建設ラッシュへの追い風
前回のあらすじ
ザグエリ王国からストロー宰相がやってきました。
フェグレー将軍と共に死ぬ覚悟と聞いて、動揺したワドはギルドマスターを呼びました。
「な、なんですと!?」
ストローはめちゃくちゃ驚いていたな。
ルクルが子供に見えるからなのかと思って、紹介しようとしたら、ストローとルクルの会話が先に始まったんだ。
「ルクル君……いえ、貴方がギルドマスターなのですかルクル様?」
「様付けはこそばゆいですよー、ストローおじさん」
「ただの少年では無さそうとは思ってましたが……そうですか……貴方が……」
あれ?なんか既に知り合いっぽいぞ?その疑問をアルが聞いた。
「ストロー宰相殿は既にルクルとの面識がお有りでしょうか?」
「はい、フウカナット村で良くして頂きました」
「ま、最初に来るのはフウカナット村と分かってたしねー」
伝令が呼びに行ってから、ここに来るまでが早かった理由も分かった。フウカナット村からストローをここまで案内したのがルクルとジャックだったよ。
ルクルはザグエリ王国の貴族だと知っていたみたいで、危険性を先にジャックに調査させていたとの事。それに日常会話の中から情報収集していたようだね。
「王都での惨劇がルクル様の指示だったとは驚きました……見かけによらず、恐ろしい人ですわ」
「市街地にあれほどの被害を出す予定は無かったんですよー。どっかのドラゴンがやり過ぎたんでー」
「ふー……ふゅー……」
僕は口笛を吹いて誤魔化そうとしたけど、巧く鳴らなかった。少しずつ練習はしているんだけどさ、まだ50%くらいの成功率だよ。焦るとだいたい失敗するし……あ、ルクルにジト目で見られた。
「それでも俺らのせいで、ストロー宰相殿と一部の貴族に皺寄せがいってるのは、本意ではありません。それでご相談したいなーと」
「どんなご相談でしょう?」
「大俳優に転職しませんー?」
「俳優……ですか?」
ストローが全く分かって無さそうな反応をしていたから、僕は注意点だけ急いで伝えた。
「ストロー宰相!ルクルは鬼畜だから気を付けてね!頑張って!」
僕はサムズアップして応援しといた。アルとリゼは僕の発言にゆっくりと頷いていたよ。ルクルだけが笑顔で僕を睨んでいる。笑顔で睨むなんて器用な事するよね。僕、悪くないから!
「ワド君?誰が鬼畜なのかなー?もう一度言ってくれるー?」
「アル!リゼ!弁護して!」
二人は視線を合わせようともせず、黙り込む。
「ちょっと!黙秘権はヤメテ!」
僕らが普段のやり取りをしていたら、ふいにストローが笑ったよ。
「ふふっ……あ、失礼しました。フレンドリーな神様と伺っておりましたが……こう言う事ですか」
「ま、まぁね!(ドヤァ)」
「先ほどの転職について仔細をお伺いしたいです」
ルクルが計画の全容を語った。何それ?俳優じゃなくてペテン師じゃん。そんなん呑むわけないよと思い周囲を見渡すと、皆の表情は真剣だったんで驚いた。
「凄いわな!そら確かに大俳優ですわ!」
「えと、僕はペテン師にしか思えないけど?」
「そうね……世界中を騙す大ペテン師なの」
「ストロー宰相殿が狂人という評価になりません?」
ストローは、言葉が崩れていたのにも気づかないくらい計画に興奮していたな。リゼは僕に同意してくれた。やっぱりペテン師だよね?アルはストローの評判を気にしていたよ。
「かまへん!狂人と呼ばれるだけで多くの命が助かるんなら本望や!あ、失礼……興奮しすぎましたわ」
「これを演じきるのは大変ですの」
「やったりますわ!どうせ死ぬくらいならピエロでもなんでも演じますわ!あ、失礼……」
「ストロー、言葉崩してOK。僕は気にしないから」
演技についてアレコレ話をしていたら、突然ドアが勢いよく開けられた。
……バン!
「吾輩、参上にゃん!おう、話は聞かせて貰ったにゃん!演技指導は任せろにゃん!」
「え?トスィーテちゃんー!?って色が違うようなー?」
突然に緑が押し入って来たよ。衛兵が困り果てていた。ルクルだけはトスィーテちゃんと面識あるから混乱している。
「おう、お前がルクルだな!吾輩はガトーにゃん!名付けてくれて感謝するぞにゃん」
「あ、こちら元[緑]のガトーだよ。風の一柱で、インビジブルドラゴンって呼ばれてるんだ」
「神様が二柱も……ハハハ……笑うしかない」
ストローは乾いた笑いを浮かべていた。
ガトーはいちいち喋る度に謎のポーズを決めている。
……って、あれ僕が【伝心】で見せたやつか。
「で、トスィーテちゃんの合格は出たの?」
「出てなきゃここにいるわけ無いだろ?トスィーテは怒ると怖ぇんだぞにゃん!」
「なるほどねー。じゃあ重機が二台になったって事だねー。さっそくボンに計画の前倒しを伝えとくー」
(くそー、ガトーが来たから僕も含めてブラック重機確定だよ)
「重機とはなんだにゃん?吾輩にも説明しろよにゃん!」
「ほ~ら、ワドのせいでこんな面白口調のトスィーテちゃんが出来ちゃったよー?責任取ってよねー」
「重機は頑張るよ!ガトー、伝心で説明するから移動しよう。ストローは演技頑張って!」
僕はガトーを連れて、そそくさとボンの所に移動した。移動しながら、合格をもぎ取った変身バンクについて質問する。
「で、雲ガードにしたの?」
「アドバイスはサンキューだぞにゃん!でも雲ガードは合格出なかったんだにゃん!」
「雲ガードは何がダメだったん?」
ガトーに聞いたら、雲がない日や降りてくる時に、スカートがめくれるからNGを喰らったそうだ。
厳しいなぁ~トスィーテちゃんは。下着が見えてもNGって厳し過ぎるよ。
ボンは屋外の作業場にいるから、そこまで変身バンクのことを質問したけど中々教えてくれない。
「広い所でお披露目するから待ってろにゃん」
なんだよ、勿体ぶっちゃってさ。
どうせ僕が【伝心】で見せた特撮から参考にしているんでしょ?
女児アニメの方も参考に見せたけど、食い付きが違っていたからなぁ。
屋外の作業場から、少し離れた所で披露してくれる事になったよ。
「では!行くぞにゃん!」
「おー!(パチパチパチ)」
「おー!って何が始まるんでやすか!?あっし聞いて無いんですけど?」
「変!身!」
何も聞いていなくてもノッてくれるボンは有り難いなぁ。おっとハジマタ。
ガトーは軽くジャンプして体育座りのような状態でクルリと回った。スカートがめくれないようにしっかりと足を抱え込んでいる。すると竜巻が発生して一気に上空まで飛んでいった。それから腕を広げて、足は女性のクロス立ちのような状態。
なんでスカートめくれないんだろ?
あ、ガトーが風で押さえつけているのか!
お、竜巻が球状に変化してガトーを包み込んだよ。球状の竜巻はドンドン巨大化していく。
(あれ?んんん!?球状の中にいたガトーが消えたんだけど?)
その直後、突風が吹いた。
そこには、トスィーテちゃんの服を畳んで摘まんだガトーが、本来の見えないドラゴン状態でいたよ。
というか、トスィーテちゃんの畳んだ服が浮いているシュールな絵面だよ。
「どうだ!驚いただろにゃん!」
「ね、どうやって消えたの?」
「カルカン経由でルクルからアドバイス貰ったのだにゃん!」
どうやらカルカンの自宅にあった私物から、マナを特定して【伝心】をカルカンとトスィーテちゃんとで繋いだらしい。カルカンが風を使った光ガードの代用案をルクルに聞いて完成したとの事。
ガトーの事はルクルに伏せて聞いたみたいだね。
「蜃気楼の自然法則の応用で、下からみたら透明に見えるように調整したぞにゃん」
「あれって温度差じゃ無かったっけ?」
「厳密には空気の密度差での、光の屈折だとルクルが言ってたぞにゃん」
(そうだったのか……ん?光の屈折?)
「変!身!」
僕はガトーの動きを完コピトレースして、空気圧を使わずに光を直接屈折させてみた。
「おーい!ボンー!僕も透明になったー?」
「はいー!ワールドン様もー!透明になりやしたぜー!」
遥か下にいるボンに、大声で巧くできたか聞いてみた。どうやら大成功だよ。
「ななな、なんで一発で成功するんだにゃん!吾輩はめちゃくちゃ苦労したのにズルいぞにゃん!」
「ふふん、光の現象の操作は僕の専門分野なのさ!(ドヤァ)」
「お二人共ー!作業のー!説明をしやすんでー!降りてきて下さいっすー!」
僕とガトーは逆再生で人形態に戻った。
ガトーは着地後にポーズを決めて「吾輩!参上!クライマックスにゃん!」って決め台詞付きだった。
それからボンに作業内容を聞いたけど、めっちゃ大量に運ぶみたいでゲンナリするよ。しかも、加工作業も手伝わされるみたい。補足事項の説明が続く。
「って訳で、ガトー様には緑の最高品質マナ鉱石にするのもお願いしやすぜ」
「何に使うのだにゃん?」
「風車の羽根に使うと聞いてやすぜ」
どうやら効率の良い風車を作るらしい。足踏み水車の動力源を風車に置き換えたり、麦を挽いたりと色々と必要だそうだよ。
「いやー、資材が大きすぎて、あっしらにはキツかったんですが重機が二台になって助かりやした」
「僕、頑張るよ……」
「それでこの作業を今日はいつまでやるのだにゃん?夕方か?日没か?にゃん?」
僕は生暖かい視線を、ボンは心底信じられないといった視線をガトーに注いだ。
「ガトー様はすげーっすね。あっしは、旦那やお嬢に逆らうなんて考えられないっす」
「ん?どういう事だにゃん?」
「ガトー……終わるまでが1日なんだよ……」
状況が飲み込めて無い系の猫魔族女子と化しているガトーに、作業が終わるまで不眠不休だと説明した。
「おいっ!食事休憩も無いのかよにゃん!しかもこの作業は何日もかかるぞにゃん!」
「そだよ、だからルクルは鬼畜って言ったでしょ?」
「ワールドン!一緒に抗議するぞにゃん!」
僕は悲しい笑みを浮かべながらガトーを諭す。
「ルクルに逆らうのはリゼに逆らうのと同義なんだ」
「さっきいた黒髪の女だろにゃん?」
「そう。リゼはね……僕らですら殺す事が出来るんだ」
「おい、それ本当なのかにゃん!?」
僕はニコリと笑った。
ついに緑がやってきてしまいました。
重機が二台になりました!これで建設が進むよ!
次回は「船舶コンテスト」です。




