影灯篭 値の記憶
最悪で最低
そんな人生を歩んだ つまらない物語
恐くて 弱くて それでも足掻こうと生きた 少女の記憶
小さな身体が宙に浮く。
自分を守ってくれるヒーローは最後まで頑張っていた。
頭がダメだと悟ったのか魔蛇は外にはみ出てしまうほどに尾で狭い観客席を薙ぎ払い、度の過ぎた縄跳びのように太い縄を飛び越えたが、宙に浮いたその時を狙われたのだ。
その跳躍力で高く飛んだぬしちゃんに魔蛇の巨大な顎が飛び掛かり飲み込もうとしだしたのだ。
その大きな口が災いか、向かってきた顎目掛けてぬしちゃんの手裏剣が投擲され、喰らい、口の中で闇の爆発が起き、もがいて暴れだす。
だが、大うねりをする尾が偶然にも着地しようとした小さな体に・・・直撃した。
吹き飛ばされる直前に何か持ち物にぶつかったのか、二度目の闇の爆発が巻き起こり、魔蛇は苦しみから逃れようとするあまりに、醜い叫び声を上げながら重い頭から土俵へと大岩のように転がり落ちる。
『大気よ!風よ!包み浮かばせろっ!!』
岩の残骸の影から走り込んできた風使いが魔術を唱えると、土俵へと吹き飛ばされたぬしちゃんの身体がやんわりと緩やかなものに変わり風のベッドで運ばれてるように落ちてくる。
咲は・・・どうすればいいのだろう。血が飛んでいるように、見えた。白き髪と同じように頭の中も真っ白だ。
「お願いっ!!受け止めてぇ!!」
風使いが叫ぶ。
「うぁおあああああっ!!!!」
身体で応えたのは小石を蹴飛ばし、邪魔な残骸を越えて叫びながら飛び込むは青き装備を纏う、弓使い。紅葉が揺れ落ちるが如く落ちる少女へと飛び、その身で受け止めた。
だが、ぬしちゃんは微動だにしない。宝物でも抱きかかえる弓使いの両腕から赤い液体が滴っている。
「ぬし!?め、眼を開けてくれ!!」
「ゆ、揺らさないで!急いで奇跡を・・・!!」
落ち着きとは無縁となり慌てる弓使いと、急ぎながらその彼を抑える風使い。
人間大の太い鞭にしばき倒される痛みとはどれほどのものか。ゴム毬が弾むように浮き、受け止めたその体は・・・。
心配などさせる時間など、与える情は魔蛇に無いのだが。
ぎゅららララらRARARARAっっっっ!!!!???
「離れなければ・・・!」
「と、とにかく岩陰に!」
魔蛇は自身の重さで辺り一帯に散らばる岩の数々を大地ごと砕き抉り、大きく轟々しい息遣いを上げながら赤く濁った2つの宝石でこちらを睨んでいる。
獣の表情など読む事などできない・・・が。
「っ!!」
「うそっっ!?」
距離だけでも取ろうと離れようとした2人に岩の弾丸が襲い掛かり、形は大小問わない。
魔蛇はその長く太い尾を土俵の瓦礫、砂利、岩、全てを運ぶように払い、その残骸が無差別にこちらへと飛び込んできたのだ。
その巨体を持ちながらにして奴は・・・怒りに混じった恐怖したのだ。故の手を使わない投石方法。
弓使いは身に降りかかる石の弾丸に背を向けて身を低くかがみだす。胸の内にいる子供に被害が及ばないように。
『出なさいよっ!!』
自ら弓使いの前へとかばう様に躍り出て、信仰の欠片も感じさせない風使いの守護の奇跡が発動された。展開された薄っぺらい壁の向きを斜めに構え、襲い掛かる石の弾丸をどうにか反らす。
「どぁ!?あんだ!!?」
爆風でも起きたような石の波紋はあまりに無差別。
離れで大蛇と剣士にも襲い掛かるがどれで何が直撃したかはここからでは定かではない。
「次が来るぞっ!!」
「またっ・・・!!」
左から右へと1撃目に払いきれなかった岩の残骸を、右から左へとさらに振り払い2撃目が襲い掛かる。
このままではまるで動けない。剣士は武装で平気かもしれないが、砂ぼこりが舞ってしまい咲ちゃんの姿が見えなくなってしまった。
風使いは再度守護の奇跡を発動させて飛来した石の弾丸を反らし、岩が砕けた。
「がっっ・・・!???」
不運にも砕けた石が挙動を変えて風使いの蟀谷へと衝突してしまう。
背後から、声が、ききとれない。
いしきが 遠のきそうだ
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最悪で最低。
世界から見放されたかのようにあたいの人生は暗かった。
10歳の時だったか。突然家から連れ出しては、あたいをここに預けた母の言った言葉を思い出す。
大丈夫。いつか帰ってくるから。生きててね。
それを信じたあたいは素直にずっと待っていた。帰ってくるまでずっとずっと。
女の子をパンと野菜しかない修道院なんかを預けた父母が、今では憎い。
預けられたあの日から、4年も経っていれば馬鹿だったあたいでも気がつくものだ。
捨てられたんだ・・・と。
「パンもーらい!」
ぁ・・・まただ。食事の時間が来るとこいつらはやってくる。
どうしてあたいの食べ物だけ持ってくのよ。
「お前顔が汚ぇし、一番年下じゃん。敬えよ」
「「「はははははははははははは」」」
最悪で最低。
やせっぽちで体質のせいか、目の隈が出来やすいこの顔が醜いのか。
ほんとこいつも、まわりのこいつらも死んじゃえばいいのに。
シスターも気づいてくれればいいのに。
・・・無理か。いつ倒れるかわからないおばあちゃん2人。
もうこの修道院は腐りかけている。こいつらや年老いたシスターのように。
明日にはパンすらでるかもわからないのに・・・。もう終わりだ。
・・・ある日、賊がやってきた。
どうやら食べ物と住処が欲しいらしい。初めて見た。鈍く輝く刃物が怖い。
いつものように独りぼっちの部屋で不貞寝をしている内に襲われたらしい。
みんな殺されちゃえばいいのに。
でも・・・どうせ、あたいも見つかったら同じ目に合うだろう。
・・・あ。 そうか。
残った食べ物持って、逃げればいい。そうすればあたいは生き延びて嫌な奴も全員死ぬ。それでいいじゃん。
いじめられるのが怖くて嫌なあまりに隠れることが得意になってたのか、意外にもあっさりと貴重な食料を盗んでは外に脱出することが叶ったのだ。
去り際にいじめていたあいつらと目もあった気がしたけれど・・・賊もそいつらも怖いから見捨てた。
ごめんね。
・・・ある日、衛兵がやってきた。
修道院を抜けだしたあたいは、帝国と呼ばれている国へと辿り着いたものの・・・軍事国家と名に付くように、冷たい場所だった。
奴隷と思われる者もいて怖いけれど・・・今のあたいはそれ以下だ。子供で、女で、顔も貧乏くさいあたいには仕事が見つからず・・・結局盗みを働くことで生き延びるしかなかった。
そんなことが長く続くわけがないのに。それでも1カ月はバレなかったけれど、そのツケは大きい。
鎧と権力を着込んだ男達には、無力だった。
ジメジメとして床が冷たい牢屋の中は、修道院よりひどい。拷問にでもかけられている男達の声が、怖い、怖い。
それによくわからないが、離れにいる軍のお偉いさんがあたいを見に来るという話になっていて、正直怖い。なんでわざわざ?
来なくていいのに。
そして・・・腐っているのは修道院だけではなかったらしい。看守の1人が他に仲間がいないのをいいことに、あたいの体に手を出してきたのだ。
なんで?どうして?
「骨ばっていて目元も汚いお前でも慰み者にはなるんだよ」
最悪で最低。
軍事国家の責務か任務か軍務とか、圧力で詰まりに詰まった鬱憤を発散させたいのだろう。
怖い、怖い!恐怖のあまりに暴れようとした結果、肘が男の顔面に・・・偶然にも的中した。
悶えている影の先には、迂闊なこの男のように開けた牢の扉。今しかない、こんなところはもう嫌だ。あたいは急いで飛び出し、脱獄をする。してしまった。
鎧の音が背後から聞こえてくるが、逃げ足の速さと手先の器用さだけは数少ない自慢だった。
もし・・・友達とかいたら、鬼ごっことか、活躍できたんだろうな。
・・・ある日、また山賊がやってきた。
荒い襤褸切れのような服のまま帝国から無一文のあたいは食べ物もない森の中、山賊に出会ってしまった。
いや・・・奴らには見覚えがある。少なくとも、あたいには、ある。
死んだ。もう死ぬんだ、あたい。
涙が出てきてしまう。目の隈と相まって醜くなる自分の姿が嫌で嫌で、泣かないように頑張っていたのに。
狼・・・だろうか?なめした獣の革の鎧を身に纏い、片手で持っている大きな斧のような巨体を持つ中年の男。露出している肌が毛だらけで、怖くて気持ち悪い。
「そういや俺らも奴隷が必要だなぁお前ら!」
山賊の頭と思われる大きな男の発言で、下っ端たちが大いに下卑た笑いで辺りが五月蠅くなる。
何も持っていないはずのあたいが殺されることはなかった。
今日からあたいは、こいつらの・・・奴隷だ。
どん底をにいた者からしてみれば、奴隷という身分は高尚なもので持ち前の器用さがこんなところで役に立った。
彼らの言う奴隷とは当然正式なものなわけがなく、炊事洗濯に時には斥候のような危険な事をやらされるが、食料にはありつける。残飯ばかりだが、何もないより・・・マシだ。
まあ、正式な奴隷というのも不思議な言葉ではあるのだが。
それと、自分でも驚いたが奇跡の力が扱えるようになっていたことに気がついて賊たちも驚いていた。使うような機会もタイミングも無かっただけで、これまでも使えていたのだろうか?
4つ目に覚える癒しの奇跡も扱えたと知った時は、嬉しさからか少しだけ心が安らぐような感じがしたと思う・・・力は弱弱しいが。
そのせいかますます仕事が増えるのだが、残飯から肉の切れ端くらいには待遇は良くなった。・・・服は帝国から抜け出したときの襤褸切れのままであり、何度も縫い直しては自身の命のように布同士繋ぎ合わせている。
飼い犬のようにしっぽをを振ってよいしょをしていればこいつらは機嫌がすぐによくなって、扱いこそ酷いが体を打たれるようなこともなかったが・・・
「鳥の足みてーなお前の身体じゃ出るもんも出ねえよ!」
最悪で最低。
やっぱりというか、男はどいつもこいつもろくでなし。そう思えるくらいには人生だけでなく、男運にも恵まれてなかったという事だろう。
手を出してこないだけ、帝国にいた男よりは幾分か救いではあるが・・・それでも怖い。
だが、あたいのボロクソな人生は失うだけではない。
この賊たちのご機嫌取りをするついでに技術を盗んでやった。鍵開け、スリ、身の潜め方、どうしたら人を小馬鹿にできるかを学ぶことができた。
それに、王国にはあたいのいた修道院をまとめたような教会がある事も聞きだせたのだ。こんな生活をするくらいならそこに駆け込んだほうが・・・良いかもしれない。たぶん。
気になることがあるとすれば・・・妙な事に こいつらは帝国と関わりがあるらしいけれど・・・あたいには関係無いだろう。
死ぬほど、怖いけど・・・いつか、いつか抜け出してやる。
・・・ある日、よくわからない2人組が来た。
それは山賊の奴隷としての生活から97日目・・・だろう。川で布に跡が取れないほどに固まった血を洗い落とし根城にしていた洞窟に戻った時のことだ。
付き添いもおらず、狼にでも襲われたらどうしようと怖がりながら帰ったあたいを待っていたのは、帝国とは違う兵士のような鎧を着込んだ・・・多分男と安っぽい鎧を着たガタイの良い男の2人だけで、賊の姿はない。
「お前は奴らの仲間か?」
ひっ・・・!?
全身鎧の男は容赦なくあたいの喉元に鋼の剣を突き立て、苦戦しながら汚れを洗い落とした洗濯物がゴトリと落ち、土でまた汚れてしまう。
兜のスリットから見えてしまった鋭い眼光と目が合ってしまい、身体が震えてしまう。剣だけではなく、その背に見える弓が自分を見逃さないだろう。
奥を見れば・・・賊達だけではない。やつらが行商人強奪した盗品から何まで何もかもが無くなっている。あるのは外の離れに干していた魚の干物くらいであり・・・つまり。
心の中で、嘲るような声がする。
捨てられたのだ。残された干物と同じように。抜け出そうとしなくても抜け出せたではないか。
違う・・・投げられた。
使い捨てのゴミとなった自分の顔が、酷く、醜く歪ませて・・・あたいは泣いた。
最悪で最低。
もう嫌だ。こんな人生。この世界には・・・居場所がない。
「ば、馬鹿お前馬鹿か!?ただのガキだろうが!!」
剣を突き出している全身鎧の男の剣を革の籠手の付いた手で払い除け、仲間と思われる1人の男が遮った。
突如現れた大きな鉄板のような剣に驚いたが・・・その拍子で溢れた波が止まってしまった。
「どう見ても使いっぱしりだろ!?んな相手に剣向けてんじゃねぇよてめぇ!」
「馬鹿はお前だ。刃物を隠し持っていたらどうする?」
「いやいやいや!そんならこいつ1人しかいないのもおかしいだろが!」
「・・・まさか、挟み撃ちにする作戦か?」
「さっき洞窟の奥まで見にいっただろーがなんもかんもねーよ!」
何だろう。揉めているようにも見えるが、意図がまるで読めない。何をしているのだろうか。
「・・・依頼主に対してその態度は許せん」
「おまっ!?さっきまで「私語で構わん」とか言ってたろ!?」
「うるさい」
「あーーーはいはい。とにかく話だけでも聞きませんか?兵士様」
「っふ・・・似合わんな」
「賊よりてめぇを先にぶっ倒してやろうか!?」
「剣しか使えんお前に俺が負けるわけがないだろう」
「言ったな?言ったな!?頭に被ったそのバケツ落としてやらぁっ!!!」
え・・・・と。え、なに。
来て早々仲間割れをし出し、目の前で決闘を始めて初対面の2人を止める手立ても、理由も、逃げる算段すら今のあたいにも思いつかず、ただ眺めることしかできなかった。
お互いが腰に携えた剣同士を使った決闘は弓を持った男の辛勝で終わり、惜しくも敗北した大剣を背中に背負った男は悔しそうにでかい声で叫んでいた。
もし彼らが得意としていそうな武器、弓と大剣がぶつかればどうなるのだろうか?・・・弓がぶつかるというのも変な話ではあるが、まあ・・・とにかくこの2人は仲が良いのか悪いのかは判断ができない。
こちらの事情を説明すると、剣士と呼ばれる男は背中をこちらに向き始め何故か天を仰いでいる。一体どうしたのだろうか?
その彼を気にせずに全身鎧の男も事情を話してくれるが、声色は打って変わり柔らかいものとなっていた。
この場所は王国寄りにある森の中だったらしく全身鎧の男は任務で山賊討伐へと森に出た王国の兵士とのことだ。戦力の増強も兼ねて依頼として同伴したのが口の悪い男だったという。
「君を王国まで護送する。討伐は・・・諦めるか」
「は?気持ちはわかるけどよ、お前はどうなんだよ?クビになんじゃね?」
「お前が気にすることじゃない。黙って従え、負け犬」
「ちくしょぉおぉおおお!!!」
騒ぎ出しながらも帰路の準備を始め出す男達を見ていて・・・クスリ、とつい笑みがこぼれてしまった。
ああ、笑えたんだ。媚びへつらったヘラヘラとした笑いなんかと違う。
人生で・・・家族だった人と過ごした時以来。その間・・・5年。
隈の付いた嫌いなこの顔が、初めて涙以外に零れるものが生まれた。
15歳になったあたいの心に、温かいものが湧き始めたのだ。
王国へと到着したあたいは教会へと無事に預けられ、そこで祈りの儀という儀式で風魔法に適正があると見いだされる。
この時にから、あたいはあたしに変わっていたのだろう。田舎臭いのが恥ずかしかったからかもしれない。
他の属性とは違うのは、直接ぶつける力こそ少なく相手によっては無力だが、何かと便利な補助魔法が使える・・・まるであたしみたいな魔法でちょっと笑えてしまう。
ただ、元となる媒体がほとんどが大気なだけに詠唱の手間が他と比べ遥かに楽なのも強みときた。
本当に、何も持たないあたしにはお似合いだ。
・・・ある日、教会に剣士がやってきた。
今のあたしには前のような影はほとんど無くなっており、奇跡が扱えた時よりも驚いたことだ。
今では教会で手先が器用な女の子で通っている。・・・調子に乗って叱られることもあるが、この教会を通して、あたしにも人並みの生活を得ることができたのだ。
その教会に訪れたのは1年前に助けてくれた、背中に大剣を背負っている方の彼だ。
見間違えるわけがない。どうしたのだろうか?
「お!いた!お前を探してたんだよ!」
え?あたしを?
なんか、えっと・・・嬉しい。
救い出してくれたあの日から音沙汰がなく、忘れられたかと思っていたから・・・尚更だ。
正直、自身を庇ってくれたのは彼が最初であり、印象がとても強く残っている。全身鎧の方は話こそ通じる良い人だったとは思うが、通じるまでの道のりを剣士の彼が作ってくれたのだ。
「さっき外で聞いたんだけどお前、風の魔法使えるんだってか?」
「は、はい!」
「まじか!俺の手に負えない仕事があってよ!お前だけが頼りなんだ・・・頼む!助けてくれ!!」
剣を扱う彼が困るほどの仕事がどんなものか少し怖くもなったが、それよりも勝るほどに胸に温かいものが宿るのをあたしは感じていた。
この人なら、信じてもいいかもしれない。
「はい!喜んで!」
そう快く引き受けた依頼が、まさか大量の洗濯物の乾燥させる事だとは思いもしなかったが。何を引き受けてんだろうこの人。
確かにその手には負えないだろう。剣を振っては負うのはシーツの方だろうから。
というより、ずっと1人でいるのが気になって聞いてみたら・・・
「どこのどいつと組んでも喧嘩ばっかになっちまって入れてくんねぇのなんのって!」
多分、原因はこの人だ。実際に目の前で見せられていたし。短気は損気と聞くけれど、それだ。
言動こそどうあれ、あの時一緒にいた全身鎧の人は、よほど寛容だったと褒めるべきか。わざわざ喧嘩を引き受けたのだから。
口は悪くてガサツで目つきも怖く体格は良いけれど それが輪をかけてしまいこの剣士は評判が悪くしていると後になって知ったことだ。
その上、腕っぷしが立つから余計に質が悪い。焼きが回ったのか洗濯の依頼を引き受けるほど惨めな末路を辿っていたという。
最悪で最低・・・でも、ないかな。うん。
なんというか、本当の普通の人なんだ、この人は。
「これからも・・・あたしが、ついてってあげようか?」
あたいだったあたしを庇って助けてくれた、ちょっと残念な男。
男運は悪いあたしだけれど・・・この人となら、落ちぶれたとしてもいいのかもしれない。
今まで出会った男の中で、初めて・・・自ら背中を見せてくれた人だったから。
一目ぼれ、では無いと思う。・・・きっとね。
あたいは値の無い存在だったけれど、あたしとなった今では長い時を経てしっかりと根がついたのだ。
まだ茎も伸び始めたばかりで、葉も青臭いけれど、腐り落ちたあたいが肥料となったように・・・あたしが芽吹いてくれた。
そんな自分を、最悪で最低だなんて・・・思うわけがないんだから!
いつも読んでくださってありがとうございます
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