がすべきです」

「歯がゆいな・・・だが、一理ある」

「二の手、三の手と作られてはたまりませんからな」


 当然伏兵が一カ所だけではない策もあるだろうが、そうでなくても拠点という存在はあらゆる面で大きい。



「だが・・・手を打たねば闘将の配置は変わらず()()()となってしまうな」

「まったくですな。彼の者がおるから敵も下手に踏み込めないもの。挟撃など片手ずつで相手にするだけで蹴散らせる勢いですからな」

「はい。闘将を前へと出すには伏兵の完全撃破。他の兵達への奇襲が無くなれば同様に敗北は無くなるでしょう」

「では、決まったな」



 貴重な情報を元に、大まかな作戦案が決まり王は背もたれへと重心を預け、豪商はぽっちゃりとしたお腹の上へと乗っかるように腕を組んで溜息を吐いている。



「・・・勝手な提案ではあるのですが、よろしいでしょうか?」

「ふむ、言ってみよ」


 巻きひげへと手を伸ばし整える癖をしながら知将は王へと提案を持ちかける。



「戦場の最後列、戦場内で最も離れた位置にコザクラサキ様を連れて行く事は難しいでしょうか?」




 ・・・理由など言わなくとも解る。


 本当に最近だ。腕を切り落とされようと、生きてさえいればどんな致命傷になりかねない大怪我をも治してみせた奇跡の力は本物だ。

 今では衛兵達の間では、天使が舞い降りた!などと熱狂する者達がでてくるほどだ。

 倒れてもたちまち治す治癒士(ヒーラー)が戦場で見守ると知れば、兵の士気は大いに上がり、全力で守り通すだろう。



「知将とはいえ、今の提案を呑むことはできん」

「失礼を・・・確認したまでです」



 だから、5歳の子供を連れて行くと?

 王の恩人を。まだ見ぬ国の客人を。


 効率だけを求めれば知将の提案は受け入れるべきではあるが、人として肝心な(もの)がない。



「知将よ・・・()()(わきま)えておらぬのですかな?・・・ちと、耳を疑いましたぞ」

「言にしたまで。・・・私とて本気ではありません」

「ふん」



 国を一角を担う仲間を見る目ではない豪商に怖気る様子も見せずに素直に頭を下げるが、それがまた気に入らず豪商は目を伏せ喉を(うな)らせた。


 知将はまだ話があるように、続けて話す。


「をことぬしという少女・・・一体何者でしょうか?」

「ただの子供、と言いたいが王城へと無断で侵入し余の命を救った者をただというわけにはいかんな」

「コザクラサキ様をまあ・・・正義感で守っているようですが、どんな手を使ったのか気になりましてね」


 今度はもう1人の子供についての話題となるが、知将と王に割って入るように豪商は笑い飛ばした。


「はっはっは!体は小さいというのに豪胆な者よな。市民街ではそこそこ有名だそうですぞ?」

「市民街ですか。確か闇がどうとか・・・なるほど」

「・・・そうか?」


 知将は流し目で王と豪商へと見つめながら王へと話す。



「いえ、まさかとは思いますが・・・私に話していない事はございませんか」



 訝しげな表情で話してはいるが、返ってきたのは素直な答えだ。


「・・・お前達を信頼して話しておくが、あの子の力についてはこの戦争が明けるまで極秘だ」

「その力について、我々は存じてないのですが・・・」

「だからこそだ。知将よ、お前なら理解ができると信じているが?」


 諦めたように息を吐き出し、机へと両肘を付け手の甲に頭を乗せて理解したことを王へと告げる。


「・・・帝国の間者がまだいると」

「その可能性はある。それくらいなら未知の力と思わせ踊らせるべきではないか?」

「納得ですな!はっはっは!」



 王は付け加えるように話し出す。



「さぞ混乱しておるだろうな。をことぬしという少女が来た途端に闘将を余の護衛に戻したのだから。知らない者からしてみれば・・・奇妙極まりなかろう?」

「・・・なるほど」

「王もやり手ですな」



 いくら暗殺者に狙われたからと言って黒髪の少女が現れた途端に闘将が王の護衛に戻ったとあれば、()()()()()()()者からすれば謎であり、理由を知りたがるだろう。


 守るべきはずの子供が増えたのに何故護衛を緩めたか、とか。

 いくら自身の命が大事だからと言って、子供達の衛兵の数が1人2人しかいない、とか。



「とらえた者の尋問もお前達には詳しく伝わっていないだろう?敢えて言わせてもらうが・・・余の指示よ」



 王は含み笑いをしながら知将と豪商へと目を向ける。



 豪商の言っていた、情報を聞き出せない、ではない。王より止められていたのだ。



「王も意地が悪い。探りを入れて踊らせてを確かめているのですね」

「ということは知将よ、あまり探っては怪しいではないですかな?」

「まったくです。これ以上聞くのは危険ですね」

「ふははは!理解を貰えて何より」



 王が席を立ち、続けて知将、豪商も席を立つ。



「王国の未来は其方達の働きに掛かっていると知っておけ。任せたぞ」

「「っは」」



 王は自身に従う信頼ある者を信じていた。


 だからこそ、誰よりも先に彼らを疑うような発言を犯したようなものだ。



 会議は終わり、喉を潤し休めるがため、彼らは食卓の間へと向かって部屋を出て行くのであった。

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