45話 昼下がりのご遊戯
初めて親元から離れて寝た時はどんな時だろうか
幼稚園 保育所 学校 旅行先 様々だ
自身の家ではない不安な気持ちは
少なからず あったのでは?
もし 本当にどうとも感じない人がいるのなら
その人に 本当の家族はいたのだろうか
白髪と黒髪の少女の2人が初めて離ればなれの夜が過ぎ、翌日の朝。
咲ちゃんはお姫様が使うような豪華なベッドの上で目が覚めた。
いつものように、うんっと伸びをして体の調子を整える。
「ぬしちゃ・・・あ」
いつものように・・・声を掛けようとしたが、横に寝坊助な親友がいない。
・・・。
何をすればいいのだろう?
いつもならお部屋で着替えをしていればシスターの皆が来てくれて、一緒に食事をしてくれる。
外に出る時は自分達を守ってくれる赤いお兄さん達が必ず誰かがついて来てくれる。
教会に付いたら、後は自由だ。ぬしちゃんと一緒に遊びまわって、最近は近所にお友達もできたのだ。
それに、幼稚園から離れてもやっぱりぬしちゃんはヒーローだった。
ぬしちゃんから教わった遊びや作ってくれた遊び道具はみんなに大人気なのだ。花いちもんめにかごめかごめ、紙飛行機を飛ばし合って遊んだりもして、散らかしてはシスターに叱られていた気がするけど ぬしちゃんはお構いなしに逃げ舞わる。
ぬしちゃんは駆けっこにかくれんぼの天才だから絶対に誰も追いつけないし逃げれない。でも、ご飯抜きですよーって言ったらすぐにやってくるから面白い。
コンコンと部屋がノックをされ、少しビックリしてしまった。
あれ、どうすればいいんだろう。
「おはようございます、サキ様」
「失礼いたします」
やって来たのは2人のメイドさんだ。想像とは少し違っていて、お母さんに内緒でお父さんとメイドカフェに行った時のようなフリフリの衣装ではない。
遊園地の怖いアトラクションのスタッフさんのようなカーキ色の服と白のエプロン、ポンポンしているような帽子をかぶっていて、ちょっと地味だ。
「おはよう、ございます!」
「ご挨拶頂きありがとうございます」
「う、うん・・・?」
挨拶をしたらお礼を言われてしまった。何かをしただろうか?よくわからない。
「朝食のご用意ができております」
「光栄なことに王よりお召し物がご用意されておられます」
「おめしもの?」
洋服と言えばいいのに、本当にお姫様になってしまったようだ。
「はい。ただいまお運びになられております」
「恐れながらご令嬢の更衣室がございませんのでこちらでお着換えさせていただきますね」
え?運ぶ?
その疑問は廊下から違うメイドの人たちがカラカラと運んできた物で晴天の空のように晴れていく。
「こちらが城内でのサキ様の常用着となられます」
・・・本当に、お姫様となってしまったようだ。
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「おーい、ぬし起きろ」
おねんねは気持ちが良い。体がぽかぽかしてきて温かい。
「ぬしちゃん起きて起きて、もうお昼だよ!」
昨日食べたスープはとっても美味しかった。また食べたい。
「ぬし、サキに会えるぞ」
「おお」
咲ちゃん。お昼から遊べる。起きないと。
「おはよーなんだ」
「サキの名前だしたら動くなこいつ」
「大好きだもんね、ね!」
「うん」
起きたら・・・何をするんだっけ。
「あさごはんなんだ」
「ばぁーか。先に顔洗え、ってか昼までよく寝てられんな」
「仕方ないだろう。今は教会に連れてくわけにはいかん」
そうだ、顔洗いと・・・えーと。
「あさごはんなのか」
「飯しか頭にねーのかお前は!」
「あっはは何それ!ご飯は今作ってくれてるからだいじょーぶよ」
「そうなのか」
おなかいっぱい食べられる。そしたら元気が付くからたくさん遊べると先生は言っていた。
「おなかいっぱいになったら、咲ちゃんとあそぶんだ」
「そそ!あたしら昨日会えてないし心配なんだよね」
「お前達を運ぶ仕事も増やされたがな」
「昨日のトンガリまじウケたけどな!結婚でちゅか?」
「・・・うるさい!まだ酔ってるのかお前は?」
「ふぁぃう」
顔を洗ってこよう。そしたらご飯だ。
咲ちゃんは、元気かな。
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食事を終え昼下がりとなった頃、ぬしちゃんを連れてシスターの1人が城門の前へと誰かを待つように立っていた。
護衛の剣士、弓使い、風使いの3人もついてはいるが、彼らも待ち遠しいのか各々暇を潰し待っていた。
誰かとは言わずもがな、白髪の少女の咲ちゃんだ。
「俺らに顔合わせてからでもいいのによ」
「ほんっとにね。このまま外に出さないつもりなんじゃ・・・」
「・・・」
昨日は結局咲ちゃんおは会えないままに説得される形に持っていかれてしまった。
言い方は殴りたくなるほどに気に食わなかったが・・・。
「そう言うんじゃないよ。私たちだってそうだけれど、サキちゃんはね、1人で頑張ってるのよ?」
ぬしちゃんと一緒に来たのは修道院で水汲みによく行っていた細身のシスターだ。賊達に殴られたアザは今ではすっかり治っており、元気が取柄のおばちゃんで通っている。
「今はぬしちゃんに習いなさい。ぼーっとしちゃってる子だけど、絶対に泣かないし誰よりも我慢強いんだから」
「・・・うす」
「はーい・・・」
文句を言っていた2人はバツが悪そうな返事をシスターに返し、風使いは黒髪の少女と手遊びをお願いし遊び始めた。
弓使いはただ静かに腕を組みながら遊ぶ2人を眺め、剣士は大人しく格子扉の向こうを眺めていた
「おい?あれサキじゃね?」
剣士の言葉に一同視線が城門の方へと向かうが・・・いつもの黄色い帽子は身に付けていない。
「お待たせいたしました。門を開きます」
2人いる門兵の内1人が城門の格子扉に手をかざすと薄っすらとだが魔法陣が表れ、消えると同時に開かれた。
恐らく結界か何かだが、彼らはそれに持ち合わせる知識は持っていない。
「ぬし、サキに会えるぞ・・・!」
「おお」
そう言って真っ先に走り出したのはぬしちゃん・・・ではなくぬしちゃんを抱きかかえた弓使いであった。
「お前が走るんかい!!」
「ちょ、トンガリずる!!」
黒を抱きかかえた青に続いて緑と赤も遠くに見える白へと向かって走り出す。
「若いっていいわね・・・あの娘の方がよかったかしら」
強大な奇跡の力を持つ白髪の少女が王城で保護されることとなった為に、一番情報を持っている聖女と呼ばれている彼女は教会で住人達に釘付けとされてしまっている。
「これから・・・どうなるのかしらね」
自身達を救ってくれた子供達の安否を胸に、シスターも城門を潜り、歩いていく。
「ぬしちゃん!ここだよー!」
多くのメイド、多くの兵士に囲まれる中、手を振る少女の姿を見て、彼らはかける言葉を失った。
先日まではぬしちゃんと同じく黄色い帽子、ピンクの服、チェックのスカートと小さな靴を身に付けていた。
「咲ちゃん、おひめさまになったのか」
「ち、ちがうよ!おようふく、これしかないっていってたの」
地に降ろされたぬしちゃんとつい比較してしまう華やかさ。
太陽の光に照らされる布でありながら艶やかな輝きは一体どんな素材を使われているのだろうか。フリルとレースがふんだんに使われたそのドレスはまるで可憐な白百合の花束か。
見慣れたはずの白髪とその笑顔が合わさり輝きがさらに増すというもの。
「な、なんか高そうな服着てんな。動いて破けたりしねーよな・・・」
「なにこれ!ほんっとお姫様着るやつじゃんこれ!?」
「こんなに綺麗になって!べっぴんさんじゃないの!」
「え、えへへ」
おっかなびっくりで宝物でも見るような剣士に、女性の憧れを体現するようにハイテンションな風使いとシスターに咲ちゃんは照れ臭くなりほっぺたに手を当てて顔を隠しだしていた。
「ご足労ありがとうございます!!サキ殿のご友人方!!」
剣士とは違う金属で響くような大きな声で挨拶をするのは白銀の大鎧と大槍に大盾の完全武装の、多分男であった。
何物をも弾き貫きかねない大槍もそうだが、何よりも目につくのは五色の宝玉が埋め込まれた大盾だ。火、水、風、土、雷を彩った魔法の込められた盾なのだろう。
「あなたは、闘将・・・!?」
「いかにも!!王命によりサキ殿を守護する者!!闘将と呼ばれております!!」
「ま、まじか、あ、いや・・・っすか?」
「マジであります!!ご安心ください!!」
武と力を極めし者、立ちふさがる全てを屠る巨漢、白銀の死神、王国にいる力を求める男達の中心人物、異名など上げればキリがない。
白銀の大鎧を前に普段の口調を改め態度の悪い剣士ですら畏怖してしまう。
そして彼らは王の評価を大きく改めた。
私兵として護衛を努めていた三色の彼らなど束になろうと彼の鼻息に敵わない。
故に、彼が付いたとあれば心配など不要だ。咲ちゃんに敵などいない。
「もしや!!紫鉱の遺跡を踏破したという三色であられますか!!」
「う、うす!」
「その功績!見事!!拙者も精進せねば!!」
「いえ、ご謙遜を・・・!」
咲ちゃんはお父さんの会社にお弁当を届けたことがあったが、上司を前にしたお父さんみたいに引け越しな剣士達を見て既視感を覚えた。
これは外国でも変わらないんだな、そう心の日記に記しておく。
「ブリキのおじさん、やっほーなんだ」
「やっほーであります!!お嬢様!!」
「おじさんもあそぶのか」
「拙者はサキ殿を守護する者!!遊ぶわけにはいきませぬ!!」
「そうなのか」
面識のあるぬしちゃんは腰の低い男達とは違いぼーっとしたいつもの面で闘将と話だす。
「をことぬしが咲ちゃんをおっかけるから、おじさんはそれをまもるんだ」
何を言うんだコイツは。
「なんと!!拙者が守護しなければ!!サキ殿お逃げをぉ!!」
「ぇぇええ!?」
・・・何を言うんだこの人は。
「待て、その服でどう走るつもりだ・・・足が見えん」
「持つしかないでしょ!まっかせてサキちゃん!」
悩む弓使いを他所に、風使いの彼女が咲ちゃんをお姫様抱っこをし迫る鬼から逃走を図る。
「うわナニコレふわふわじゃん!やばー!」
「わわっ!おねえさん、おうじさまみたい!」
「え、王子!?ちゃいますよって!」
彼女の足は子供を抱えているのにとても素早い。
「まあ壁みたいなもんだしな。よっ!王子!」
「丘くらいあるわよこの歯抜け!!!」
尊厳を汚された彼女の口は大剣を失った剣士への反応にも無駄に口早い。耳ざといとも言うべきか。
「しょうぶなんだ」
「サキ殿には指一本触れさせません!!」
ぬしちゃんとの追いかけっこの始まりだ。
尋常でない速度で兎のように走り回る黒髪の少女に相当な重量があるにも関わらず異様なほどに機敏な動きでカバーをする闘将。
咲ちゃんを掛けた、ある意味2人の勝負は傍から見ていて異次元を極めていた。俗に言う、何やってんの、である。
まさか金属の塊のような男が子供と戯れるとは思わなかったか、周囲のメイドと兵士たちが大慌てであたふたとしている。
「指一本って、触れないと終わりませんでしょ」
ただ1つの解決方に行きついているシスターはさておいて、城内の庭は小さな祭りとなっていた。
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