55話 光の集束へ
光とは重なれば重なるほど力が増し 遠くまで届けてくれるのだという
深い夜に眩くは誰の輝きともしれないほどに混ざってしまっているが
それでいいのかもしれない
そんなことを気にする彼らではないのだから
白銀の鉄球と琥珀色に輝く光の壁に挟まれ、黒装束の男は力なくその場に倒れる。
風景画が倒れ、ガラスの破片も散らばり、いくつもの彫像品に趣向品が床へと落ちている。倒れている男達も散々な有様であり絶命している者もいれば気を失い倒れている者もおり、とても王の寝床だった場所とは言えない。
「咲ちゃ」
「ぬしちゃん!!」
白髪の少女、咲ちゃんは落ちてる物など気にも留めずただ一直線に親友の元へと駆けつけ、抱きしめた。
どんな障害も、財の塊だって少女にとってはどうでもよいのだ。
「ぬしちゃん!ぬじちゃん・・・」
親から貰った茶色い瞳を雫で潤わせ、黒髪の少女の名を叫ぶ。
今度は・・・倒れていない。よかった。よかったのだ。
「王よ!!お怪我を!?」
「ああ・・・ぐ、痛む・・・」
闘将の声掛けに王はどうにか身体を動かすが、動くたびに汗が流れ落ち床のシミとなっていく。右腕には黒い短剣が刺さったままだ。
だが、王だけではない。咲ちゃんはぬしちゃんの手を握ろうとして触れたのだが、自身の手にヌメリとした液体が引っ付き咲ちゃんは天がひっくり返ったように驚き大急ぎで手を引っ込めた。
「わ、わ!?ち!でてる!?でちゃってる!!」
「おお」
ぬしちゃんの手の平が鋭利な物を握ったような形で切れており、そこから血が流れてまるで紅葉のように紅く汚れていた。
絶対痛いはずなのにいつものぼーっとした表情なのは迷惑過ぎる。
「ガラスの、破片だ。・・・余を守るために奮戦してくれおった・・・」
「なんと!!」
「な、なおす!なおすね!!」
咲ちゃんは傷ついた2人に向かって細く短い腕を伸ばし、願った。
『ふたりのおけがを、なおしてください・・・!』
白髪の少女の背中に淡い緑の輝きを放つ天使の羽が生え『癒しの奇跡』が発動する。
辺りは輝きに包まれ、傷負う者達を瞬く間に治していく光景に間近で見ていた闘将は驚いた。
「なんと、見事!!」
本来であればこの奇跡は発動前に異物を取り除く必要があるのだが、王の腕に刺さる短剣が肉体から拒絶されるように押し出される光景を目の当たりにしたのだ。
奇跡による光が消える。
夢でも見ていたかのように痛みが消え失せ、王は深く腰を下げ子供達へと頭を下げる。
玉座の間でも見せなかった、深い礼だ。その表情はとても柔らかいものであった
「・・・心から深く感謝する。ありがとう!」
「そうなのか」
「うん」
その表情はすぐに険しいものへと変わる。まだ事態は収まったとは考えていないからだ。
「今、城内はどうなっている?」
「ここと廊下に倒れる不審極まる者達以外は不明!!兵にも被害が及んでおります!!サキ殿と王を守らんが為参りました!!」
「急ぎこの忌まわしい事態の収集に努めたい、まずは・・・」
そう王が思案を巡らせていると、廊下から鎧の音が入り乱れる足音が慌ただしく王室へと向かってきていた。
「王!!ご無事ですか!?」
衛兵長を務める者とその下についた者達の5人であった。
「余の事はよい。急ぎこの倒れている不届きな輩を捕らえ、状況を教えよ!」
「は、っは!」
衛兵長達は王室内の荒れように困惑しながら、各々がすぐに王命を果たす為行動に移した。
「城内外にて不審な輩と共に衛兵に紛れている者達をおりました!」
「見分けはつくのか?」
「つきます!槍の扱いに長けておる者が少なく、私の目を持って捕縛及び討伐を伝達、行動に移しております!」
「城外はどうか?」
「被害にあった兵がおりますが、市民、教会の者達の協力もあり無事!結界を張り城内に避難及び、敵の伏兵が城門外にも潜んでおります」
「・・・なんてことだ」
王は悲し気な感情を表に出すがそれも一瞬だ。
「臣下たちの安否は?」
「信頼ある兵士達が護衛に当たっており、個室へと非難をしております!!」
「そうか・・・」
王は目を伏せ、深く考える。
兵の配置、敵の目的、被害の大小。
「闘将はこのまま余の護衛に戻り、コザクラサキ、をことぬしも同様に守護せよ」
「っは!!」
未だ離さまいと抱き着いている・・・一方的ではあるが、少女達の身を案じて闘将へと護衛の指示。
事の発端は闘将の配置、ここなのだ。
「捕縛した者、怪しい兵がいれば即刻留置所へと連れていけ。周囲へ被害が及ぶのであれば・・・」
話に間を空け、衛兵達に縄で拘束されていく黒装束の者達を眺め王は気づく。
意識こそ失っている様子ではあるが、宝剣に斬られたはずの2人に傷が無いことに気付く。胴を突き刺された男も死に至らず、先ほどの癒しの奇跡のお零れに授かったようだ。
「多少の怪我は問題ない。足を落としても構わん、とにかく捕えよ。外の者達にも急ぎ伝えるのだ」
「はっ!」
王命を受けた衛兵長達は即座に行動を開始し、王室から出て行くのであった。
同時にぬしちゃんも動き出した。
「ど、どこいくの?」
「おとしちゃったんだ」
心配からの行動か、電車ごっこのように咲ちゃんはぬしちゃんの両肩に手を乗せたままに同時に歩いていく先には横たわる黄金の大壺だ。
すると、ぬしちゃんはあの1回で慣れたのか軽々と大壺の中に入り込んでは紙のような物を手に取って飛び出してきたのだ。
「ぬしちゃん、それなあに?」
「咲ちゃんのおへやをさがして、おてがみをひろったんだ」
「む・・・?ああ!そう言っていたな」
そういえば、と王は頷く。
・・・ついでに時間はともかく、何故王城に入り込んだのかが口ぶりから垣間見え、国の王が殺されそうな状況を観戦しながら食事を始める姿が後を押し・・・この話を王は他所に置いておくことにした。
何よりも、この修羅場の最中に拾ったと言う手紙。
ぬしちゃんは自身よりも背の高い王に合わせるため、背伸びをしながら手紙を渡し、王はこれを受け取った。
「受け取ろう。巻かれておるな・・・」
文面を読み、しばらくして目を伏せ、手を使って顔を覆った。
「王よ!!内容は如何に!!」
「どんなおてがみなの?」
白髪と白銀が話しかけ・・・そして。
「ふ、ふは!ふははははは!!はーっはっはっは!!!」
壊れたように高らかに笑った。おかしいからだ。おかしい。
咲ちゃんは驚いてぬしちゃんの後ろへと隠れてしまった。それが空っぽの笑いに聞こえて怖かったからだ。
「王よ!一体、何が!!」
「闘将よこれを見よ!」
結果論ではあるが、黒髪の少女が危険を顧みずに王に届けたお手紙。
「命を賭して余の身を守った子供が、王の暗殺依頼を届ける、などと!?おかげで余が助かったのだから笑うしかないではないか!?ふははははっはは!!」
王の暗殺依頼。
自身を殺そうという案件を拾ったがためにわざわざやってきた小さな幼子。それも遊びにきたついでだ。
暗殺者同様に城内に侵入し、勘違いのおまけで救われた国王などと、殺された方がまだ恥も少ないほどだ。
こんな馬鹿な事、命を狙う輩たちにも想定できなかったであろう。
「・・・すまんな。どうかしていたよ」
「おうさま、だいじょうぶ・・・?」
「たのしいのか」
王は頭を振り払い、斜めに昂る気を持ち直す。お陰様で命は救われ、敵の今後起きる事態も依頼書から読めたのだから。
「大丈夫だとも、大丈夫だ」
「それは何より!!」
「闘将よ、まずはこの部屋より・・・コザクラサキの部屋へと移ろう。あの一帯は安全だ」
「っは!!」
王は目線を下げ、黒と白の2人の少女を見詰めて悟る。
「咲のおへやに、くるの?」
「ああ、余はとても怖がりでな、2人の話を聞かせて慰めてはもらえないか?」
怖がり、という言葉に共感を示したのか咲ちゃんは少し驚いた顔になる。
「おうさまでも、こわいの!?」
「こうして、夜も寝れんほどにな。闘将よ、護衛を頼むぞ」
「お任せを!!」
廊下を出ると、王室にいた者と同じ黒装束の男達が衛兵達に一方的に拘束されている状態であった。倒れている衛兵を見れば、斬られた胴や肩に破けた跡があるが、流血が止まっている。
白髪の少女の力がここまで及んでいたとなると、安否は安心しても良いのかもしれない。
どれもこれも昏倒するほどの強烈な打撃を一発受けたような倒れ方をしており、本来であれば瞬く間にくなっていたのだ。
王は覚悟を胸に秘め、子供達と共に闘将の後へと続いて歩いて行った。
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王国の城門内には広い庭がある。庭師によって手入れのされた植木と花壇の花々は美しく、この庭は貴族達の心を癒す安らぎの場としても使われていた。
「なんだてめぇ俺がいなきゃ知らなかったくせに何イキってんだ!!?」
「はーぁあ?まともに武装もしねー足手まといのいうことかね!?」
「2人とっつかまえただろーが!てめぇなんざ関係ねぇ連中もボコってただろうがよ!!」
「ありゃせいとー防衛さ!こーんなか弱い乙女に刃物出すなんざ皆敵だね敵!ってか大勢で責めりゃ手柄もなんもないじゃないさ!」
数年前に病によって命を失われたが、王の最愛の妻・・・この国の女王との契りもこの庭で結ばれたと言われ、王女亡き今も庭の手入れは欠かさず行われているという。
「かよわって気色わりぃ・・・ただの露出狂じゃねーか。男でも誘ってんでちゅかー?」
「んーだと赤牛!?てめぇなんざほぼクビのお飾りじゃないのさーこの足手まとい!」
「く、クビじゃねぇし!!ぬしがいんだろが馬鹿かてめぇ!!」
「はぁーあー??なんだちゃんに?護衛?あんたの方弱くね?雑魚じゃんね?ねー??」
「んだとこの媚び黒女っ!!あー、よく見たら黒くてすばしっこくて油でギトギトって食堂にいた虫にそっくりだおめー!」
「ああああああああああああぁ!!?」
それが今、2人のアホによって汚されようとしていた。
「・・・状況報告を、正確に」
「・・・はい」
衛兵長が城門を開くとそこは、悪漢達のたまり場だ。
庭には衛兵だったと思われる兜を剥がされた男達、黒装束を着た暗殺者と思わしき者達。それらが仕分けをしたゴミでもまとめたかのように地に倒れている。
流血の酷い者もいれば、腕や足が圧し折られ再起不能となっている者もおり、これではお縄につくまえに病床につくほうが早いだろう。
不心得の衛兵だろうとここまで雑な扱いはしないだろう。
封じた命令を下したはずの城門の結界は開かれており、代わりに闘将ほどではないが、無骨な鎧で武装を固め岩石のような体躯の熊男が大槌構えて陣取っており、動ける衛兵達も武器や盾を構えてその隣に並んでいるが、比べてしまうと若干見劣りしてしまいそうだ。
その手前には剣を握った黒い薄着の男と三日月斧を今にも振るいそうな露出の激しい女が言い争いをしており、騒いでいるのは主にこの2人だ。
倒れている者達を手厚く看護に周っているのは金色の長髪の女性であり、その彼女を手伝ったり、喧嘩を仲裁しようとあっちこっちと世話しなく動き回っている緑の衣の女性も目についた。
というか、修道女の数も増えている。それも5人。まさか呼んだとでもいうのだろうか?
情報量の多さに困り、事情を深く知っているであろう門兵へと話が飛んだのだ。
「その、市民・・・の方たちの援護もあって、市民街や貴族街の被害は最小限に抑えられ、暗殺者と思わしき者達も随時捕縛されつつあります」
「倒れている衛兵は全て?」
喉につっかえでもできたような物言いで門兵は答える。
「いえ・・・多分、何人かは正規の者かと。怪しいと彼らが勝手に独断で判断した彼らの被害にあった者も少なくありません」
「なぜ止めん!?」
「申し訳ありません!!ですが、効果的といいますか・・・その、判断に困る者達もいますので、どうか衛兵長のお力を借りたく」
「わかっている!」
衛兵長は早足で倒れている不審と思われた衛兵達の確認に向かい、門兵がそれに続く。
「して、あの弓を持った者はどうした?姿が見えないが」
「そ、それなんですが」
門兵の兜は上へと昇り、スリットの先に見るのは王城の屋根の上。
衛兵長も見上げては呆けた声を隠せずに出してしまう。
青き装備を纏う男が弓を構えて月夜に映る影のように屋根の上で立っていたのだ。縁には錨のような形のフックが引っかかっており、通された縄が下へと垂れさがっておりそこから登ったのであろう。
「城門を飛び越えるほどの曲射撃ちで数人当ててたんです・・・あの人」
・・・優秀な市民達の貢献に、衛兵長は兜越しに頭を抱えるしかなかった。
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