57話 青の仲間たち
炎とは橙色とも赤色にも見えるが
熱が極限まで達すると青白く燃えるという
彼は冷たいわけでも 性格が悪いわけでもない
ただひたすらに 好きな物ができただけだ
その者、赤い鎧の大剣携えた剛の者。口調と意地の悪そうな顔に難はあるが情に厚い熱血漢。
その者、緑の衣を纏いし魔法使い。臆病でその口から文句は絶えないがそれに救われる者は少なくない。
玉座に座る王。
その横に並ぶように立つ闘将、豪商、知将。
自身達を挟むように立つ臣下と衛兵達。脇には召使たちが立っている。
玉座から数歩しかない階段を挟んだ先に向かう様に立つのは咲ちゃんとぬしちゃんの二人の少女を中央に右に赤、緑。左に青、黄と並んで立っている・・・のだが。
「ケツにですますつけりゃいいんだよな・・・!?」
「た、たぶん?・・・いつもみたいに話来たらあんたが代表で喋りなさいよ・・・!」
「いっ・・・!?いやいやいや無理だっての・・・!ほらお前呪文とかで口よく回んだろ・・・!」
「喋んないし唱えないし関係無いじゃん・・・!?」
王冠を頭に乗せた権力の頂点を前に彼ら、内2人は今後の応対に悩まされていた。
まだ獣やモンスター、賊の相手をしている方がまだマシに思えるほどに、こういった場に縁の無かった2人は緊張していたのだ。
政治的緊迫した状況に慣れている弓使い、2度目で心の準備のできていた聖女と呼ばれる彼女も緊張はしてはいるが、コソコソと意味のない擦り合う2人ほどではない。
「王の御前だぞ!」
声はともかく耳打ちをするような動作は流石に目に余ったか、金色の巻きひげが特徴の白と青の衣を身に付けた男、知将の叫びが静かな玉座に嫌に響き、剣士と風使いは慌てふためく。
王の手が動く。
ゆっくりと手を横へと払う仕草に知将はそれ以上言葉を荒げずに咳ばらいをしてから続けて話した。
「これより話される、王の言葉しかと聴け」
同時に聖女と弓使いが膝を曲げ跪こうとした2人に続いて剣士達も真似る様に後を続いた。
「よい、楽な姿勢で構わんよ」
咲ちゃんも習って座ろうとしたが王の言葉で止められる。
「う、うす!」
「うすじゃないでしょ!はい、よ、はい!!」
「は、はい!はい!」
「サキちゃん!? 2回言うわけじゃないわよ!」
「うるさい。お前達は喋るな」
「もう、何やってるんですか!」
これぞ彼らの楽な姿勢。
公の場にそぐわない彼らに周囲から失笑とも呆れとも取れる騒めきが起こりだす。
「無礼な!」
闘将は微動だにせずに白銀の大槍と大盾を構えたままだが、その様に知将は目を伏せながらも口元が怒りでひくつき、豪商に至ってはでっぷりとした腹を揺らして笑いを堪えていた。
「ふははは!なんとも愉快な者達よ!」
「王・・・!?」
だが、王はこれを許した。
「知将よ、口を挟んでは無礼ですぞ?」
「っ・・・!」
なんとも理不尽といった様子で知将は豪商の囁きに致し方なく声を潜めた。
「昨晩の功績を踏まえれば、そこに座っておる をことぬしのように寛いでも余は一向に構わんくらいだ」
「え?」
王の言に気づかされ、剣士達一同が黒髪の少女をみれば両足開きで座りながら戻って来た白いカバンに手を伸ばし、むしゃむしゃと何かを頬張っている。
「咲ちゃんのもあるんだ」
「え・・・え!?」
「馬鹿おめぇ!?馬鹿か!!ここで喰う必要ねぇだろが!!」
あーだこーだとコソコソしていた剣士と風使いが礼儀正しくも見え、それを咎めた知将が誤った事をしてしまったのだ。
遠足中にシートの上でのんびりするような楽な姿勢をとり、お地蔵さんのように目を細めては美味しそうにコタコタを味わっていた。
「はっはっはっは!!」
「ぐはははははは!!!」
知将の両隣から壊れたステレオにような笑い声が轟いた。
「流石お嬢様!!堂々たる立ち振る舞い!!」
「はっはっは!吾輩も見習うべきですかな?」
「ここは玉座の間!神聖な場所ですよ!?」
「楽な姿勢とのお言葉!!」
「腹が減ったら食べる!羨ましい限りですな」
「だからといって、まったく・・・王命でなければ・・・」
豪胆な中年男とブリキ男の間に挟まれた頑固そうな彼が左右に驚いたように振り向いているのが剣士達は少し哀れだ。
だが・・・周囲はまた驚愕したようにまた騒めきだすのだ。
咲ちゃん達を取り囲む臣下や衛兵、メイド達が気にしているのはそこではない。
「皆にも伝わったようだ。楽にして聞くがよい」
何が伝わったのか?
王の言葉で波打つような動揺が疑念だけを残し、一瞬で収まった。
迷いこそ残っているが弓使い達は立ち上がり、咲ちゃんはぬしちゃんを立ち上がらそうと非力な力で引っ張り上げていた。
「まずは、昨晩の活躍を労わせてもらおう。市民とはいえ、流石は紫鉱の遺跡を踏破した者達だな。見事であった」
「う、いや、はい!」
労いの言葉に剣士が雑なアドバイスを元にぎこちなく答える。
「方法こそ手荒ではあるが、其方達がいなければ王国に潜む闇をみすみす逃すところであったのだ、感謝しかない」
これに対する代表の答え。
「どう返しゃいい・・・?」
「し、知らないわよ・・・」
「あ・・・!?お前トンガリと場所変われや・・・!」
「は・・・!?今更でしょーが・・・!」
幼稚園の先生に一緒になって怒られているような2人に細めで眺めながら、咲ちゃんはちょびっとだけ呆れていた。
そんな咲ちゃんの左側から静かだが、深く息を吐く音が聞こえ左へと振り向いた。
「彼に代わって発言を。ありがたきお言葉、恐れ入ります・・・!」
この場に限り、代表変更だ。
「城門でも其方の手腕は聞いている。元衛兵の者と聞くが、それは真か?」
「はい」
「子供の後に確か・・・無断で城内に侵入したのも其方であるな?」
「はい。無礼を承知で侵入いたしました」
王は告げる。
「なるほどな。王城への不法侵入は大罪ものだ・・・死も覚悟してもらわねばならない」
「え・・・?」
驚いて声をあげたのは咲ちゃんだが、動揺を隠せないのは1人だけではない。それは当事者である2人を除いた4人。
ぬしちゃんも勝手にお城に入ったのだ。
悪い事はいけない事とは教わっているが、そうだとしても咲ちゃんの頭の中が髪色と同じように真っ白になってしまった。
「全て自分の責任です」
「ほう?そこの少女の侵入も責任だと?」
「はい。この子に罪はありません。罪は自分にあります」
「それが通じると?」
雲行が怪しい。もっとも間近にいる聖女が危機感から弓使いの顔色を窺い、自身の口に手を当てて声を抑える。
「この子の罪が逃れられないのでしたら・・・自分は最後まで抵抗させていただきます」
視線だけではない。氷柱の刺すように衛兵達が弓使いへと槍を構え出す。
王の発言に反抗する明らかな意思を見せたのだから当たり前だ。
中には野次を飛ばしてくる貴族達もおり、2人の少女を巻き込んで混乱は極まった。
「お、おじさん・・・!?」
「お前!?喧嘩腰になってんじゃねぇぞ!?」
「あんたがそれ言うの!?じゃなくて!?」
武器を向けられているのは弓使いであり、仲間だ。だが周りは国を守る衛兵達であり、武器を出すわけにはいかない。
普段冷静な彼の事であり、考えあっての言葉だと信じたいが・・・最近は子供が絡むとおかしな時がある。
肝心の弓使いは武器を構えないまま王を睨み、ぬしちゃんはコタコタを食べ終え満足したのかゲップをしているだけだ。
「・・・ふはははははは!」
ところが、剣山に囲まれたような危機的状況を王は笑い飛ばし、兵達に武器を納めるように手の平で払い、場が落ち着いた。
「意地が悪かったようだな。其方の意気を確かめたかっただけだ」
王の真意がわからず、彼らは下手に口に出さず黙ったままだが、咲ちゃんは王様が何をしたいのかが理解ができなかった。
「もう一度、王国の兵となって守るつもりはないか?今この国にはお前のような意志の強い者が必要なのだ」
「それは・・・!」
「何故去ったのか、理由を詮索するつもりはない。不都合があれば余の名を持って取り除く努力をしよう。だが、国を守れば、そこに住まう者も守ることに繋がるであろう?」
玉座の間に静寂が訪れる。
城門での騒動からその後に犯した行動まで、王が評価したのだ。
王からの直々の指名を受けた青き装備を身に付けた男は辺りを見渡した。
心配そうに、それでいて諦めたように自身を見ている仲間達、疑念の目を向ける貴族達。
一部ではあるが、衛兵達の中にはスリット越しに熱意の込められた視線を向けてくる者達がいる。
その内でたった1人、鎧が真新しい者がおり、周囲の衛兵達の眼も気にせずに胸に空いた右腕を寄せ敬意を示してきたのだ。
最後に顔を向けたのは不思議そうにおどおどと見つめてくる咲ちゃんと、もう1人。
「ぬし」
「をことぬしなんだ」
さっきまで会話を興味を示さず天井を見ていたというのに、何が興味を示したか咲ちゃんと同じくこちらを見ているのだ。
端正な顔立ちの弓を携えた男は王に答える。
「お心遣い感謝いたします。・・・ですが、自分は戻るわけにはいきません」
「断ると?」
「はい。・・・自分には仲間達と共に、果たさねばいけない依頼があります」
「そうか・・・言ってみろ」
足を揃えて畏まり、胸に右腕を寄せて彼は宣言する。
「ご存じの通り、この子達が住まうのはニホンであり、王国ではありません。この国の為に努める事で2人を守れるとは・・・到底思えません」
王の表情が強張ったものへと変化し、深く唸るように顎を引いたのを彼は見逃さなかった。責めるつもりは毛頭無いが、王に心当たりがあるのは確実。
どんな不運の星の元に生まれたか、少女達の騒動へと巻き込まれる頻度は異常。
動こうと、動かずとも。
無礼にも取れる彼の発言に、王命とはいえ知将が異を唱えないのが大きな証拠だ。
静かに燃える青き火を胸の内に宿して、声を大にして叫んだ。
「2人を救うのは国ではない!ニホンを見つける事だ!・・・それが俺達の依頼だ!!」
少女たちが依頼をしたのは剣士、風使い・・・そして弓使いの彼。衛兵でも王でも国でもない、3人から始まった事なのだ。
理屈で頭を働かせていても、最善と最悪を考えてはいるが・・・必ずしも本音ではない。
俺達ではない、誰かがこなすのが許せない。
男の尊厳は認めてなかったのだ。
「おじさんかっこいい!アニメみたい!!」
「おお」
目線を落としてみて、弓使いは後悔した。
咲ちゃんが英雄譚を憧れて剣を取る子供のようなキラキラした目をして自身を見てきたからだ。
それどころか反対側にいるはずの赤と緑が近寄ってくるではないか。
「トンガリ!よく言った!!全然らしくねぇけど感動したっ!!」
「うるさい、動くな、肩を叩くな・・・!」
「実はあんた、偽物なんじゃないの?」
「背中を小突くな、お前ら戻れ・・・!」
玉座の前だというのに和気あいあいと談笑し合う5人の緊張感の無さに困ったように玉座の肘当てに肘を乗せ王は頭を抱えて失笑しながら話し出した。
「知将と聞いた話と異なるが、中々面白い答えだ。では、余も力の貸し方を変える必要があるな」
玉座に座る姿勢を正して、王は言った。
「代わりというわけでは無いが其方ら3人の武装をこちらで整えさせてもらおう」
「それは、どういう・・・?」
「つい先ほど言っていたではないか。自身達で探すと。その支援をさせてほしい、それだけだ」
疑問符を浮かべる弓使いへと不敵に笑う。王というより意地の悪い子供のような笑みだ。
「余が恩を返さんと侮ったか?大罪などと烏滸がましい。だが、心苦しいが今は国から動くことはできない・・・であれば、自由に足を運べる者が必要だ」
王は玉座から身を乗り出すように前へと屈み、膝に肘を乗せ語る姿に近くにいた豪商達ですら目を疑うほど・・・態度の悪いものだった。
そして一言。
「その役目、頼めるか?未来の冒険家達よ」
だが、足を開いたその悪辣にも取れるその態度が返って彼らの心を掴んだのだ。
「おう!任せろ!!」
「あ、あたしも!がんばり、ます!」
「・・・俺もだ」
三色と言われる3人組が1歩前へとでて躍り出る。
「咲も!えい!」
「そうなのか」
「こ、こら・・・!」
咲ちゃんも真似をして1歩前へ。ついてくようにぬしちゃんも立ち上がり前へと出るが、なんとも狭い歩幅で彼らには及ばない。
ただ1人、修道服を身に付けた女性は様子を眺めているだけだ。
彼らの返事に満足したか王は崩した姿勢を元へと戻し、続けて話す。
「寸法などは後にするとして、ここからが本題」
「・・・本題?私は聞いておりませぬが」
「ふむ、吾輩もですな。もう終わりかと」
王へと口を挟んだのは知将と豪商。お嬢様!!と叫んでから一言も発しない白銀の甲冑はともかく、口裏を合わせてなかったように王へと僅かに顔だけを向けていた。
「をことぬし・・・コザクラサキ同様、其方も王城にて客人待遇で保護させてもらおう!」
王の言葉に微動だにしないのは白銀の甲冑と黒髪のお地蔵さんだけだ。
聖女達も心情を隠せないが、臣下たちにも話に無かったのか、あちらこちらで小話が飛び交っており彼らは察することができた。
恐らく、王の独断だ。
その時、王の現れる反対側。豪商へと急いた様子で衛兵が駆け寄る姿が見え・・・脂肪でつまったその顔が強張るように変貌した。
「・・・王よ。予想通り、来ましたぞ」
誰が来たのか?
玉座からゆっくりと重そうな腰を上げ赤いマントを揺らして立ち上がる。
ここにいる誰もに伝えるべく立ったのだ。
「話の続きは時を見てまた話そう」
玉座の間での話は終えた。そして、
「これより、帝国との開戦準備へと入る・・・!」
翌日、帝国からの使者による宣戦布告の御触れが王国中に出回ったのだ。
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