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第45話 祭り

 街へ向かうと言ったものの、PHの多さは数万を越える。たどり着くのにも一苦労だ。どうにかキョテントを設置しておきたい。


 連携がとれているかは微妙だが、集団で行動するPHは脅威だ。それでも数でいえばこちらが有利だ。なぜなら連携力で負けると思っていないからだ。


 考える時間がないくらいにPHは襲いかかってくる。持っている武器は剣や槍、斧と様々だが、あのタンクくんのように粘着力に勝てるものは少ない。MPの多い俺たちにとっては糸を使うことは優位性のもっとも高い攻撃ともいえる。というか主な攻撃手段だ。


 何を言っているのかわからないのがほとんどだが、どんなことを言いたいのか、顔を見たら大体わかる。きっと「俺の装備返せ」とかそんなものだろう。残念ながら売るかあげるかして持ち合わせていないのだよ。


 糸を編み込み、細く長い縄のような糸を作り出し、それに拾った槍を取り付ける。槍は持ち上げ、狙いを定める。狙うは魔法の詠唱を始める魔法使い。固定砲台と化した魔法使いが街を守る壁に立っていると邪魔で仕方がない。


 槍を空に投げ飛ばし、それと同時に縄に繋がる糸玉を周りのPHに引っ付ける。ちょっと嫌がらせに思い付いたが、予想以上に上手くいった。


 槍はスキルによって命中補正をされ、壁に棒立ちしていたPHに突き刺さった。そして糸玉をつけたPHは槍に引っ張られて一瞬浮き、身体の重さで糸玉が外れ、地面に叩きつけられた。


 その隙に投網の要領で糸を飛ばして地面に絡み付ける。他のPHも一緒なので協力しないと逃げられる仕様だ。まだ立ってるPHに対して新しく作った魔法をお見舞いする。


 「闇雲(ブラインド)


 自身の周りに闇の霧を発生させて視界を悪くする。周りをキョロキョロしないやつは夜目のスキルを持っているやつだ。つまり他は何も見えてないというわけだ。そこに触れてもあんまり気付かれない糸玉を張り付けていく。


 地面に伏せた者にも張り付け、準備万端。俺はその場から街の方へ駆ける。その手には糸玉から伸びる縄を持っている。それを地面に置き、火矢(ファイアアロー)を縄に放ち、引火させる。


 火は縄の先にいるPHを燃やす。これで倒せると思っていないが、それなりにダメージを食らうはずだ。


 「次の…っ」


 街の方へ歩み出す瞬間、剣を振り下ろす音が聞こえ、感覚で横に避けた。振り返ると装備に焦げ目をつけ、真っ黒な剣を持った中二病全開の双剣の男がいた。こちらが気付いたことで攻撃は激化した。


 振り下ろされれば横へ、横から来れば後ろへ。上に飛べばもう片方の剣でダメージを食らう。子蜘蛛が援護で他のPHを寄せ付けないために魔法や糸で牽制を行う。糸に絡まれば魔法が必中で当たるのでPHも避けるのに必死だ。


 「そろそろっ…反撃…おっと、する…か!」


 避けながらパターンを把握していく。人間は意外と攻撃パターン決まってる。話すときもスポーツをするときも癖がある。この展開ならこれをみたいなのがある。それはゲームも同じ。特にこのゲームは必殺技というものはない。身体を勝手に動かすようなスキルもない。


 つまり、独自に考えて動く必要がある。そしてよっぽど武術を嗜んでない限りは適当だ。だから隙も大きい。その点、蜘蛛の俺にそんなものは必要ない。ただ本能のままにやればいいだけだ。


 「糸はな、どこからでも出せるんだよ!」


 「◆●▼◎●☆▼っ!?」


 振り下ろされた瞬間に横に避けながら糸を剣にかける。それに土礫(アースバレット)を飛ばして刃物から鈍器に変える。筋力よりも速度に振り分けられたステータスのはずだから、剣が重くなれば持てない。


 だが、それを考慮していたかのように剣を手放して短剣に持ち変えた。そんなことだと思っていた。だからな、この剣はもらっていくよ。


 俺は糸のついた剣を持って街とは反対側へ投げ飛ばした。狙いは寛いでいるカレー炒飯。剣が飛んでいくのを呆然と見る元持ち主。


 「隙だらけだよ」


 顔面に糸を飛ばして身体を拘束する。そのまま止めを刺して、次の獲物を求めて街へ向かう。PHも多いがNPMも多い、戦う隙間を縫って街へ辿り着く魔物数知れず、街の間近は戦いが続いている。


 倒しても倒しても森の方から魔物が押し寄せる。俺が見たことのない魔物がたくさんいるのはキョテント移動ばかりしていたからだろう。そんな魔物は今回は味方なので、俺はスルーされて街へ突進する。


 街に近づいてわかったことがある。街には結界が張られ、そこから先には入れないようになっている。結界は魔物が攻撃する度に音をたてて今にも壊れそうな勢いだ。


 魔物は入れないが人は入れる仕様で、結界の中からの魔法は届くが街の外からの魔法は結界にぶつかるみたいだ。そういうことなら簡単だ。離れた場所から魔法を撃ちまくればいい。


 方針が決まった俺たちは街から離れてお土産のPHを引き摺りながらカレー炒飯のもとへ向かう。


 「ただいま」


 「おか…ただいまじゃねぇよ!お前のところから剣飛んできて危うく死にかけただわっ!」


 「ごめんごめん、当てる気はなかったよ」


 「本当か?」


 「あぁ」


 「なら、許そう」


 本当は当てる気だったが、まぁよしとしよう。


 「それで、どうだった?」


 「街は結界に囲まれてたよ。おそらく俺たちはあれを壊すのが目的なんじゃないかな」


 「そうなのか?PHを根絶やしにするのが勝利条件かと思ってたわ」


 間違えてはいないが、それはそれで大変そうだと思うけどね。


 「俺たちは魔法で結界を攻撃するから、カレー炒飯は街の周囲のPHを倒しつつ、結界に攻撃してくれないか?」


 「いいぞ、腹ごしらえもすんだしな。食後の運動にはちょうどいい」


 「それじゃあ、僕もいくよ」


 そう言って話に入ってきたのはカルトだ。なんだかホクホクした様子で後ろにはクナトもいて、剣を地面に刺した状態で待機する数百の騎士がいた。


 「あら?面白そうなことしてるじゃない。私も混ぜてよ」


 森からのっそり出てきたのは蛇とはもう言えないほど大きく美しくなったマルノミがいた。その頭の上には真っ黒な人がいた。


 「自分も混ぜてほしいっす」


 喋り方からしてジンだと思うが、真っ黒すぎてよくわからない姿をしている。その後ろにぼやけた人がいた。


 「俺もいれろ」


 「あら、クロードったら入れるだなんて…まだお昼よ」


 「てめぇじゃねえよ!」


 ぼやけた人に続いて女の人が出てきた。肩にはスライムがいて、おそらくあのスライムは味噌汁ご飯だが、女の人は誰だ。


 「お姉様の次は私よ!」


 「だからやらねぇよ!」


 「ヤるだなんてそんな…まだお昼よ」


 「だからそっちじゃねぇよ!」


 あのスライムからジュリアーナの声がして、女の人から味噌汁ご飯の声がした。つまりは女の人が味噌汁ご飯?え?ええ?


 進化したら姿が変わるのはわかるが、変わりすぎだと思う。もはや別人だ。中身は同じだとしても違和感しか感じない。


 「八雲さん、久しぶりっすね」


 「ジンも元気そうだね」


 「はいっす」


 ジンは真っ黒だが、近くから見ればそれは羽毛でもこもこしていた。ジンは確か群衆烏(クラウドクロウ)というカラスの魔物だったが、今は烏人間といったところか。顔もカラスのそれだ。妖怪で言えば烏天狗か。


 「ジンと仲良くしてくれてありがとな」


 ジンとの話しているとぼやけた人が突然お礼をしてきた。確かこの人?はクロードという名前の人だった。話したことはないが、おかしな人ではないらしい。


 「ジンとは遊んだのは少ないけど、俺は友達だと思ってるから」


 「ほんとっすか!」


 「うん、友達」


 「やったっす!お兄さん、友達できたっすぅ…うわっ!」


 友達という言葉に思った以上に喜んだジンはクロードに抱きついたが、ぼやけた人に触れることができず、地面に顔からスライディングした。クロードも抱きつかれると思っていなかったのか、身体をすり抜けて転んだジンを二度見していた。


 「大丈夫か?」


 「だ、大丈夫っす…」


 カラスの頭だからか地面にくちばしを突き刺し、海老反りしてお腹を地面に叩きつけていた。どう見ても大丈夫そうには見えないが、本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。


 大丈夫じゃないのはジンの姉だろう。先程まで穏やかな表情で俺達を眺めていたが、ジンが転んでからは険しい表情でクロードを睨み付けていた。それに気付いたクロードは幽霊なのに青い顔をしていた。


 「大丈夫っすから、姉さんも落ち着いてほしいっす」


 「本当に?本当に大丈夫かしら?」


 「平気っす。だからお兄さんを怒らないでほしいっす」


 「ジンが言うなら…」


 マルノミはしおらしく丸まった。それにほっとしたクロードは手を合わせて俺に再びお礼を言ってきた。幽霊も合掌するんだな、と感心してしまった。しかしよくよく考えれば、クロードは現実では人間であり、普通の行動であった。そう考えると自分もこのゲームに毒されたと感じた。


 集まったPMの数は八人。その半数以上が群れの長や王だ。周囲はその配下で埋め尽くされている。日常的に触れ合うことの多い者もいれば、ほとんど会ったことのない者同士もいる。それでも長や王が仲の良い姿を見せると、自然と彼らは関わり始める。


 子蜘蛛たちとゴブリンたち、スケルトンたちは食事や装備の繋がりがあり、カラスと初めて見た(サーペント)の群れはどんな繋がりかはマルノミとジンを見ればなんとなくわかる。


 マルノミとジンのような姉弟ではないが、家族のような存在として認識している。それはカラスが蛇の頭の上で膨らんで眠っている様子を見れば一目瞭然だ。蛇の方は満更でも無さそうで、地面に横たわり、尻尾の先でカラスの身体を撫でるほどの仲のよさだ。


 うちの子蜘蛛たちはというと色んな魔物と触れ合うべく、辺りをうろちょろしている。中には豚のような魔物を背負って一緒に散策している者や、背中に翼を生やして滑空している子蜘蛛もいた。


 「ん?豚に翼?」


 「どうしたの?」


 「いや、なんか見覚えのある人を見た気がするけど、気のせいだったかも」


 「そういうことはよくあるよね。ところでさ」


 「なに、カルト?」


 「ユッケ知らない?」


 「今日はまだ見てないけど?」


 「そっかぁ。じゃあもしかしたら反対側から攻めてるのかもね」


 「反対側か。行ってないからわからないけど、俺が知らないPMもいるのかな?」


 「うーん、僕にはわからないよ。イベント始まってからずっとこっち側にいるからね」


 こっちとは反対側はあまり行ったことがない、というより街の近くにも行ったことがない。街を襲撃するイベントだけど観光したらいけないってことはないよね。


 「街にいけば会えるだろ」


 「そだね。なら、僕はそのための準備に取り掛かるよ。またあとでね」


 「あぁ」


 カルトを見送ってからは特に作戦を考えるといったこともなく、誰がどこに攻撃するから援護よろしくと言われた程度だ。どうやら俺たちは遊撃兼支援と扱われてるみたいだ。


 子蜘蛛たちを集合させるとお土産を渡されたので、一人一人撫でて褒めて抱き締めた。武器に関してはカレーに、アイテムは味噌汁ご飯が持っていった。食べ物は俺たちが食べるので譲らなかった。


 準備といってもそこまで大規模なものではないのですぐに終わった。俺たちに限ってはふらふらするアホの子蜘蛛を止まらせたり、ご飯食べたり遊んだりするだけで、準備といえるものでもなかった。


 攻略は夜から始まった。


 まず最初に向かうのは遊撃と偵察を兼ね備えたジンとマルノミだ。マルノミが率いる(サーペント)たちの大きさは様々で、小さいものはわずか50cmしかない。リアルでは大きい部類かもしれないが、ここでは小さい方だ。


 先遣隊はそれだけではない、ジンが率いるカラスは夜の闇に紛れ、空を飛べばどこにいるのか視界にいれてもわからないほどだ。そしてカラスが持っているものは味噌汁ご飯がつくった爆弾だ。どうやってつくったかは秘密らしい。


 爆弾だけなら優しい方という味噌汁ご飯が提案してきたのは俺たちの糸で網をつくり、それを空から落とそうとか、なんなら子蜘蛛や蛇を街に運ぼうというものだった。危険な死地へ連れていくのは本当は嫌だが、空を飛ぶことに乗り気な子蜘蛛たちは満更でもない。


 子蜘蛛たちが行きたいのなら何も言うまい。ただ危なかったら逃げることも選択肢の一つにすることを子蜘蛛たちにしっかりと注意した。子蜘蛛たちが空ではしゃぎまわっている様子を眺めながら、俺たちも出発した。


 速度には自信があったが、PMの配下にはもっとはやい者がいるとのことで、その人に乗って移動することになった。


 「どう?八雲。これが僕の秘策の一つだよ」


 そう言って披露されたのは巨大な蛇の骸骨だった。


 「これってさ…」


 「そう、さすが八雲だね。これはマルノミの骸骨だね。スキルのレベル上げの手伝いのお礼に貰ったんだ」


 「スキル?」


 「僕たちってさ、骨でしょ?だからね、噛み応えがすごくあるんだ」


 恐ろしい話を聞いてしまった。お互いに身を削りすぎだよ。噛み応えってことはつまりカルトはマルノミに齧られたってことだろ。レベル上げるのにそこまでするのかよ。


 「よく考えてみなよ。マルノミみたいなお姉さんに食べられるんだよ。悪くないでしょ?」


 こいつ、なにいってんだ。


 「ははっ、八雲もそういう顔するんだね。もしマルノミがおじさんだったら引き受ける気はなかったよ」


 「そりゃあそうだろ」


 「やっぱり八雲もそうでしょ。それに食べられたって言っても切り離した腕だから感覚はないよ?」


 そう言ってカルトはニヤついた。つまりカルトに騙されたって訳だ。


 「でもさ、マルノミは遺体を渡してるんだし、どう考えてもマルノミの方が不利益じゃない?」


 「そこはレベル上げに付き合ったり色々してるよ。割りに合わないからね。そろそろ行くよ。後ろも詰まってるから」


 振り返るとなぜか御輿を担いだ鬼たちがいまかいまかと「わっしょいわっしょい」言いながら立ち止まっていた。これ、そういうイベントじゃあないんだけどな。ちなみにカレーは御輿の上で仁王立ちしていた。


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[一言] 相変わらず個性的すぎる
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