秘密の特使
前回のあらすじ
外回りから帰ってきたら、水浸しになるのを求められて部屋に釘付けのワド。
リゼ&エリーゼから提案されて、マイティとリッツの誕生節のお祝いをする事になりました。
でも、プレゼントが何やらおかしいです。
さてと、エリーゼを尋問しないとね。
「リッツへのプレゼントの服……アレは何なん!?」
「あれはルクルに聞いた防護服ですわ!まだ人でいたいリッツの為に、異世界の防護服を頑張って用意しましたわ!」
「……シュコー……シュコー……」
あれって放射線防護服だよね?放射能のマークついているし……僕って汚染物の扱いなん?結構さ、傷付くんだけど?
【伝心】でリッツを読み取ってみたら、あの服で喜んでいるんだよな。複雑な心境だよ。
「リッツはその服でいいんだね?」
「……シュコー……」
「な、ならいいんだ!」
リッツは人でいられる事と、ルクル考案の服ってのが嬉しいみたいだからスルーするよ!
「それでさ、マイティの水着はなんなの?」
「もう一人のわたくしが、マイティの為に用意した水着ですわ!」
「んなこた分かってるよ!面積の問題なの!あれじゃ紐でしょ!?」
マイティもハードル高いって言っていたし、これは喜んで無いプレゼントだよ!
でも、エリーゼは何が悪いのか分かっていないようで聞き返してきた。
「わたくしも、マイティは喜ぶと思いますわ」
「ふぇ?そうなのマイティ?」
「いえ……これは流石に。でもお嬢様の贈り物ですから大事にはします」
「もう一人のわたくしから聞いたのですけど、マイティが好きな殿方はアルフォートでしょう?」
(ふぇ?なんですとー?)
僕は驚いてチラリとマイティの表情を見た。
特に変化なくていつものマイティだよ?あれ?【伝心】したらマジだった!
「マイティ!僕は応援するよ!」
「ワールドン様、心を覗くのは勘弁して下さいませ」
「……シュコー!シュコー!シュコー!」
リッツもこの事実に興奮しているみたいだけど、それを脱がないと皆は分かんないよ?
マイティは身分違いだから無理だと主張している。そこにエリーゼが口を挟んだ。
「ですけど、温泉宿で酔い潰れたアルフォートを介抱した時、素肌に触れて、我慢出来なくなったのでしょう?」
「お嬢様……やめて下さいませ」
「ワールドン様の部屋には幹部しか来ませんわ。子供のルクルや、猫魔族のカルカンに見られても平気でしょう?」
エリーゼが畳み掛ける。これはリゼの入れ知恵かな?
「それはそうですが……」
「アルフォートに見て貰って、手を出して貰えば既成事実で側室くらいは狙えますわ!」
「あの……その……」
マイティがめちゃ動揺しているよ。激レア!
……ってか、そういう事か。
リゼは無理にでもマイティの背を押してやりたかったみたい。なので僕はサラッと流した。
「あー、じゃあアルが来る時にマイティが着たかったら着るって事でいいよね?」
「ワールドン様……」
「はい!この話は終わりね!」
もう一つの贈り物はまともなんだな。アルは暖色系の色のドレスが好みらしくて、マイティにはオレンジ色のドレスをプレゼントしていた。リッツには、日記帳と便箋セットや文房具一式を贈っている。
そこに僕からの贈り物を手渡す。
「2人とも開けてみてよ!」
「こんな貴重な宝玉を頂いても良いのでしょうか?」
「シュコー!シュコー!シュシュコー!」
「いいんだ!僕は簡単に作れるからさ!」
ていうかリッツはそれいい加減に脱ごうよ?
ま、なんにせよプレゼントを喜んでくれて良かったよ。明日リゼにも聞いてみようと思った。
翌日の朝食をリゼと一緒に食べていた時、アルとマイティの事をサラッと質問してみる。
「所でリゼは、アルとマイティが上手くいきそうって思ってるの?」
「……ゴホッ……ゴホッ……」
「ん……そうね。8割くらいなとこかしら?」
この話題に後ろで控えていたマイティの方が、動揺してむせていたよ。でも結構勝率高いんだな。
「残り2割は?」
「……新しく連れて来た孤児達が、成長した数年後は危ないの。落とすなら今のうちなの」
詳しく話を聞いてみると、アルには特定の相手はいないとの事。女性関係は、トラウマもあって苦手であまり積極的ではないから、押せば落ちるらしい。
トラウマは姉のせいだよね?それくらい聞かなくても分かるよ?でもさ、僕もマイティに頑張って欲しいかな。
食後のティータイムを楽しんでいたら来客がきたよ。応接室で待って貰っている間に、体を拭いてドレスに着替える。
ザグエリ王国からの使者との事で、今日はアルも同席するんだとさ。
僕は茶目っ気たっぷりに、着替えを手伝ってくれているマイティをからかう。
「マイティもオレンジのドレスに着替えようよ!アルにお披露目しよう?」
「いえ、私は従者ですので……」
「じゃあさ、君主命令ね!ドレスで参加する事」
僕、初めて君主命令を使っちゃったよ。マイティは自制心とプロ意識が高いからね。背中を押してあげないと……ね。マイティが着替え終わるまで待ってから応接室へと向かった。
「はじめまして、僕はワールドン。この国の君主をやっているよ」
「お初にお目にかかりますワールドン様。私はザグエリ王国で宰相を務めております、ベコウ・ストローと申します」
「もう少し待ってね。宰相に相当する内閣総理大臣がこちらに向かってるから」
短く了承を示すストロー。
その後すぐに、オレンジのドレス姿のマイティがお茶を淹れてくれた。
それを見てストローが感嘆の言葉を零す。
「ワールドン様の国では従者にも、素晴らしいドレスを与えてはるんですね」
「ああ、彼女は特別だよ。でも、身分や年齢に関係なく、有能であれば要職に抜擢してるんだ」
「凄いですな。慣例や常識が邪魔をしてそこまで割り切った政策は、中々マネできませんわ」
(ん?常識知らずって事なのかな?)
発言の意図は分からないけど、感心しているのはどうやら本心のようだ。会話をしている間にリゼがアルを連れてきた。
「はじめまして、総理のアルフォートと申します」
「お初にお目にかかります、法務大臣のエリーゼと申します」
「私はザグエリ王国で宰相を務めております、ベコウ・ストローと申します。宜しくお願い致します」
挨拶も済んだので、軽く歓談してから外交の話をしようと思っていたんだ。今日はリゼの日だから外務大臣が不在だけど、不在の時は周囲が代行する事になっている。
だけど、ストローは最初から謝罪を申し出たよ。
「この度はミカド陛下が大変失礼をしました。深く謝罪させて頂きます」
ストローが語った謝罪と国の内情には驚いた。そんな話を外国でしても良いのか聞いてみたら、ザグエリ王国の重鎮にも、僕を支持している派閥があると伝えたかったそうだ。
「基本的には、ミカド陛下とトカプリコ元帥がワールドン様に反抗しております。逆らえずに従っている者や背面服従の者と様々です」
「討伐軍があると聞きましたが、そちらは?」
「フェグレー将軍が指揮しております。彼は親ワールドン様派です」
ミカド王と、トカプリコ元帥が僕を軽くみているらしい。
アルが討伐軍について質問していた。討伐軍を差し向ける事になっているけど、その指揮官は僕を支持しているフェグレーという人らしい。
(あー、なんか頭こんがらがってきたよ)
「進軍予定スケジュールをお伺いしても?」
「まだはっきりとはしてません。フェグレー将軍は入念な準備が必要と進言し、1年以上の準備期間をかけております」
「開戦は避けられませんの?」
アルがスケジュールを質問したけど、フェグレー将軍は時間稼ぎをしているらしい。リゼが開戦回避できないかを追加で質問した。
「進行ルートをわざとカービル帝国経由にする予定です。上手くいけばワールドン王国との衝突は避けられるかと」
ふむふむ。進行ルートで戦争回避できるってのが分からないけど、なるべく平和がいいよね。
あれ?アルとリゼは驚愕の表情を浮かべていた。なんで?
「……フェグレー将軍は死ぬお覚悟ですか?」
「はい。私もフェグレー将軍も、命を賭してワールドン様との対立を回避する所存です」
あれ?平和に解決かと思ったら死ぬ覚悟とか穏やかじゃない会話がやり取りされていて、正直言って僕は焦燥感を覚えた。
リゼが更に追求している。
「あの、ストロー宰相殿は今回の親善大使ではないのですか?まさか……独断ですの?」
「国としての使者ではありませんよ。私の肩書きなど飾りですらないです」
「……あれ?僕の認識が間違ってなければ、宰相って結構偉い身分だよね?」
ストローは悲しげな笑みを浮かべ、そっと答えた。
「私は謹慎の身です。それに今回の接触はトカプリコ元帥には漏れてるでしょう。国に戻ったら待ってるのは処刑です」
「そんな危険を犯してまでなんで来たの!?」
「ワールドン様へ謝罪したかったのです。それに国民全てが悪い訳では無いと知って頂きたかったのです」
そう言ってストローは深く頭を下げた。
僕は【伝心】で読み取ってみたけども、彼は本気だった。ストローとフェグレーの2人の命だけで、この悲劇を食い止めたいと真剣に願っていたんだ。
(こ、こんなの僕の手にあまるよ!)
僕は立ち上がってマイティを見た。マイティは全てを察して、すぐに伝令を出してくれたよ。僕は座り直してから、ゆっくりとストローに告げる。
「君達のような優秀な人が死ぬ事はないよ」
「ワールドン様、寛大な御言葉……感謝致します。御慈悲は私ではなく罪のない国民にお与え下さい」
「ストロー宰相、僕の提案を聞いて欲しいんだ。ギルドマスターにこの件の判断を仰ぎたいと思ってる」
聞き覚えがないのか「ギルドマスター?」と言葉を聞き返すストロー。
アルは悔しそうに眉を顰め、リゼは安堵したように眉尻を下げた。
アルには申し訳ないけど、僕もリゼに賛同するよ。この件はルクルに頼るべきだよ。
リゼは簡単にギルドマスターの説明をしている。
「君主と同等以上の権限ですと!?」
「間違ってないね。僕より優先される事が多いしさ、それにザグエリ王都の一件は……」
……コンコン。
僕の発言をノックが遮った。
衛兵と共に、ルクルが入室してくる。
「こちらのギルドマスターの指示でやった事なんだ」
ワドはゴシップ好きです。
特に人の恋バナは、下手したらスイーツよりも好きかも知れない感じです。
つまりバレたらしつこく揶揄われます。
次回は「建設ラッシュへの追い風」です。




